エルデの王は迷宮で夢を見るか?


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作:一般通過あせんちゅ
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お誘い


 闇商人との取引を始めて数日後、ギルドの裏路地から闇商人の手引きでダイダロス通りまで歩いてきたミストは、先日相対した格好のまま再び商人と対面していた。

 

「……これは?」

「潜ってきた」

 

 机の上に乱雑に置かれた魔石とドロップアイテムを見て、商人は自分の背中を汗が流れていくのを感じていた。闇派閥(イヴィルス)からの情報で、数多くのドロップアイテムや深層に湧き出るモンスターの魔石を知っている商人は、目の前に乱雑に置かれているガラクタの如き山が、深層域のものであると理解できてしまっていた。

 

(初めて出会ったのは2、3日前だぞ。ということは、目の前のこいつはたった3日程度で深層まで行って、この数のモンスターを蹂躙して無傷で帰ってきたってか? そんなこと……猛者(おうじゃ)でも)

 

 オラリオに来たばかりと言っていた人物が持ってきたとは思えないアイテム群を前に固まっていた商人は、なんとか作り笑いを浮かべて目の前の人物を見つめた。

 

「……確かに契約内容通りのものです。魔石は適正価格の6割ほどで買い取らせていただき、ドロップアイテムは実際に私が売った時についた売値の6割でよろしいですね?」

「それでいいよ」

 

 これほどのアイテムを手に入れながらダンジョンに対して全くの無知識。つまり、相手はダンジョンで襲い来る理不尽の全てを事前知識無しで全て粉砕したのだ。幾らか金蔓にしてから、必要なくなった後に始末しておこうと考えていた商人だが、彼は目の前の相手を闇派閥や都市最強の二大ファミリアよりも恐ろしい者であると認識して、有用であると取り入ろうと考えを切り替えた。

 

「これほど多くの魔石を、いきなり納品してくださるのならば、次回からは適正価格の8割程度で買い取りましょうか?」

「いいのかい? 君の取り分が少なくなってしまうよ?」

 

 当然、ミストは商人が裏取引にしても魔石の価格をかなり少なめに見積もっていることぐらい気が付いている。商人も、気付かれていることを知りながら、未だに気が付いていない猿芝居を続けているのだ。ただ、商人はミストを恐れ、ミストは何に対しても恐れを持っていない、という単純な話である。

 

「私は商人ですから。貴方様の実力を考えて未来への投資とするのですよ」

「へぇ……別にいいけど。邪魔したら消すだけだから」

 

 ミストは、この時初めて商人に対して戦士としての側面を見せた。武器も構えず、身体を動かしている訳ではないが、さっきまでと違い今は襲い掛かられる前にカーリアの魔術を放つことができる。明確に殺気と言えるほどの意識は向けていないが、商人にはミストの言葉が嘘には聞こえなかった。

 

(とんでもない化け物に話しかけちまったらしいな……だが、庇護下に入れるのならば怪物の方が好都合だ)

 

 闇派閥とも通じることで近年、急速に商売規模を広げている自分のことが、ギルドやオラリオの治安維持をしている【ガネーシャ・ファミリア】に知られてしまうかもしれない未来が存在する。そうなった時に、目の前の人物は秩序よりも利害を取る。商人は確信していた。

 

「これからも御贔屓に、と言いました。貴方様の邪魔はいたしませんよ」

「そう」

 

 会話しながら用意していた魔石の六割分の代金を手渡した商人に対して、ミストは興味なさ気にその場を離れた。

 

「金がいっぱいだね。いっそのこともうちょっと稼いで、家買った方が良かったかも?」

「人気のない廃屋の方が私は好みだがな」

「じゃあ今のままでいいか」

 

 元々、人の寄りつけないカーリア王家の館を盾に、自らの魔術師塔から出てくることのなかったラニにとって、人が多いオラリオの住宅街に住むくらいならば周囲が廃墟の廃屋に静かに佇んでいる方が性に合っている。

 

「内装は相談しながらね」

「本だけで充分だ」

 

 


 

 

「ん? ラニ、もうすぐお祭りがあるらしいよ」

 

 まとまった金を手に入れたことで廃屋の壊れていた壁と屋根を修理したミストは、端っこに置いてある椅子に座りながら紙を見ていた。オラリオの歴史やダンジョン、冒険者などの知識を得るために本を読んでいたラニは、伴侶の声を聞いて目線を上げた。

 

怪物祭(モンスターフィリア)だって……なにをするのかな?」

「【ガネーシャ・ファミリア】とやらがダンジョンのモンスターを捕獲、オラリオ内にある闘技場でモンスターを調教(テイム)する様子を娯楽として見せる、と書かれていた」

「おー……」

 

 まだ本を買ってそれほど時間が経っていないにもかかわらず、しっかりと知識として吸収しているさまを見て、ミストは感心していた。狭間の地で幾多のデミゴッドを打ち砕いてきたエルデの王だが、彼女の基本的な戦略は死なないことを利用した、勝てるまで繰り返すゴリ押しである。ミストの知能が低い訳ではないが、カーリア王家のデミゴッドとして生まれ、黄金律に選ばれた神人たるラニとは比べるべくもない。

 

「それで、その祭りがどうかしたのか」

「楽しそうだから、ラニも一緒に見て回らない?」

「…………まぁ、いいだろう」

 

 ミストの言葉を聞き、頭の中では断る言い訳が瞬時に複数浮かび上がってきたラニは、それらを全て思考の彼方へと投げ捨て、己の伴侶たるミストとのデートを選択した。そんな一瞬の逡巡など気付きもしなかったミストは、てっきり断られると思っていたデートの誘いに、ラニがしっかりと乗ってくれたことに嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 





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