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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

なぜ支援するか

2009-10-09 | Weblog
「グローバルフェスタ」での、外務省主催のトークショウ、「国際協力について語ろう~今こそアフリカ支援」の模様を続ける。アフリカについて、また国際協力について、ひととおり出演者からの問題提起が終わった。さて、NHKの道傳愛子さんが、司会者として引き取り、話をまとめた上で、会場の皆さんにマイクを回す。質疑応答である。

NGOのシャツを着た、若い男性から、勢いよく手が挙がる。
「出演者の方々にお聞きします。なぜ今、私たち日本人が、アフリカにまで支援をしなければならないのですか。」
これは、いきなり核心に来た。自分の国の経済運営にすら四苦八苦している時、日本が何のために、国民の税金を使って他の国を支援しなければならないのか。ましてや、遠いアフリカの人々のために、なぜ援助を続けなければならないのか。

まず、外務省の国際協力局長の木寺昌人さんが、マイクを取って答える。アフリカへの共感ということと、外交政策の推進上、経済協力が重要な手段であるという観点から説明する。次に、フジテレビの中野美奈子さんが、シエラレオネの現地で見た実情から、人間として、この現実を前にして、支援を行うべきだと訴える。それぞれ別々の視点から、説得力がある。さて、次は私の番だ。この質問は、日ごろよく出て来る疑問だから、私には、答えの用意がある。

指名を受けよう、よし答えようとしたら、道傳さんが、はいそれでは次の質問、と言ってしまった。私はすでに、日本の経済協力の実例について、時間をかけて話し過ぎていたのである。だから、発言の持ち時間がもう無かった。道傳さんは司会者として、私にばかりしゃべらせるわけにはいかない。時間があればいいが、時計を見たら、もう余り時間がない。当然の判断だろう。

それで、私がその時、答えたいと思ったことを、この場を借りて言うと、こういうことである。
「情けは人のためならず」
私は続けて、こういう実例を挙げようと思っていた。私の外交の上で、一番力になってくれているのは、昔奨学金や技術研修などで日本に留学したことがあって、日本の人に世話になったコートジボワールの人々である。その人たちが、何十年経って今は各界の幹部になっている。そして、日本は自分にとって特別の国だ、日本のために力になりたい、そう言ってくれる。

いったい何のためになるのか、今は具体的な利益が分らない。そう思っても、こと人々を助けることに躊躇してはいけない。それは身近な人生においても一緒だ。必ず将来、その人々は、自分の助けに、味方になってくれる。日本が過去に行った経済協力が実を結び、アフリカのどの国に行っても、日本は特別の国になっている。日本への感謝と尊敬があるから、日本人が旅行しても危ない目に遭うことは少ない。さまざまに日本外交が応援を必要とする時、これまでアフリカ諸国は、いつも日本の立場を支持してくれて来た。だから、情けは人のためならず。これこそが、一番分りやすい説得力のある答えなのだ、と自負していたのである。

さて、この行事への出席のために一時帰国した私に会おうと、大阪の母親が上京していた。75歳になる母親に、出演が終わった後、私は以上の答えを披露した。僕だったら、長い目で見て日本のためになる、こう答えて分かってもらっていたのに、マイクが回らず残念だった。

そうしたら、母親が言った。
「それはねえ、恩返しよねえ。」
何のこと、と私は聞き返す。
「戦争が終わってね、爆撃で何もかもやられて、何もかも無くなって。そうしたら、役場から連絡があって、はーい各戸に配給です、取りに来てくださいと。」

母親の実家は、山口県徳山市(現周南市)である。
「たくさんの物資が支援で来て、わが家にも配られた。それで、変な布だったわねえ。変な柄で、中途半端なサイズで。着物にするにも使えなくて、机のカバーにしたかねえ。だいぶん経ってから、テレビ見てたら、出ていたんよ。その布と同じ柄のかぶり物が。あのターバンみたいな。アフリカから来た布やったんよ。」

アフリカのどの国だか分らない。でも、敗戦で荒廃した日本に、まだ子供だった私の母親たちに、どこかの国の誰かが、支援を送って来てくれていたのだ。使えない布だったけれど、気持ちは伝わった。恩を忘れてはいけない。何々のため、などという計算ではない、人の道、人の心があった。

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1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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はじめまして (ウメケン)
2009-10-09 15:05:38
 はじめまして。いや、初めましてではないんですが、首相官邸のエントランスで一度お話しして、名刺をいただいた時事通信社のものです。覚えておいででしょうか?映画祭の感想をお話ししたと思うんですが。あのとき、大使がコートジボワールの全権大使で、ブログを書いているとおっしゃいましたので、あれからブログの方を拝見してます。とても興味深く、おもしろいので、楽しみながら読ませていただいております。
 映画祭は、実は親しい友人から教えてもらって見に行きました。僕は一つ、「戦場でワルツを(Waltz with bashir)」を見ました。しかも、無料で。これは学生には非常にありがたいことです。(友人はまだ学生なんです)僕は一つしか見れなかったんですが、友人はあれから2,3つの映画を見たようで、しかも内容も充実しており、本当にいいイベントだったと、もっとやってほしいと言っていました。それは、ただ楽しいイベントということでなく、難民や国際紛争、民族対立などの問題に対しての問題提起につながるという意味でです。あのイベントに、外務省などもかなり協力していることも知っていましたが、岡村大使のような、現地から協力もあるとは知りませんでした。すいません。
 コートジボワールは、ちょっとまだ行ったことのない国です。アフリカにもぜひ行ってみたいんですが、仕事があるということもあって、なかなかいけないです。サッカーが好きなので、トゥーレ・ヤヤ選手や、エブエ選手が出身ということくらいです。でも、いつか行ってみたいと思います。政治部という場所で仕事をしていますと、とても視野が狭くなってしまうし、正直つまらないです。ぜひ、海外のお話など、教えていただけたら幸いです。次回、直にあいさつができたら本当にうれしいです。公務、頑張ってください。長々と申し訳ありませでした。失礼します。
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