白昼から夕暮に差し掛かる頃合い。太陽の傾きに伴って、白亜の塔から武装した人々が溢れ出て来る。
それは、ダンジョンから帰還した冒険者達。次々と数を増す人混みは、波のような流れを形成し、思い思いの方向に進んでいた。
そんな、分厚い雑踏の中を縫うようにして歩いているのは、黒ずくめと白ずくめの二人組。褪せ人とフィルヴィスだ。
トレントによる移動時間の短縮は、その日の内の帰還を可能にしたのである。
「………………」
「………………」
賑やかな街の様相と相反するかのように、二人の間には沈黙が張り巡らされている。
ダンジョンを登っている最中、フィルヴィスは頃合いを見計らって質問を繰り返していた。
しかし、褪せ人の回答があまりにも端的だったため、早々に情報の取得を諦めたが故の沈黙である。
そうこうしているうちに、二人の足取りは目抜き通りから外れ、煉瓦塀に囲まれた建物の前に差し掛かる。
先導していたフィルヴィスが立ち止まる。それと同時に顔を上げると、そこには大規模な洋館があった。
無表情で建物を見上げる褪せ人を尻目に、彼女は鉄柵の門を通り抜けて敷地内に入って行く。
後に続いたその先には、建物と同様に広々とした前庭。一定の間隔で設置された花壇には、色とりどりの花々が植えられていた。
「………………」
しかし、それらの規模とは裏腹に、彼女を出迎える者は一向に現れなかった。
もぬけの殻という訳では無い。寧ろ、屋敷は人の気配で満ちている。
つまるところ、誰一人としてフィルヴィスに話しかける者が居ないのだ。
その代わりとして向けられるのは、好奇と怪訝を混ぜ合わせたかのような視線。肩を寄せ合い小声で何かを囁いている。
「……余所見をするな。大人しく付いて来い」
足を止めて屋敷の人々を観察していると、フィルヴィスがそのように促してくる。
自分たちに向けられる視線や囁き声に対して、彼女は特に気にした様子はない。
ならば、放って置いても良い事なのだろうと考え、褪せ人は再び歩き出した。
エントランスを通り抜け、螺旋階段を登り、絨毯の敷かれた廊下を進む。
そして、突き当たりにある扉の前でフィルヴィスは立ち止まった。
「先にお前の処遇について判断を仰ぐから待っていろ。……くれぐれも、そこから一歩も動くなよ?」
「………………」
言われるまでも無い事なので、返事をする必要も無い。褪せ人は閉口したまま壁に背を預けた。
その沈黙を了承と受け止め、フィルヴィスは手の甲を扉に向けてノックをする。
「──────」
直前で手を止めた。
そして、何をするのかと思えば。翻って窓ガラスの前に立ち、そちらに生じた鏡面で身嗜みを整え始めた。
襟元を正し、前髪を手櫛で揃え、衣服に着いた埃を払う。そんな動作を、フィルヴィスは念入りに繰り返している。
「………………」
神の居室を目前にして待ちぼうけ。だが、褪せ人は彼女を急かすような真似はしなかった。
言われた通りに一歩も動かず、文句の一つも言わず。大人しく待機する。
真贋がどうであれ、あの扉の向こうには彼女が神と仰ぐ者がいる。
故に、それ相応の礼儀を尽くすのは当然なのだろうという考えから、褪せ人は黙って待っていた。
彼女の礼儀に倣うつもりは、一切無いのだが。
やがて、満足の行く結果が得られたのか、フィルヴィスは一息入れながら窓から離れた。
「………………っ!」
それと同時に、背後から向けられた視線に気付く。褪せ人の視線とフィルヴィスの視線がぶつかり合う。
「………………ごほんっ」
暫しの間を置いて、後者から発せられる咳払い。その吐息に含まれているのは、若干の気恥ずかしさと居た堪れなさ。
そのまま、褪せ人の視線に晒される状況を厭ったのか、フィルヴィスはそそくさとノックをして扉を開き、入室して行った。
「………………」
自分一人だけ取り残された所で、褪せ人は前に向き直る。そうして、時間を潰す事に意識を割いた。
「私の名はディオニュソスという。このファミリアの主神をしている者だ」
「………………」
「君についての話は、彼女から色々と聞かせてもらったよ」
暮れゆく西日に照らされた豪奢な室内。様々な調度品に彩られた其処は、この部屋の主の高貴さを物語っている。
そのような空間に、目立たない黒ずくめの褪せ人は酷く場違いだった。
だが、そんな事は気にも留めず、褪せ人は声の主を観察する。
神。
目の前の男が発した言葉の真偽を確かめるように、頭頂部からつま先まで視線を上下させながら。
「………………」
目と耳が二つずつ。鼻と口が一つずつ。二本の腕を有し、二本の足で直立し。整えられた金髪に、貴族めいた衣装に身を包んでいる。
その背丈も含めて、おおよそ人間との相違は見受けられない。
褪せ人の不躾な態度にも気を悪くした様子は無く、ディオニュソスは柔和な笑みのまま。
彼の側に控えるフィルヴィスは、若干眉間に皺が寄っているが。
「………………」
これは、神を騙る大法螺吹きだ。などと、目に見える限りの情報だけが判断材料ならば、そう思っていただろう。
しかし、褪せ人は感じ取っていた。微弱ながらも、確かにそこにある神威を。
これまでに相対し屠ってきた半神達と、自らを狭間の地から追放した神と似たような気配を。
どれだけ人間に酷似した姿形をしていても、これは神である。褪せ人はそう結論づけた。
「エルデンリング、という物に聞き覚えはあるか」
神である事が分かった。であれば、回りくどいやり取りは不要。褪せ人は開口一番に問い掛ける。
褪せ人が今まで大人しく付き従っていたのは、神に対してこの質問をする為だった。それだけの為にわざわざ引き返して来たのだ。
「ふむ……残念ながら、そのようなものは私も聞いた事が無い───」
「───そうか」
回れ右。これで用件は済んだ。情報が得られないと分かるや否や、褪せ人は早々に話を打ち切る。欲しかったのは、その一言だけ。
全知全能である筈の神すら知らない。つまり、此処は狭間の地の外ですらない正真正銘の異界。それが分かっただけでも、褪せ人からすれば収穫だった。
さっさとあの地下世界に戻って、探索を続行しよう。
「………………?」
しかし、扉に右手を伸ばしたところで左腕を掴まれる。振り返れば、視界に映るのはフィルヴィスの顰めっ面。
褪せ人風情が。不遜であろう。
言葉を発さずとも、彼女の感情がありありと伝わってくる。ストームヴィルの城主たる
軽く引っ張ってみるものの、彼女の手は微動だにせず。それどころか、握る力が徐々に強くなり始めた。
「………………」
華奢な見た目にそぐわぬ膂力。
【拒絶】で吹き飛ばすか【炎術のロングソード】で断ち切るか。フィルヴィスの拘束を振り払う手段について、褪せ人は考える。
「へえ……」
そんな、諍いが勃発しそうな状況にも関わらず、ディオニュソスはその光景を興味深そうに見ていた。
特に注視しているのは、褪せ人の腕を握るフィルヴィスの手。
「まあ待ってくれ。この邂逅を無駄と断じるのは少々判断が早いんじゃないか」
「………………」
「君はまだ幸運だよ。君を見つけたのがフィルヴィスでなければ、今頃どうなっていた事やら。……ほら、いい加減離してやりなさい」
「っ………………」
ディオニュソスに諌められ、フィルヴィスは逡巡したのちに手を離した。褪せ人の背後、扉側に回り込んだのはせめてもの抵抗か。
最悪、窓から脱出すれば良いだろう。館からダンジョンまでの逃走経路について思案しつつ、元居た位置に戻る。
話を聞く姿勢になりながらも、視線の向き先は開かれた窓の外。
そんな、逃げる気満々の褪せ人の様子に、ディオニュソスは苦笑した。
「ははは……自分がどれだけ稀有な存在なのか、君にはその自覚が無いようだな」
誰も知らない土地からやって来て、誰も知らない品々を持ち、誰も知らない力を行使する。
未知の探究者である冒険者や既知に飽きた神からすれば、それは垂涎ものの存在。
だからこそ、ディオニュソスは褪せ人の今後を憂いているのだという。
「誰も知らない秘密とは、味わった者全てを虜にする甘露だ。もしも君の秘密の一端に触れれば、人であろうが神であろうが挙って君を暴こうとするだろう。それこそ、どんな手を使ってでも」
「そうか」
「……動じないな。ある程度は把握しているんじゃないのか。この迷宮都市がどれだけの戦力を保有しているのかを」
オラリオ。それこそが、褪せ人が【祝福擬き】の導きによって訪れた都市の名前である。
世界の中心とさえ呼称されるこの場所には、古来より数多の神々が降臨してきた。
彼らはファミリアという派閥を築き、そこに集った人々を自らの眷属にして競わせている。
怪物が際限なく溢れてくる迷宮。ダンジョンの探索を始めとした様々な分野で。
異なる派閥が存在する以上、決してこの都市は一枚岩ではない。
百人百通りの理由を胸に、冒険者達や神々は日々鎬を削り合っている。
「君の行動次第で、彼等は容易に障害となるんだぞ?」
だが、各々の利害が一致すれば、この都市は世界最強の共同体となる。
そして、褪せ人の存在は利害が一致する理由となり得ると、ディオニュソスは述べた。
「俺は構わない」
障害を排除する為に、どれだけの月日を費やそうが。
そんな彼に対して、褪せ人は平坦な声音で告げる。都市という大規模な仮想敵に対しての、徹底抗戦の意を。
「……勝てる前提なんだな」
「ああ」
障害となる敵は数え切れない。されど、命の数は有限。こちらはたった一人。されど、命の数は無限。
ならば、連日連夜休む事なく襲撃を続ければ良い。どれだけ負けようが、勝つまで気長に続ければ良い。
同じ事を繰り返し、死んで覚えて。褪せ人はエルデンリングに至った。至っただけで、手にする事は出来なかったが。
「……良ければ教えてくれないか。どうして君は此処にやって来たのか。何度も何度も負けては死んで、それでもダンジョンに挑み続けるのは何故なのか」
巨万の富や世界に轟く名声を求めるような、俗物的な人物には見えないが。ディオニュソスはそう言い目を細めた。
嘘偽りは決して見逃さない。そういった彼の眼差しを受け、褪せ人は顎に手を当てて考え込む。
何故か。それを、一言で表すならば。
「惰性だ」
他にやる事が無いから、そうしているだけ。これまでもそうしていたから、これからもそうするだけ。
「だ、惰性……?」
「ああ」
「じ、じゃあ、目的は無いのか? 富や名声以外にも色々あるだろう。更なる力を得て強敵と戦いたいだとか。地底の奥深く、前人未到の階層まで行きたいとか」
「無い」
明確な目的など持ち合わせてはいない。偶々【祝福擬き】が指し示した方角に有ったものだから探索していただけだ。
最下層に至り、得られるものは無いと判断したのなら。直ぐに引き返して次を探すだろう。今この瞬間と同じように。
富や名声は言うまでもなく不要。力や探究に関しても同様に求めてはいない。
神殺しを成せる程度の力は既に有しており、ダンジョンの謎を解き明かす必要性も感じていない。
探索の副産物として獲得することもあるだろうが、それ自体を目的とするには弱過ぎる。
祝福の導きが喪われた今。褪せ人を動かしているものは、これまでの行動の反復なのだ。
狭間の地へと至る手掛かりが得られれば僥倖。褪せ人にとってのダンジョンとは、その程度の存在である。
「つまり、邪魔だと判断したのなら……この迷宮都市に名を轟かせる英傑や神々を、惰性で殺すという事になるが。その先には何の目的も無いというのに」
「ああ」
にべもなく頷くと、ディオニュソスは今度こそ面食らった。
狂っている。
そんな一言を、掠れるような小さな声で漏らしながら。
「………………」
それきり、発言する者が居なくなり、重たい沈黙が室内に漂う。
入れ替わるようにして、外から聞こえてくる街の喧騒が空間を微かに揺らした。
話の終わりを感じ取った褪せ人は、扉から出ようか窓から飛び降りようか、部屋の退出方法について考え始める。
「……一つ、提案させてくれ」
近道になりそうなので、やはり窓から飛び降りるか。そう思い、動き出そうとしたところで沈黙が破られた。
「君、私のファミリアに入らないか?」
破ったのは、他ならぬディオニュソス自身。
彼の口角は上がっていた。
爛々とした感情の色が、その瞳には滲んでいた。
「これまでの言動から察するに、ずっとそうやって進み続けていたんだろう? 来る日も来る日も、休む間も惜しんで」
「………………」
「その果てに、この迷宮都市に行き着いた。これには何かの意味があるのではないかと私は思う」
「俺を抱え込もうとする理由は何だ」
意味などありはしない。全ては【祝福擬き】の匙加減の結果である。そんな思いと共に、抑揚の失せた声で心意を問う。
褪せ人の質問に対して、ディオニュソスは顎に手を当てて考え込んだ。そして、数拍の間を置いて言い放つ。
「娯楽だ」
先程の褪せ人の発言を真似るかのような、淡白な返答を。
「……というのは、半分冗談」
だが、効果はいまひとつ。褪せ人の鉄仮面は、全くもって微動だにしなかった。
若干残念そうに眉尻を下げながら、ディオニュソスは早々に揶揄う事を諦めて己の意図を明かす。
「本当のところはフィルヴィス……彼女の事が心配でね。今のところ特に目的がないと言うのなら、君には彼女の仲間になって欲しいんだが……」
「……ディオニュソス様」
しかし、続く言葉をフィルヴィスの一声が遮った。褪せ人が部屋を訪れて以来、初めての発言だった。
「貴方のご厚意はありがたく思いますが、私に仲間など必要ありません。それが、惰性に甘んじた者であるのなら尚更」
そんな者に、預ける背中など有りはしない。褪せ人を睨み付けながら、フィルヴィスは横に並んでくる。
赤緋。色環の暖色系に該当する色合い。だが、彼女の眼差しが湛えているのは、色の区分とは対極的な氷点下。
「………………」
当の本人が拒むのであれば、勧誘を受ける意味など無い。そして、この場に留まる意味も。
「だったら、どうして彼と接触した? 身の危険を冒してまで彼を引き留めようとしたのは何故なんだ?」
などと、褪せ人が思った矢先。ディオニュソスはフィルヴィスに対して詰問する。理路整然とした口調で、一方的に捲し立ててゆく。
「そ、それは───」
「───あまつさえ、私のもとまで彼を連れてきてしまった。この世界の生命の摂理に反した、得体の知れない存在だというのに。私を見た瞬間、出会い頭に襲い掛かってくるとは思わなかったのか?」
「っ………………!」
本人を差し置いて物騒な話をしているが、褪せ人は理性を持つ者に自分から戦いを仕掛けるような真似はしない。
敵意の有無、要否など、ある一定の基準を満たした場合にのみ牙を剥くのである。
正気を失くした亡者の類であれば、先手を取るために問答無用で斬りかかるが。
「………………」
果たして、それに該当する人型はオラリオに居るのだろうか。そんな事を考えながら突っ立っていると、ディオニュソスはフィルヴィスに対して更に畳み掛けた。
「そうするだけの価値を、お前は彼に見出した。けれど、自分で決められなかったから私に選択を委ねたんだろう? 或いは、言い出す勇気が無かったのかもしれないな?」
彼を、自分の仲間にしたいと。
問い掛けながらも確信を持った言葉に、何も返す事が出来ず。そのまま、フィルヴィスは俯いて黙り込んだ。
反論が途絶えたところで、ディオニュソスは褪せ人に向き直る。溜息を吐きながら話を戻す。
「と、このように排他的な性格なんだ。当然、他の団員とも折り合いが悪くてね。私もどうにか仲を取り持とうとはしているものの、今日に至るまで一人ぼっちというわけさ」
「………………」
屋敷の人々の視線はそういう意味だったのかと、褪せ人は内心で納得する。
今まで孤独を貫いてきた彼女が、来客を連れて来た事が余程珍しかったのだろう。
「だが、本来ならば彼女はこんなところで燻っているような器じゃ無い。心強い仲間さえ居れば、もっと先に進める」
単独でダンジョンに潜る行為には大きな危険が伴う。故に、冒険者達は徒党を組むのが不文律である。らしい。
だというのに、その不文律にフィルヴィスはたった一人で歯向かっているようだ。
そして、それを為せるだけの実力を持っているが故に、ディオニュソスは更なる躍進を望んでいるのだと。
「是非とも君には、その心強い味方になって欲しいんだが……」
「………………」
「もし仮にこの提案を断ったとしても、君の正体を周りに吹聴するような真似はしないと約束しよう。不滅の君から恨まれるのは、まっぴらごめんだからな」
紡がれる言葉とは裏腹に、ディオニュソスの声音は褪せ人に対しての期待を含んでいる。
しかし、何が琴線に触れたのかは知らないが、神の戯れに付き合う趣向など持ち合わせてはいない。
「俺はどちらでもいい」
だからといって、拒む理由も無いのだが。
この話を受けて神の庇護下に入れば、迷宮都市を不自由なく闊歩出来るかもしれない。しかし、ダンジョン探索は滞る。
この話を断り孤軍奮闘を貫けば、ダンジョンの最下層まで直ぐに辿り着けるかもしれない。しかし、冒険者と敵対する可能性が高まる。
どちらを選んでも、結局のところは一長一短。わざわざ選ぶ必要が無い。狭間の地に至る手掛かりが皆無である現状を思えば、余計に。
「……自分の進退に関わる事なんだから、少しは考えたらどうなんだ」
迷う素振りすら見せず、選択を放棄した褪せ人に対して、フィルヴィスは八つ当たりとばかりに噛み付く。
そんな彼女へ、褪せ人は人差し指を向けた。
「だったらお前が決めろ」
「…………は?」
「俺を見つけたのはお前だ」
唐突に告げられた言葉に、フィルヴィスは思わず素っ頓狂な声を漏らした。
己を受容し、共にダンジョンに挑戦する為の仲間とするか。
己を排斥し、今日起こった出来事を何もかも忘れてしまうか。
褪せ人が彼女に対して突き付けたのは、そのような二択。
「ディ、ディオニュソス様……」
フィルヴィスは狼狽えた。放り投げられた決定権を持て余し、縋るような面持ちでディオニュソスへ顔を向ける。
だが、彼は何も答えずに微笑むばかり。この話の渦中に居るのは、他ならぬフィルヴィス自身。故に、彼女が決めるというのは順当な流れだった。
「………………」
無機質な、色褪せた瞳が突き刺さる。どちらが選ばれるのか。その時を淡々と待ち構えている。
黄昏時。地平線に沈みゆく太陽と入れ替わるように、窓の外から小さな明かりが次々と点灯しだす。刻一刻と、夜の闇は近づいて来ていた。
けれど、この選択は、時間の流れのように過ぎ去ってはくれない。選ばなければ、話は先に進まず停滞したまま。
共感、反感、羨望、嫉妬、期待、不安。
息を吐いて、褪せ人を拒む理由を数える。息を吸って、褪せ人を受け入れる理由を数える。
「私は……私は──────」
そして、心の中の天秤が傾いた瞬間。フィルヴィスは意を決して口を開いた。