祝福擬きで行く先を決めたのは間違っていただろうか


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作:刈刈シテキタ刈
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第15話【Hand in hand】


 

 

 

 物音一つしないエントランスを、フェイドは一人歩く。眠りこけるフィルヴィスを背負いながら。

 豊饒の女主人での一幕から数十分後。フェイドはディオニュソス・ファミリアのホームへと帰って来ていた。

 

 あの店での酒盛りは数時間に及んだ。既に日付は変わっており、他の団員達は寝静まっている。

 この痴態を目撃する者が誰一人として居ないのは、フィルヴィスにとっては不幸中の幸いだろう。

 

「………………」

 

 などと、思っていると。

 

「おかえり、二人とも」

 

 待ち構えていたのかと言いたくなるタイミングで、ディオニュソスが出迎えてきた。

 ゆったりとした歩調で螺旋階段を降り、フェイドの前まで歩み寄ってくる。

 

「無事に帰ってきてくれて、本当に良かった」

 

 ディオニュソスの相貌に浮かんでいるのは安堵の表情。至って普遍的な、眷属の帰還を喜ぶ神の反応だ。

 フェイドの背中で酔い潰れているフィルヴィスに気付くと、彼は苦笑をこぼす。

 

「それで、どうだったんだい? 初めての遠征は」

 

 その様子だと、問題なさそうだが。ディオニュソスはそう言い、今回の遠征の結果について尋ねてきた。

 

「………………」

 

 未確認のモンスターと赤髪の怪人による強襲。理性を持った異端のモンスターとの遭遇。ギルドの手先と思しき人物からの追跡。

 フェイドの脳裏をよぎったのは、それらの出来事。後半の二つはともかく、最初の件については確認を取らなければならない。

 

「誰かに俺の素性を話したか」

 

 返答次第では殺す。という思考を内に秘めながら、フェイドは質問に質問で返す。

 27階層にて襲撃してきた赤髪は、明らかにこちらの素性を把握していた。

 情報の出所が有るとするならば、真っ先に挙げられるのはディオニュソスだったのだ。

 

「──────」

 

 淡々とした声音を皮切りに沈黙が訪れる。冷ややかな夜の風によって、エントランスの窓が音を立てながら揺れる。

 

 やがて、淡々とした言葉に対して向けられるのは、硝子のように透き通った瞳。

 胸の内を見透かすかの如く、ディオニュソスはフェイドを見据えてきた。

 

「……君も、初めて会った時から少し変わったな。そんなに怖い目で睨むようになるとは」

 

 心臓、喉笛、眉間。【黒き刃】をディオニュソスの該当部位へ抜き放てるよう、フェイドは照準を合わせる。

 

「まあ待て。その質問に答える前に、君には幾つか聞いておきたい事がある」

 

「………………」

 

 フェイドの殺意を悟ったのか、ディオニュソスは一定の距離を保ちながら手で制止する。

 

「君は、このオラリオ……延いてはこの世界について、どう思っている?」

 

 そして、数ヶ月の間過ごしてきた、この世界の印象について尋ねてきた。

 

「平和だ」

 

 人のような感情を有する神々が、下界に降り立ち人と同じ様に生活をする世界。特段、それ(平和)以外に出てくる感想は無い。

 人のごとき、心持つ神を【完全律】によって取り除こうとした金仮面卿がこの世界を見たならば、卒倒するかもしれないが。

 

「もしも、その平和を脅かす者が現れたとしたら?」

 

「勝手にすればいい」

 

 フィルヴィスとの冒険は、たとえこの世界が滅んだとしても問題なく行える。

 寧ろ、冒険という単語を広義的に解釈するならば、そちらの方が丁度良いとすら言える。

 

「では……この世界の行く末には、相変わらず興味も無いという事か」

 

「ああ」

 

 正義も悪も、秩序も混沌も、人も怪物も、思う存分好き勝手に殺し合えばいい。

 相手が如何なる者であろうとも、こちらの邪魔をするならば殺すだけだ。

 

「………………」

 

 お前もそうするならば、同じように殺す。そういった意味合いの視線を、目の前に立つディオニュソス()へと向ける。

 

「だったら、丁度良い機会かもしれないな……」

 

 何度かの質問を終えて、ディオニュソスはそう呟く。普段の微笑みは鳴りを潜めているものの、彼の面持ちは何処か飄々としていた。

 

 そのまま、緩慢とした動作でフェイドに歩み寄って来る。断頭台に自ら首を差し出すような行為を、彼は平然とやってのける。

 

「私はね、この下界は───」

 

 そして、ディオニュソスが口を開いた瞬間。

 

 

 

 フィルヴィスの拳がフェイドの真横を通過。

 

 

 

「───是正されるべぎらっ!?」

 

 

 

 そのまま、彼女の妖精的殴打が、ディオニュソスの顔面に炸裂した。

 間抜けな悲鳴と共に、彼はエントランスの床に沈む。鈍い音がエントランスに響く。

 

「………………」

 

 仰向けに倒れたディオニュソスを見下ろすと、鼻血を垂らして失神していた。

 このような状態では、先程の言葉の続きは聞き出せないだろう。

 つま先で小突いて反応を窺うが、復活する兆しは見えない。

 

 背負っているフィルヴィスを見やると、腕を伸ばしたまま脱力している。

 まいなですぱんち。などという不可解な単語からして、彼女の寝相の一つなのだろう。

 軽く揺さぶって反応を窺うが、目を覚ます気配は感じられない。

 

「………………」

 

 このエントランスにおいて、意識を保っている唯一の者として取り残されてしまった。

 そんなフェイドは、ディオニュソスにとどめを刺すべきか否かについて思案する。

 

 まず、この一件で最も大きな損害を被ったのは、赤髪に殺されたフィルヴィスである。

 彼女は死という事象に対して抵抗を覚えており、心身共に深い傷を負ったと思われる。

 もしもフェイドが共同墓地に来なければ、今もあそこで立ち尽くしていただろう。

 

「………………」

 

 そんなフィルヴィスが、黒幕と思しきディオニュソスへの制裁として、一発の拳だけで済ませたのだとしたら。

 この場でこの神に【黒き刃】を突き立てる行為は、彼女の意に反するかもしれない。

 

 フェイド自身は然程の被害を受けておらず、ディオニュソス自体が襲撃の実行犯ではない事。

 フィルヴィスはディオニュソスの信奉者であり、他ならぬ彼女が握り拳で制裁を加えた事。

 

 以上の点を考慮したうえで、フェイドは今回に限って見逃すと決めた。

 もう一度似たような襲撃に見舞われた際に、問答無用で殺せば良いと判断した。

 

 そのまま、フェイドはフィルヴィスを背負い直して再び歩き出す。床に転がるディオニュソスを跨いで素通りしながら。

 

 

 

 翌朝、起きてきた団員がこの光景を目撃して大騒ぎとなったのは、また別の話。

 

 

 

━━━━━━━━━─────────

 

 

 

 そうこうしている内に、フェイドは廊下の突き当たりにある部屋の前に辿り着く。

 此処は、フィルヴィス・シャリアという名の荷物の配達地点である。

 

 扉を開けば、フェイドを迎えたのは如何にもエルフが好みそうな室内だった。

 棚やテーブル、寝具を含めた家具は全て木造。部屋の各所には、木の実や花を模った魔石灯。

 部屋の中に居るというのに、森の中に居るかのような錯覚に陥りそうになる。

 

「………………」

 

 このような室内を形成したのは、郷愁の念によるものか。はたまた、彼女の趣味によるものか。

 どちらにせよ、フェイドが持ち合わせていないものなので、要らぬ勘繰りは程々にしておく。

 

 そのまま、フェイドはベッドに腰掛けてフィルヴィスを降ろした。

 これにて配達完了。荷物は無事に目的地へと送り届けられた。

 

「………………?」

 

 かと、思われたが。フェイドは背中に違和感を覚え、後ろを向く。

 そこに居るのは、安らかな寝息を立てながら眠っているフィルヴィス。

 何故かは知らないが、ベッドに横たわらずにしがみついたままだった。

 

「………………」

 

 フェイドは手首を掴んで引っ張る。だが、フィルヴィスの手は離れない。

 

「………………」

 

 フェイドは隙間に指を通して抉じ開けようとする。しかし、フィルヴィスの腕は剥がれない。

 

「フィルヴィス」

 

 フェイドは身体を揺すり声を掛ける。されど、フィルヴィスの意識は目覚めない。

 

「んううぅぅ…………」

 

 それどころか、腕を深く交差させて密着してきた。フェイドの首が絞まる事などお構いなしに。

 

「──────」

 

 【拒絶】。衝撃波を発する祈祷によって、フィルヴィスを吹き飛ばす。

 という選択肢もあるのだが、彼女と一緒に部屋の家具を吹き飛ばしかねないので控えておく。

 

「………………」

 

 やがて、小一時間程度の悪戦苦闘の末。

 

 フェイドは考える事を放棄した。

 

 ベッドから腰を上げたのちに扉へと向かい、部屋を後にする。背中にしがみつくフィルヴィスは放ったらかしにしたまま。

 

 腕の力(筋力12)では勝てず、冴えたやり方(知力9)は思い浮かばず、祈祷(信仰75)は使えず。そんな状況下で、抵抗を続けるのは無意味と判断した故の行動である。

 

 何よりも、決められた時間に寝て起きるという言いつけを、このままでは破ってしまう。

 それはフェイドの望むところではない。故に、拘束の解除よりも睡眠を優先した。

 

「………………」

 

 そうして、フェイドは寝る為に自室へ向かった。ずるずると、フィルヴィスという名の拘束具を引き摺りながら。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 窓から差し込んだ光に刺激を受け、フィルヴィスは目を覚ます。瞼を擦りながら、徐に体を起こす。

 

「………………?」

 

 少しずつ像を結んでゆく視界。しかし、周囲に広がる光景は、自分の部屋とは異なっていた。

 見慣れぬ空間、という訳ではない。最低限の家具が設置された、この生活感皆無な室内はフェイドの部屋である。

 

 何故、どうして。という疑問の前に、フィルヴィスは自身が寝そべっていた場所に違和感を覚える。

 

 

 

 見下ろすと、そこに居たのは、フェイドだった。

 

 

 

 フィルヴィスが跨っていたのは、フェイドだった。

 

 

 

「──────っ!?」

 

 咄嗟に口を押さえて、フィルヴィスは悲鳴を封じ込める。そのまま、機敏な動作で彼から離れた。

 

「はっ……は、はっは……は、はっ……!?」

 

 飛び跳ねる心臓と荒れ狂う呼吸、その他諸々を落ち着けようとする。

 だが、それらはフィルヴィスの意思に反して盛大に暴れ散らかしていた。

 

「ふ、ふー……ふー……ふっ……ふー……」

 

 この動悸を鎮める為にも、何としても突き止めなければならない。昨晩、この部屋で何があったのか。

 気を抜けば溢れ出しそうになる絶叫を、辛うじて喉の奥に留めながら、フィルヴィスは身の回りを検めた。

 

 先ずは、自分の状態から。昨晩と同じ状態の白装束。着ている衣服が乱された痕跡は無い。

 不自然な発汗は動揺によるもの。若干頭痛がするが、それ以外は平常そのものである。

 

 次に、ベッドの上の毛布は敷かれたままの状態。汚れは一切見受けられず、清潔を保っている。

 ある程度掃除の行き届いた部屋からして、フィルヴィスの言い付けを律儀に守っているらしい。

 

 そして、最後。この部屋の持ち主であるフェイドの様子はというと。

 

「………………」

 

 微動だにせず、ベッドに突っ伏していた。さながら、そういった形の置物のように。

 彼の格好は普段の黒装束ではなく、寝巻きと思しき粗末な布の服。

 倒れ込むようにして寝たのか、顔が枕に埋まっており呼吸が出来ているかも定かではない。

 

 結論。フィルヴィスが想像する、そういった行為の痕跡は全く見受けられなかった。

 フェイドは彼女に指一本手出しせず、見向きもせずに眠りについたのだ。

 更に付け加えると、おそらくこの状況を生み出したのは、昨晩酒に溺れた酔っ払い(自分)である。

 

「………………」

 

 時間の経過に伴い、昨晩の記憶を思い出したフィルヴィスは、両手で顔を覆った。

 勝手に酔っ払って、勝手に勘違いをした。そんな自分に身悶えした。

 

「………………いや」

 

 悪いのは自分だけではないだろう。一頻り悶絶したのち、フィルヴィスはそんな言葉を呟く。

 自力で帰れなくなる程に酔ったこちらにも非はあるが、部屋に連れ込むような横着をした彼も同罪なのだと。

 

 だというのに。何故、自分だけがこうも心を掻き乱されているのか。何故、彼だけは呑気に眠りこけているのか。

 覚醒、混乱、煩悶という過程を経て、フィルヴィスの胸中に憤りという名の火が灯る。

 

 そこからの行動は迅速だった。フェイドへと手を伸ばし、フィルヴィスは肩を掴んでひっくり返す。

 彼が枕によって窒息死していないか心配だったので、気道の確保も兼ねて。

 

 だが、それなりの勢いで裏返ったにも関わらず、フェイドは目覚めなかった。

 壁際に置かれた振り子時計と同じように、規則的な寝息を立てている。

 

「………………」

 

 そちらがその態度ならば、こちらも然るべき対応を取るまで。フィルヴィスは眦を吊り上げ、追撃を開始する。

 

 頬をつつき、脇腹をくすぐり、耳たぶを引っ張り、鼻をつまむ。

 しかし、思い付く限りの悪戯をするが、フェイドは身動き一つしない。

 鈍感、此処に極まれり。夢の世界に旅立った彼を叩き起こすには、この程度では不足らしい。

 

「はぁ…………──あ」

 

 深海めいた眠りの深さに呆れ果てるが、それと同時にフィルヴィスは気付いた。

 ここまでの暴挙を受けて尚起きないのならば、もう何をしても良いのではないかと。

 続けて、ベッドの上に投げ出されたフェイドの手と、自身の手を交互に見やる。

 

 そうして、数秒間の逡巡の末。

 

 フィルヴィスは、彼の手を取った。先程までとは打って変わり、恐る恐る、遠慮がちな挙動で。

 

 自分のものとは違う、節くれ立った手。一見すると華奢だが、確かな力強さがその手には有る。

 彼はこの手で武器を握り、この手で立ちはだかる敵を殺し、この手で道を切り開いてきたのだ。

 昨日語られた狭間の地の冒険に、何の嘘偽りも無い事が彼の手からは読み取れた。

 

 まだ足りない、もっと知りたい。更なる欲求が、フィルヴィスの中で顔を覗かせる。

 しかし、その欲求を満たすには、邪魔な物が一つだけあった。

 

 それは、フィルヴィスが今の今まで肌身離さず付けていた手袋。ずっと拒み続けた他者との接触から、フィルヴィスを守ってきた最後の結界。

 

 それを、フィルヴィスは躊躇いながらも外す。そうして、布一枚分の隔たりを取り除いて、深呼吸したのち。

 

 もう一度彼の手に触れた。

 

「──────」

 

 思いのほか暖かい。直接彼の手に触れた感想は、彼の淡白な印象に反したものだった。

 血の通っていない、陶器めいた手触りを想像していたが故に、フィルヴィスは少し狼狽える。

 

 それでも、フィルヴィスの手は止まらなかった。肌をなぞり、手を握り、指を絡める。

 手袋越しでは到底味わえない感触を、拒絶してきた他者との触れ合いを、フィルヴィスは堪能する。

 

「………………ふふ」

 

 可笑しかった。今まで睡眠はおろか食事すらも要さなかった彼が、こうも無防備な寝顔を晒している事が。

 嬉しかった。死んでいるように生きているとさえ思った彼が、確かな熱を持つ存在であると知れた事が。

 

「…………お前は、気付いていないんだろうな」

 

 ───理由など無い。俺は最初からこうだった。

 

 無理矢理与えられた役割と漂白された記憶。壮絶な旅路と酷烈な死闘。数え切れぬ敗北と極僅かな勝利。

 その果てに待ち受けていたのは、縁もゆかりも無い土地への追放。

 そんな、自身の置かれている境遇が、どれ程までに悲惨なのかを。

 

 ───これからも、フィルヴィス・シャリアと冒険する為だ。

 

 雨に濡れそぼった、死者の眠る墓地。小高い丘に生えた大樹の木陰。

 失意の底に沈む死に損ないに、何も言わずに寄り添い続けて、淡々と発した意思表示。

 擦り鳴らすような抑揚の失せた言葉が、どれ程までにこちらの心を揺さぶったのかを。

 

 ───俺の使命は、まだ続いているのか。俺は、まだ必要とされているのか

 

 たとえ、与えられた使命が終わったのだとしても。

 

 お前を必要とする者が、此処に生まれた事を。

 

「………………」

 

 浅ましいと思う。神への盲信に亀裂が入った途端、こうして彼に縋り付いてしまうのは。

 卑怯だと思う。未だに自身の全てを語っていないというのに、彼の全てを知りたいと思うのは。

 

 それでも、フェイドは穢れたこの身を異物として拒絶しなかった。

 ましてや、穢れたこの身を憐れんだりするような真似もしなかった。

 ありのままを、在るがままを。当然のものとして受容してくれた。

 

 最早、彼だけなのだ。何の屈託も無く、胸を張って仲間と呼べる存在は。

 最早、不可能なのだ。今この手で触れている奇跡を、みすみす手放すなど。

 

「フェイド…………」

 

 囁くような声音で彼の名前を呼びながら、彼の手を両手で包み込む。そのまま、自らの頬に添えた。

 少し硬い、戦ってきた者の手のひら。自分のものよりも大きなそれに、フィルヴィスは心地良さを覚える。

 

「………………」

 

 いっそ、隣で二度寝してしまおうか。そんな誘惑がフィルヴィスの脳裏をよぎった。

 昨晩泥酔したまま眠ったのだから、寝相によるものとでも言い訳すれば良い。

 あの酒場で無様な姿を晒した以上、上塗りする恥が無いというのも後押しをしていた。

 

 しかし、頭を振ってフィルヴィスはその誘惑を払い除ける。名残惜しさを覚えつつも、フェイドの手を置いて立ち上がる。

 昨晩は酒に逃げてしまったが、今後の身の振り方について考えなければならない。彼と一緒に惰眠を貪る余裕は無かった。

 

「──────」

 

 扉に手を伸ばしドアノブに触れたところで、フィルヴィスは違和感を覚える。

 

 その手は、素肌を晒したままだった。

 

「───ああ、大事な物を忘れていた」

 

 自らの手を見つめたのち、ベッドの上に放り捨てた手袋を拾う。

 身に纏った白装束に相反するかのような黒。その色は、彼女にとっての戒めである。

 そうして、それを両手に付け直し、フィルヴィスは今度こそ部屋を立ち去った。

 

 欲しいものは、たった一つだけ。それは、フェイド・ストレンジアと共に歩む未来だ。

 その為ならば、どれだけこの手を黒く汚したとしても構わなかった。

 

 

 

 それこそが、フィルヴィス・シャリアの。

 

 

 

 壊れかけの少女の、切実な願いだった。

 

 

 





今更ですが、筆者は激重な感情を持ってるキャラが好きです。
突然そうなるのではなく、その感情が表出するまでの過程が丁寧であればあるほど更にグッド。
そういった心理描写を詰め込みすぎると物語全体のテンポが悪くなるので、素人である筆者には匙加減が難しいところですが。

読んでいただきありがとうございました。
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