コートジボワールの西の最果ての地・ダナネから、さらに西の方を望むと、深い山々が連なる地域になる。そして、その向こうにはリベリアがある。リベリアやシエラレオネに起こった内戦の厄災は、この山々を越えて、コートジボワールの西部地域に運ばれてきた。西部地域は、その悪影響をまともに受けて、荒廃した。
前にご紹介した、「アラーの神に義務はない(Allah n'est pas obligé)」という小説は、このコートジボワールの西部地域に住み、隣国の内戦に巻き込まれた少年が、少年兵となって人生を無駄に過ごすさまを、描き出している。主人公の少年は、母親を失った後、孤児になったので、リベリアに住む叔母のところを訪ねることにする。その方面に出かける用があった、ヤクバという呪術師に連れられて、リベリアへの旅に出る。
少年の運命を通じて、リベリアという国がたどった、過酷な内戦の経緯が、分かりやすく描かれている。コートジボワールのすぐ西隣で、何が起こっていたのかを知るために、この小説のその後の顛末を、第一章に引き続きご紹介したい。
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「アラーの神に義務は無い(第二章以下)」
アマドゥ・クルマ作
部族の間の戦いがある、というのはつまり、盗賊どもが国の分捕り合戦をするということだ。資源や、領地や、人々の分捕り合戦である。リベリアでは、4人の盗賊の首領が居た。ドー、テイラー、ジョンソン、コロマの4人だ。他にも、小者の盗賊が沢山いた。
盗賊の首領のもとで、少年兵たちは、別に給料を貰っているわけではない。村を襲って、村人たちを殺し、値打ちのありそうな物を持って行く。それだけだ。持って行った物を、売って金にする。まあ、二束三文でも売れればいい。だから、テレビも二束三文、ダイヤモンドも二束三文、金塊も、四駆車も、カラシニコフも、みんな二束三文だ。
二束三文を狙って、国の外から商人どもがわんさかやって来た。一袋の米、石鹸、一瓶の石油、ドル札、それさえ持ち込めば、二束三文で物が買えた。そのままギニアやコートジボワールに持って行けば、高く売れて大儲けである。
リベリアに向かう僕たちの車を先導して、警護のバイクが先を走っていた。でもタラララ、タラララ、と機銃の音がした。武装したバイクの2人は、血まみれになって、たちまち死んでしまった。後ろの車に乗っていた僕たち皆、それぞれの神様や守護霊の名前を唱えた。少年兵たちが、カラシニコフを撃ちながら、飛び出してきた。僕たちの車を取り囲み、叫んで言った。
「車から降りろ。手は上に挙げて。」
降りてきた僕たち一人一人を掴んで、少年兵たちは、髪の毛をほどき、靴を脱がせ、衣服を剥いだ。耳飾りも首飾りも、剥ぎ取った。男も女も素っ裸にされたあと、とっととどこかに消えろ、と命じられた。皆、素っ裸のまま、森に逃げ込んで行った。
ところが、ヤクバは裸にされることを拒否した。俺は呪術師だ。グリグリ・マンだ。分かるか。グリグリとは、呪術師が体中にぶら下げているお守りである。しかし、少年兵は構わず、ヤクバを裸にした。ヤクバはそれでも叫んでいた。俺は呪術師だ、グリグリ・マンだ。
僕の順番が来た。僕は叫んだ。
「少年兵、少年兵、僕は少年兵になりたいんだ。」
僕も構わず裸にされた。少年兵は僕の尻に、銃を向けた。おしっこをちびりそうになった。糞までしたくなった。
僕の隣の女性、いや母親は、死んだ赤ちゃんを抱いていた。先ほどの銃撃の流れ弾があたったのだ。着物を脱げと言われても拒否して、私の赤ちゃん、私の赤ちゃんといって泣き叫んでいた。少年兵は構わず、母親を裸にした。僕も一緒になって、少年兵になりたい、少年兵になりたい、こんちくしょう、と叫び続けた。
「黙れ」と命じられて、僕たちは黙った。森の中から、四駆が現れた。少年兵たちがいっぱい乗っていた。彼らは戦利品を、車に積み込んだ。その車は、荷物を運ぶため、彼らの村まで、何度か往復した後、ふたたび現れた。今度は、パパ大佐が乗っていた。
(続く)
前にご紹介した、「アラーの神に義務はない(Allah n'est pas obligé)」という小説は、このコートジボワールの西部地域に住み、隣国の内戦に巻き込まれた少年が、少年兵となって人生を無駄に過ごすさまを、描き出している。主人公の少年は、母親を失った後、孤児になったので、リベリアに住む叔母のところを訪ねることにする。その方面に出かける用があった、ヤクバという呪術師に連れられて、リベリアへの旅に出る。
少年の運命を通じて、リベリアという国がたどった、過酷な内戦の経緯が、分かりやすく描かれている。コートジボワールのすぐ西隣で、何が起こっていたのかを知るために、この小説のその後の顛末を、第一章に引き続きご紹介したい。
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「アラーの神に義務は無い(第二章以下)」
アマドゥ・クルマ作
部族の間の戦いがある、というのはつまり、盗賊どもが国の分捕り合戦をするということだ。資源や、領地や、人々の分捕り合戦である。リベリアでは、4人の盗賊の首領が居た。ドー、テイラー、ジョンソン、コロマの4人だ。他にも、小者の盗賊が沢山いた。
盗賊の首領のもとで、少年兵たちは、別に給料を貰っているわけではない。村を襲って、村人たちを殺し、値打ちのありそうな物を持って行く。それだけだ。持って行った物を、売って金にする。まあ、二束三文でも売れればいい。だから、テレビも二束三文、ダイヤモンドも二束三文、金塊も、四駆車も、カラシニコフも、みんな二束三文だ。
二束三文を狙って、国の外から商人どもがわんさかやって来た。一袋の米、石鹸、一瓶の石油、ドル札、それさえ持ち込めば、二束三文で物が買えた。そのままギニアやコートジボワールに持って行けば、高く売れて大儲けである。
リベリアに向かう僕たちの車を先導して、警護のバイクが先を走っていた。でもタラララ、タラララ、と機銃の音がした。武装したバイクの2人は、血まみれになって、たちまち死んでしまった。後ろの車に乗っていた僕たち皆、それぞれの神様や守護霊の名前を唱えた。少年兵たちが、カラシニコフを撃ちながら、飛び出してきた。僕たちの車を取り囲み、叫んで言った。
「車から降りろ。手は上に挙げて。」
降りてきた僕たち一人一人を掴んで、少年兵たちは、髪の毛をほどき、靴を脱がせ、衣服を剥いだ。耳飾りも首飾りも、剥ぎ取った。男も女も素っ裸にされたあと、とっととどこかに消えろ、と命じられた。皆、素っ裸のまま、森に逃げ込んで行った。
ところが、ヤクバは裸にされることを拒否した。俺は呪術師だ。グリグリ・マンだ。分かるか。グリグリとは、呪術師が体中にぶら下げているお守りである。しかし、少年兵は構わず、ヤクバを裸にした。ヤクバはそれでも叫んでいた。俺は呪術師だ、グリグリ・マンだ。
僕の順番が来た。僕は叫んだ。
「少年兵、少年兵、僕は少年兵になりたいんだ。」
僕も構わず裸にされた。少年兵は僕の尻に、銃を向けた。おしっこをちびりそうになった。糞までしたくなった。
僕の隣の女性、いや母親は、死んだ赤ちゃんを抱いていた。先ほどの銃撃の流れ弾があたったのだ。着物を脱げと言われても拒否して、私の赤ちゃん、私の赤ちゃんといって泣き叫んでいた。少年兵は構わず、母親を裸にした。僕も一緒になって、少年兵になりたい、少年兵になりたい、こんちくしょう、と叫び続けた。
「黙れ」と命じられて、僕たちは黙った。森の中から、四駆が現れた。少年兵たちがいっぱい乗っていた。彼らは戦利品を、車に積み込んだ。その車は、荷物を運ぶため、彼らの村まで、何度か往復した後、ふたたび現れた。今度は、パパ大佐が乗っていた。
(続く)
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