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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

発信する外交官

2009-10-10 | Weblog
「グローバルフェスタ」の2日目に、外務省ブースに出演した。「発信する外交官」と題して、外務省の同僚、国際協力局参事官の山田彰さんと対談した。ウエッブ時代の日本外交のありかたについて、このブログを綴ってきた私を参考例にして、一緒に考えてみようという企画である。椅子が20脚あまりしかなくて、つまりこじんまりした会合を想定していたのに、たくさん来ていただき、立ち見になる方々まで大勢になり、済まないやら嬉しいやらである。

山田さんから、ブログを綴る大使というのは、日本では初めてだ、と私について紹介がある。一方で、例えば英国では、ミリバンド外相やワレン駐日大使をはじめ、世界各国に駐在する外交官が書き、それを英国外務省はまとめて掲げている。また、在京米大のズムワルト首席公使は、日本語・英語両方でブログを書いている。このように、外交の最前線を紹介する手段として、ブログは有意義な手段と捉えられている、という指摘である。

私は、あたかも情報発信の最先端のように持ちあげられて、面映ゆい。実はこのブログを始めたのは、山田さんからやってみたらと勧められたから。正直に言って、それまでブログというものが何かさえ知らなかった、と告白する。始めてみてから分ったのは、私がこれまで外交官として感じてきた必要性に、ブログという手段が応えてくれるということである。

それは、外交において、結果重視はもちろんだけれども、それ以上に過程が大事だということだ。例えば、外交交渉の末に、ひとつの合意に到達する。外務省では、そこまで来てから公表し、報道される。外交の是非は、出来あがった結果如何により、国民に判断してもらうという姿勢だ。しかし、現実にはそこに至るまでの、問題意識があり、準備があり、交渉の駆け引きがあり、選択の積み重ねがある。その部分を知ってもらうことこそが、外交活動の理解に欠かせない。

国際協力の例を取れば、橋や道路や学校を作りましたという事実だけでなくて、なぜそこに作らなければならなかったのか、背景がある。作ろうとして出来なかったことだって、あるかもしれない。そういう様々な事情の中に、考えていく材料があるはずだ。私は1999年に、コソボの国連機関に出向して、日々新しい問題と、その都度の決断に追われた。その一つ一つが、国際紛争の現場での、貴重な体験だったけれど、それを殆ど誰とも共有できずに終わっている。あの頃にブログがあれば、そういう話を記録し紹介し、そして皆さんから即時に助言を頂けたのだろうに。

また、ブログという伝達手段により、アフリカという遠隔地の、日々の様子を伝えることが出来る。新聞や雑誌の記事だと、どうしても一つの問題だけに焦点を当て、その部分が誇張される。飢餓や紛争やエイズや貧困や、そうしたアフリカも確かにあるけれど、行って目にするアフリカはもっと前向きだ。アフリカ各地でいろいろな分野で活躍する方々からの、たくさんのブログを読めば分る。人々の明るい表情と、活き活きした生活が描かれている。

このブログを書きだしてから、私の仕事の仕方にも影響が出てきた、というお話をする。常に、自分のやっていることが、どう理解されるか、うまく説明できるだろうかと考えるようになる。読者を意識するのだ。それから、仕事に起承転結を考えるようになる。この話は、どういう主題の案件で、どういう考えで臨んで、どういう帰結にもっていくべきか。そういうブログの記事の流れを、自分の頭の中に常に置いて、仕事に取り組むようになっている。

ブログは、さまざまな可能性を秘めた情報媒体である。その一つは、双方向性。つまり私が記事を書くだけではなく、読者からのコメントが送られ、それらコメントも掲載されて、全ての人々と共有されることである。このブログの読者には、国際関係のさまざまな分野で現に活躍している方々がおられる。ニューヨークの国際機関の職員、世界中の現場で活躍する日本人、NGOの方々、大学の研究者、国際ビジネスマン、報道関係者、外務省の担当官、国会議員、そうした人々も、ときどき開けては読んでくださる。いただくコメントも、私だけでなく、そういう人々の判断にとっても、直接の助言になる。

私が、ブログには制約もある、誰もが読むものだから、誰かをあからさまに批判することは書けない、誰かが傷つくようなことは書けない、という話をする。
「悪いこと、これは駄目だ、という書き方は出来ないにしても、こうあるべきだということは書けるのではないですか。例えば、コートジボワールはこういうふうに取り組むべきだ、といった意見です。」
と、質問が出る。

私は、ブログには自分の意見や判断をなるべく書かないようにしている、と答える。ブログは、考える材料を提供するところに留めておいて、そこから先は読者の方々に判断をゆだねる。意見は読者の方々のもの。だから、いただいたコメントにも、私からの回答を控えるようにしている。どうしても私の意見を書いてしまいそうになるからだ。

それに、日本大使がアビジャンでどう考えて動いているかは、外交の重要情報かもしれない。東京にあるコートジボワール大使館も、このブログの読者の一人である。だからかえって、ブログにメッセージを籠めることができる。読者の方々からのコメントで、コートジボワールはこういうふうにあるべきだ、という意見があるとすると、それはフランス語に訳されて、そのままコートジボワール政府に伝わり、貴重な助言となるのかもしれない。そういう可能性がある。

ブログは、したがって、読者とともに作っていくもの。読者からのコメントが活発に寄せられ、このブログが舞台となり、外交活動や世界への関心が議論されるようになることを、大いに期待している。

追記:
会場からも動画が大事だ、というご指摘をいただきました。外務省でも、YouTubeによる発信を始めています。大使館から記事を送れば載せてくれる、というので、さっそく一つ掲載しました。<YouTube記事>

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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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グローバル・フェスタ (やまだ)
2009-10-13 15:25:28
出演、ご苦労様でした。ありがとう。
私もあの場で初めて聞く話もあって、興味深かったです。
 You Tube掲載もありがとう。これからもっと投稿してください(笑)。
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情報発信 (すずきりょうたろう)
2009-10-15 10:56:03
やまださんのブログを見て、岡村大使がブログを書いておられることを知りました。
大変興味深いですね。陰ながら応援したいと思います。
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