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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

夢を動かす(1)

2009-10-29 | Weblog
自分たちの農業の近代化をはかり、生産性を向上したい。農作物を商品化して、市場に出せるようにしたい。そして農産品販売により現金収入を得て、村の生活改善を果たしたい。それがアワさんが設立し、その組合長を務める協同組合「デオ・グラシアス」の、大きな夢である。「デオ・グラシアス」は、ギトリ(Guitry)というアビジャンから200キロ離れた町を中心に、66の村落をとりまとめた。現在すでに、2018人の婦人と若者たちが組合員として登録されている。

アワさんたちは、ただ夢を抱いただけではない。夢の実現に向けて動いた。まず、土地の所有権と、したがって使用権を持っている、村々の土地の長たちに、話を付けに行った。だいたいが、村の長老などというのは、根が保守的である。女性が働いて収入を得て、自立を考えるなどということには拒否反応をするものなのである。

ところが、そこをアワさんは説得した。婦人たちや若者たちが、耕すための土地を提供してほしい。話を聞いて、保守的な村の長たちも、乗り気になった。そして、それぞれの村で余っている未開墾地を、それなら耕してみなさいと提供した。合計、2960ヘクタールにもなった。女性一人あたり、1ヘクタール余りの土地が用意されたことになる。

次いでアワさんは、ここのイスラエル大使に話をもちかけた。イスラエル大使を村に招待して、協同組合の活動について紹介した。大使はアワさんの熱意に動かされ、話はイスラエルからの技術協力、つまり、組合の運営についての協力につながった。イスラエルには、キブツという伝統的な共同体がある。そこから、農業協同組合の専門家が来て、「デオ・グラシアス」の若手たちに、組合の運営方法と、農業技術の研修を施した。

そして、そのイスラエル大使が、私のところに相談に来た。
とても活動的な女性がいて、協同組合を立ち上げた。村では、キャッサバ芋や米やトウモロコシなどが豊かに実るのに、とても貧しい。そうした農作物を、適切に加工して商品化すれば、都会の市場で売れる。キャッサバ芋ならば、粉砕して澱粉質をパスタ状に加工する(アチェケという)。米やトウモロコシなら、脱穀・乾燥させる。

そうして加工すれば、現金化できるのだ。現金収入さえ確保されれば、あの貧しい農村にも生活向上の機会が開かれる。「デオ・グラシアス」は、得た収入で子供の栄養失調対策、女性の識字率向上、エイズ予防、保健衛生向上など、おおくの社会活動を行うのだ。イスラエル大使は、アワさんの夢を、自分の夢であるように語った。

耕作するための土地はあるし、技術研修まではした。しかし、いざ農地開発をしようにも、農業機械など必要な機材を提供することができない。日本が手伝うことが出来ないか。イスラエル大使は、私にそう頼んだ。面白そうじゃないですか、と私は即座に答えた。

そして、今からほぼ1年前の昨年10月に、現地の農村を視察に行った。そこで見た農業は、たしかに農耕機械も殆どなく、すべて手作業・肉体労働の伝統的なものであった。しかし、土地は豊かな緑であったし、地元の若者たちや、とりわけ女性たちには熱意があった。だから、うまく近代化を図れば、きっといい成果が出るに違いない。

そして、アワさんたちの夢は、イスラエル大使の夢になって、私のところに来て、私の夢にもなった。よしこの夢の実現に、ひとつ一肌脱いでやろうではないか。そして私のところで、具体的な検討を始めた。

(続く)

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