光を無くした赤緋の瞳を、色を無くした瞳で見つめ返す。
熱を無くした身体を、行き場を無くした両手で抱える。
「………………」
事切れた少女を無感動に眺めながら、フェイドはふと思い出した。
これまで自分が関わってきた者達は、その悉くが死んでしまったのだと。
ある者は、フェイドの預かり知らぬところで、何者かに殺された。
ある者は、袂を分かち敵対者となって、自身の手で殺した。
ある者は、決して再会が叶わないような、何処か遠くへ行った。
ある者は、黄金樹を燃やす為の種火となった。
狭間の地の彼らと同じように、彼女も死んだ。呆気なく、悲鳴の一つすら上げずに。
「………………」
しかし、彼女の死によって、此処に一つの証明が成された。
フィルヴィス・シャリアは、他者に死を招く妖精などではなかったのだという証明が。
他の誰でも無い、自分こそが死を招く者だった。
そして、そんな自分が為すべき事は一つ。
死を招く者として、彼女を殺した敵を殺す。
ただ、それだけの事である。
「──────」
徐に、対象に照準を合わせる。亡骸を地面に横たわらせたのち、【炎術のロングソード】と【カイトシールド】を構える。
腰まで伸びた赤髪。こちらを見据える緑色の双眸。所々が傷んだ
その手に携えているのは、生物の血肉を流し込んで鋳造したかのような禍々しい長剣。
これから殺す対象の特徴を、フェイドは目に焼き付ける。
「……怒りもせず、嘆きもせず、悔やみもせず、憎みもせず。仲間の死を目にしても尚、眉一つ動かさない。奴から話は聞いていたが、お前は余程の人でなしらしい」
よく気が合いそうだ。臨戦態勢へと移行したフェイドに対して、赤髪の女はそんな事を呟きながら姿勢を低くする。
「──────!」
反応出来たのは、偶然だった。間近に迫った紅い剣先を、左手の盾で防ぎながら、微かに目を見開く。
そして、瞬きの間に距離を詰めてきた赤髪が、続け様に長剣を振るえば。フェイドの防御は容易く崩れた。
大きく仰け反ったフェイドの頬に、容赦の無い回し蹴りが打ち込まれる。
弾き飛ばされて地面を何度か跳ねたのち、直線上にあった水晶が身体を受け止めた。
「Lv.5と同等……もしくはそれ以下、といったところか」
ほんの数回の攻防でフェイドは理解した。
「解せないな。この程度の男に、何故奴があれ程まで固執する?」
この敵を、初見で撃破する事は至難であると。
「………………」
先程の一撃によって顔の骨格は半壊。崩れた眼窩から潰れた目玉が零れ落ち、抉れた頬から奥歯の破片が落ちてくる。
それらを一切無視しながら、フェイドは立ち上がった。そのまま、持ち替えた【黄金樹の聖印】で【大回復】を発動し傷を癒す。
「……試す価値はあるか。くだらない茶番に付き合ってやった甲斐があったのか」
依然、その殺意に揺るぎ無し。再び構えを取ったフェイドに対して、赤髪は不敵に笑う。
そんな彼女目掛け、返礼と言わんばかりに【雷の槍】を投げ放った。
「──────!」
鮮血が飛び散り、雷鳴が響く。
【ラダゴンの肖像】の効果によって素早く放たれた雷は不意を突き、赤髪の脇腹を抉る。
そして、間髪入れずに投擲した追撃を、彼女は身を捩って回避した。
躱すという事は、通用するという事。フェイドがそう判断し、更に雷槍を放とうとした瞬間。
「無詠唱どころか、言葉すら発さない魔法とはな」
それに先んじて体勢を立て直して疾駆し、赤髪はフェイドを射程圏内に捉えた。
横薙ぎに振るわれた刃が、腹を裂く。逆袈裟に振り上げられた刃が、耳を切り飛ばす。
だが、とどめとして繰り出された刺突は、転がる事によって辛うじて避けた。
いつ落ちるとも知れぬ綱渡り。気の赴くまま、強者が弱者を甚振る蹂躙。それ以外に、この戦いを形容する言葉は無かった。
「………………」
いつも通りの事である。
寧ろ、今までが温すぎたのだ。フィルヴィスの援護が無くなった途端、吹けば飛ぶような命なのだ。
この身を刈り取らんとする斬撃を、フェイドは寸前のところで凌ぎながら再認識する。自らの命の軽さを。
「ちょこまかと───」
赤髪の相貌に苛立ちが混じり始めた瞬間、フェイドは直剣に内蔵された戦技を発動。
「──────」
戦技、【炎撃】。大上段に得物を構えた事により、無防備となった胴体。そこを目掛けて炎を放つ。
追撃。扇状に揺らめく灼熱をなぞるかのように横薙ぎに剣を振るう。鋭い刀身は炎を纏い、赤髪の身体を切り裂いた。
「───ちっ!」
そして、迸る一閃に蹈鞴を踏んだ彼女へと、フェイドは雷槍を連続で投擲する。
第一射、着弾。第二射、防御。第三射、回避。
大きく飛び退いた相手の動きに合わせ、【聖杯瓶】で
そして、再度切り結ぼうとした直前。フェイドは足を止めた。
「………………」
敵の間合いの一歩手前で武器を構えたまま、様子見に徹する。
何故ならば、それに足る現象が目の前で起こっていたから。
傷の修復をしていたのは、フェイドだけではなかったから。
【雷の槍】によって抉られた脇腹が、【炎撃】によって切り裂かれた胴体が、時間を巻き戻すかのように再生してゆく。
蒸気めいた粒子が立ち上り、フェイドが与えた傷をゆっくりと塞いでゆく。
この異様な自己治癒能力は、
フェイドの直感は告げていた。こちらを人でなしと呼んだ彼女こそ、人ならざる者なのだと。
「そう不思議に思うな。声すら発さずに魔法を行使するお前も大概だろう?」
「………………」
然もありなん。そもそも、相手が何者であろうと為すべき事は何一つとして変わらない。
再生の間も与えぬ程の連撃で切り刻むか、許容を超える程の一撃で屠るか。
目の前に居る人型の怪物を殺す方法が、現状二択に絞られただけだ。
尤も、そうするだけの隙は見当たらないのだが。
腹を殴り抜かれて宙を舞いながら、フェイドはそのように思う。
再生を終えた赤髪が繰り出した殴打は、軽々とフェイドの身体を吹き飛ばした。
その勢いは凄まじく、切り立った峡谷を越えて対岸にまで及んだ。
落下が始まると同時に、フェイドは盾を地面へ向けて構える。
そのまま、左腕から受け身を取り、慣性を利用して即座に転がる。
「──────」
直後、フェイドが居た位置を狙って剣が突き立てられた。
「───勘の良い奴め」
顔を上げれば視界に入るのは、ゆっくりとこちらに躙り寄る赤髪の姿。
もしも倒れ伏したままだったならば、その時点で勝負は決していただろう。
そして、赤髪が地を蹴ると同時に戦闘が再開される。一秒たりとも、フェイドに息をつく間も与えずに。
駆け巡る紅き剣閃、飛散する赤き血潮。当初、フェイドが予期した通りの一方的な展開が繰り広げられる。
力は及ばず、技は至らず。攻防の折々で反撃すれども、忽ちの内に敵の傷は癒えてしまう。
交錯を繰り返す度に、消耗するのはフェイドだけ。最早、敗北を喫するのは時間の問題。
「どうした、もう終わりか?」
終わりを察知したのか、赤髪は長剣を振るいながら問いかけてくる。もう、為す術は無いのかと。
彼女の言葉に返事をするだけの余力は、今のフェイドには残されていなかった。
「………………」
しかし、口を閉ざしたまま攻撃をやり過ごす無様な姿が物語っていた。
続行の意を。戦意は、まだ潰えていないのだと。
「そうか。だが、私は飽きた」
さっさと死ね。無慈悲な一言を吐き捨て、赤髪の攻勢は苛烈さを増してゆく。
ちっぽけな塵芥を排除せんと、彼女は攻撃に比重を傾ける。
少しずつ、死が足音を立てて迫り来るかのような絶体絶命の窮地。
だが、それでも尚、フェイドの双眸は寸分も濁らず。淡々と対象の
「無駄だ」
「諦めろ」
「足掻くな」
「いい加減、終われっ───」
そして、命を穿たんと唸りをあげる剣尖。決着の一撃が、フェイドを串刺しにする。
その直前。
「──────」
光芒一閃。黄金の軌跡が斥力を伴い、迫り来る剣を払い除けた。
飛び散る火花。消えゆく光。赤髪の双眸が驚愕に見開かれる。
あまりにも唐突に訪れた窮地は、彼女の思考を置き去りにした。
戦技、【黄金パリィ】。左手の盾に内蔵された、起死回生の一手。
褪せた瞳は、虎視眈々と窺っていたのだ。存在しない隙を生み出せる瞬間を。
褪せた瞳は、虎視眈々と待ち構えていたのだ。この身を刺し貫かんとする
赤髪が姿勢を立て直すよりも早く、フェイドは前へと踏み込む。
瞬時に持ち替えた【炎術の慈悲短剣】を、彼女目掛けて突き出す。
「づっ──────!?」
そのしなやかな切先は、皮膚を突き抜け、肋骨の隙間を通過し、赤髪の心臓を貫いた。
これは、捕食者が被食者を追い詰めるだけの一方的な狩りに非ず。
互いが互いの命を屠らんと、全霊を尽くすべき死闘である。
それを、致命の一撃が証明した。
「ごっ……ぶっ……ふっ……」
真紅が堰を切ったように吹き出す。身に纏った黒装束を赤く汚す。
湿った音と共に地面へと滴り落ちる血の量は、生じた傷の深さを雄弁に物語っていた。
「………………」
手応えあり。そのまま、短剣を引き抜こうと柄を握り直した瞬間。
「───成……程な。確かに、お前は、危険だ」
フェイドの視界は反転する。背中から後頭部にかけて、凄まじい衝撃がフェイドを襲う。
腕を掴まれ、地面へと叩きつけられた。フェイドが現状を理解するのに、数秒の時間を要した。
そして、その数秒間の空白は。この戦いの勝敗を決める猶予としては十分過ぎた。
「死、ね」
血反吐混じりの一言と同時に、鳩尾へと赤髪の得物が突き刺さる。
「───、───、………、………」
更に、ダメ押しとして剣を捻って傷口を広げられた事により、フェイドは完全に沈黙した。
「…………はあっ……はあっ」
漸く動きを止めた敵を見下ろし、突き刺さった短剣を抜き取ったのち、赤髪は荒い呼吸をしながら口元を拭う。
時間の経過と共に心臓を穿った傷は塞がり、失血は治まった。だが、胸の内に充満する敗北感は消えなかった。
赤髪が勝者となった理由は、たった一つ。針の穴を通すかのような妙技によって、心臓
あと数
取るに足らない雑魚。そのように赤髪が侮っていた者は、とんだ格上殺しだったのだ。
「ちっ…………」
いずれにせよ、野放しにしておけない。あの小賢しい神の言葉に従うようで癪だが。
赤髪は息を整えてから、自らの得物を引き抜く。血溜まりに沈むフェイドへと手を伸ばす。
そうして、27階層の広間にて勃発した死闘は、襲撃者の勝利によって終わった。
所詮、フェイド・ストレンジアという名の褪せ人は、死んでも蘇るだけの凡夫に過ぎない。
己の実力を超えた初見の強敵を打ち倒すなど、どだい無理な話だったのだ。
しかし、赤髪の手が触れる寸前。天井に生えた石筍から一滴の雫が垂れ落ち、フェイドの頬を微かに濡らした。
今際の際、生者が死者の為に流す、【惜別の涙】のように。
直後。
「──────」
地面に投げ出された左手が、虚空から取り出した聖印を握り締めた。
黄金の粒子が湧き出し、沈黙した筈の身体を浮かび上がらせる。
そして、束の間の再起動を果たしたフェイドは、畜力を開始した。
「〜〜〜〜〜〜っっっ!!!
収束。
明滅する視界の中、フェイドは眺める。戦慄した赤髪の形相を、飛び退きながら何かを呼び寄せる必死の絶叫を。
励起。
朦朧とした意識の中、フェイドは思う。これより消し飛ばす者の今際の際は、存外つまらないものだと。
解放。
刹那、周囲を【黄金の怒り】が包み込んだ。それは、
轟音と共に地形は崩壊し、震動によって大河は氾濫する。黄金の光が、何もかもを滅却する。
「──────」
その光が消失したのち。瓦礫混じりの激流の中へと、フェイドの姿は消えて行く。
本来ならば、あの一撃で
疑問の答えを出せぬまま、力尽きた身体を瓦礫が押し潰す。
そうして、
赤い光が、仄かに辺りを照らす大空洞。未到達領域と呼ばれる前人未到の空間に、その異形の広間は形成されていた。
天井や床、壁面を覆う剥き出しにされた肉のように蠢く何か。何処か遠くで響く脈動音と金切り声。
それは、さながら巨大な生物の体内とも呼称すべき、惨憺たる様相である。
『………………』
常人ならば留まる事すらも厭う空間。そこに、悠然と佇む一柱の神が居た。
紫紺のローブに漆黒のケープ。顔のみならず様々な箇所に飾られた仮面。
周囲の光景も相まって、邪神と呼んでしまっても差し支えの無い風体の神は、ある一点に視線を注ぐ。
彼の視線が向く先には、肉壁の一部に表出した青白い水膜。
その向こう側に映し出されているのは、水煙漂う大瀑布。27階層である。
神は何も言わずに黙々と眺める。27階層の拓けた空間で、黒装束の男と赤髪の女が切り結ぶ光景を。
彼我の実力差は明白。黒装束の男に勝機は無い。それは、最初の攻防で思い知らされただろう。
だというのに、彼は一切の躊躇も無く戦いに臨んだ。さながら、炎に向かう蛾のように。
そして、赤髪の女に一矢報いてみせた。彼女の慢心を、その心臓ごと貫いてみせた。
しかし、惜しい。尋常の生物ならば心臓こそが弱点だが、彼女は生憎とそれらの外に位置する怪物なのだ。
神の予想をなぞるかのように、彼女からの反撃に対処出来ず、彼は地面に磔にされてしまう。
『まあ、こんなものか───』
概ね予想通りだったが、ある程度は見応えのある闘争だった。そう思いながら、神が視線を外そうとした瞬間。
『──────』
神は目撃した。黄金の粒子を身に纏い、一人でに浮かび上がる彼の姿を。
そして、彼を起点に光が瞬いたかと思えば。水膜は、轟音と共に白く塗り潰された。
『おおっ…………!』
やがて、光が止んだ先に広がる光景を見て、神は思わず歓声を漏らす。
跡形も無かった。谷や崖といった地形は、一様に瓦礫の山と化していた。
衝撃波によって薙ぎ払われ、崩れ落ちた破片が河川や湖に落下し、その度に水柱が立つ。
水の楽園と呼ばれる程に壮大だった景色は、たった一人の手によって災害の爆心地へと変貌してしまった。
『ふふ……はははは……!!』
仄暗い空間に、哄笑が響く。
新しい玩具を与えられた幼子のように、神は興奮のまま身を躍らせる。
その拍子で、彼のそばに置かれたグラスが倒れ、地面へと落下した。
甲高い音を立ててグラスは砕け散り、その中身をぶち撒ける。
それは、血のように鮮烈な色合いの葡萄酒だった。芳醇な香りを漂わせる至高の一品が、窪みに水溜りを形成してゆく。
『………………』
そんな狂喜の最中にある神の様子を、誰の口に入る事もなく無為に撒かれた葡萄酒を、背後で眺める者が居た。
身を包むのは紫紺のローブ。顔を覆い隠すのは不気味な紋様の仮面。
自らの素性を徹底的に封じ込めるかのような装いは、密使を想起させる。
『………………何故、アノ男ニ
やがて、様々な肉性が入り混じった声が、神に対して発せられた。
その歪な声音からは、性別はおろか感情すら読み取れない。
『あ? ああ……別に、私が見たかったという以外には、これといった理由はないさ』
『………………』
『計画を破綻させかねない者が現れた。いい具合におびき寄せるから始末してくれ。そう言えば、二つ返事で了承してくれたよ』
ずっと穴倉に籠るばかりだったから、退屈していたのかもしれない。神はそう言い、仮面の人物へと向き直った。
『イットキノ気マグレデ彼ト敵対シ、コチラノ戦力ヲミスミス手放スナド───』
『───手放したつもりなど無い。恐らくだが彼女は生きている』
『……根拠ハ?』
『ああそうか、微笑ましいな。彼に夢中で気付かなかったのか』
あの黄金が炸裂する直前、彼女は咄嗟にあるものを呼び寄せた。彼女の同胞とも呼ぶべき
それらは、即席の盾となって彼女の身を守ったのだ。十中八九、五体満足ではないだろうが。
だが、核さえ無事ならば、彼女は確実に生き延びる。その生存能力は、
『どうでもいい前置きはそのぐらいにして、本題に入ったらどうだい?』
『………………貴方ハ、アノ男ヲ……彼ヲ、ドウシタイノデスカ』
神の言葉を受け、仮面の人物は俯きながら問うた。あの異分子の処遇について。
計画を阻む障害として排除するならば、27階層はうってつけの場所だ。
彼の死体に重りでも乗せて滝壺へと沈めてしまえば、二度と浮かんで来ないだろうから。
しかし、迅速に手を打たなければ復活されてしまう。そうして何処かに消えてしまわれたら、この襲撃も元の木阿弥だ。
だからこそ、次なる一手を。仮面の人物の問い掛けには、そういった意味が含まれていた。
『………………ふぅむ』
顎に手を当てて、神は今後の行動を思案する素振りを見せる。
冗長に、たっぷりと間を置き、仮面の人物を焦らすかのように。
神は見抜いていた。紫紺のローブの下に隠された身体が、緊張で強張っている事を。
力なく降ろされた両手。その指先がほんの僅かに震えている事を。
次に発する神の言葉が、これからの道筋を左右する。それを理解しているからこそ、仮面の人物は戦々恐々と待ち構えているのだと。
棄却か、懐柔か。はたまた放逐か。彼の行く末は、如何なるものになるのか。
やがて、散々待たせた挙げ句。神はあっさりと口を開いた。
『それを決めるのはお前だよ。だから、好きにしなさい』
選択はお前の手に委ねる。
そう言った途端。
『っ──────』
仮面の人物は一瞬息を呑んだのち、身を翻してその場から離れた。
フェイド。あの男に与えられた、仮初の名を漏らしながら。
間断なく響く跫音が、鼓膜を揺らす。瞬く間に遠ざかってゆく背中を見送りながら、神は愉快そうに目を細める。
『誑かされたと言うべきか、誑かしたと言うべきか』
神は、この戦いを以って確信した。愛しい我が巫女は、悍ましいあの不死者の狂乱に火を点ける種火となると。
神は、この戦いを以って確信した。悍ましいあの不死者は、愛しい我が巫女の狂乱を燃え上がらせる薪となると。
神が引き起こそうと画策する
どちらでも良い。どちらでも見たい。目的さえ果たせれば、そこに至る過程など些細なものなのだ。
『………………くくっ』
水膜に映る27階層の光景。崩れた地形から生じた瓦礫の山に、神は夥しい数の死体の山を幻視する。
果たして、その山の頂点に立つのは誰か。
神の双眸は、まだ見ぬ未来に思いを馳せ、爛々と輝いていた。
漏れ出る声を覆い隠すように、何処からか響く慟哭めいた怪音が、大空洞を揺らした。