ようこそ、と門が開いて出迎えてくれたのは、村のご婦人がたが十数人。「ケルナファ(Cernafa)」という、女性たちの集まりである。生活改善運動というと大袈裟だけれど、彼女たちはこの屋敷に、子供たちを連れて気楽に集まってきて、身近なところで生活の工夫を実践している。青年海外協力隊員の原田唯(ゆい)さんが、村落開発普及員として、彼女たちの活動のお手伝いをしている。私は原田さんの活動を見せてもらいに、ニジェールの首都ニアメから60キロ走って、ジョガ村(Djoga)までやってきた。
子供たちがわっと集まってきた。広場を囲んで、土塀に藁葺きの軒が並ぶ。敷地の奥からは、メエエと山羊の鳴き声。鶏の親子が地面を走り回っている。そして、足元に体中を丸く膨らませた七面鳥がやってきた。私の前を行き来して、どうも自分がここの家の主であると言わんばかりである。傍らに座って、子供の髪を結いあげているご婦人もいる。この飾らない、普段着の様子がいい。
リーダーのマリアマさんの案内で、敷地の中を案内してもらう。まずは、玉ねぎの乾燥小屋である。中には、ニジェール特産、紫色の玉ねぎが、たくさん並べてある。村で収穫する玉ねぎを、そのまま売りに出すのではなくて、ここで上手に保管して市況を見て売り、村の収入を少しでも増やす工夫である。
隣の建物には、料理のためのかまどがある。
「この辺りでは、石を3つ置いた中に薪を燃やし、上に鍋をかけて煮炊きをするのが普通なのですけれど、こうして周りを粘土で囲んだかまどにするだけで、必要な薪の数が格段に減るのです。」
ここの女性たちは、手近なところでいろいろな工夫を重ねている、と原田さんの説明。建物に置いてある寝台には、マラリア蚊を防ぐための蚊帳が、ちゃんとかかっている。玉ねぎの売り方といい、薪の倹約といい、つまりはしっかり者の主婦たちなのだ。 そうした女性たちの工夫に、原田さんが知恵を付け、指導をしている。
敷地の別の区画に、野菜を育てている区画がある。隠元豆や菜っ葉、オクラやピーマン、唐辛子など、食生活を少しでも豊かにするために、いろいろな野菜を試している。今、原田さんが指導しているのは、農薬の作り方である。野菜を育てると、どうしても虫がつく。といっても、防虫剤として市販の農薬を買うのは、お金がかかる。それでは自分たちで農薬を作ろう、とこういう工夫である。
原田さんに作り方を聞く。
「唐辛子やニームの木の実と、ニンニクを一緒にすり潰して水に浸し、石鹸水を加えたものを、農薬代わりに蒔くと、虫が寄り付かなくなります。市販の農薬を使わなければ、お金が節約できるだけでなく、使って健康を害する危険もなくなる。市販の農薬を使うためには、ほんとうはマスクなど防護をしないといけないのですけれど、人々はどうしてもそういう準備なしに使って、体を壊してしまうのです。」
自然農薬というのだろうか。材料は手近なものばかり。ニームの木も、そこかしこに生えている。だから殆ど経費はかからない。また自然の材料だから、口に入れても害がない。作った野菜が、食べて安心というのは、何よりいいことだ。
原田さんが、次に伝授しようとしているのは、燻炭作りである。この地方で主食にしているミレットは、トウモロコシのように穀物を取ったあとに殻が残る。その殻を炭にして土に混ぜ、畑の土壌改良に利用しようという試みである。生活の中で、いろいろ工夫の余地がある。また、この女性組織が、カナダからの援助を得て、村に食糧倉庫を作った。村で収穫した穀物や米などを蓄えておいて、必要に応じて村人に頒布する。こうしておけば、この村の食糧事情は安定する。女性たちの力で、こつこつと、生活改善の努力を重ねている。
ご婦人がたは、広場に車座になって私を囲む。「マルガ・マルガ」だ、と言っている。寄合という意味だそうだ。何か困っていることはありますか。私は聞く。ご婦人がたは、ちょっと顔を見合わせて、即座に言った。
「パ・ド・プロブレーム(問題ないです)。」
傍らの原田さん、あれ、問題ならいろいろあるのに、と呟く。
普通どこでも、私などが大使として顔をだすと、いくつも陳情が出て来る。ところがこの村では、全然陳情が出てこない。決してそんなに豊かには見えないのだけれど。陳情が全く出てこないと、かえって不思議になるもので、そう聞いてしまった。しかし、ここの女性たちも、ここの子供たちも、人に物を貰おうなどと思っていない。自分たちの工夫で、何でも乗り切るのが、当たり前なのだ。ついつい習慣で、援助する側の姿勢が出てしまった自分を、私は少し恥じた。 ジョガ村の様子
集まってくる子どもたち
七面鳥も登場
子供の髪を結い上げる
玉葱を保存しておく
粘土で囲って改良した竈
寝床には蚊帳を張る
野菜を作る
マルガ・マルガと言いながら集うご婦人がた
穀物貯蔵庫
村の長と原田さん
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とりわけ、日本との違いには衝撃すら感じてしまいます。稚拙な感想ですが、文化の差異というのは大きなインパクトを受けてしまいます。それはブログの文章と写真だけでも十分です。やはり、世界は広いですね。読めば読むほどコートジボワール、そしてアフリカに興味を持ってしまいます。ボクも、遠くの日本にいながらアフリカのために何かできることはないか、考えていきたいです。特に、報道ならではの行動を生かして何ができるのか。答えはすぐにでないまでも考えることで何か生まれたらと思います。ではまた新しいブログ、楽しみにしてます。