小学校についての経済協力案件で、「みんなの学校」という名前がついている。子供たちみんなに行き渡るように、ニジェールじゅうに小学校を建設する計画なのですか、と聞くと、違うという。学校は一校も建てない。そうではなくて、学校の運営に関する、技術協力であるという。
日の丸の付いた校舎が、次々に建つというような派手さはない。ところが、この日本による技術協力が、ニジェールの小学校を次々に、劇的に変えていっている。教室を建てることは重要だけれど、小学校にはもっと大事なことがあった。その大事なこととは何だろう。さっそく、案件の現場を見せてもらうことにした。
ニアメ市内のヤンタラ第三小学校に出向く。この小学校の管理委員会(COGES)委員長が出迎えてくれる。まだ、学期が始まる前(ここでは10月から新学期)だから、小学生がいなくてすみません、と言う。それでも、近所から集まってくれた子供たちが、整列して大声で、日本大使ようこそ、と歓迎の辞を述べてくれる。
「ほんとうは、お母さんたちにも集まってもらいたかったんですけれど、今は断食(ラマダン)の期間なので来られないのです。ちょうどこの時間、日暮れとともに始まる食事を作るため、どのお母さんも大忙しなので。」
委員長は、残念そうである。なぜなら、管理委員会では、お母さんたちが一番熱心に活動してくれているから。
ヤンタラ第三小学校の教室にはいる。壁の黒板に、細かい数字が書き込まれた表が、貼り出されている。この小学校には、約300人の生徒が学んでいるという概略説明があったあと、管理委員会の事務局長から、説明がある。
「委員会の活動は、今年度は3つです。第一は、校舎の修復。費用は12万5千フラン(2万5千円)。第二は、女子生徒の就学促進。費用は2万4千フラン(5千円)。第三は、補習授業の実施。費用は10万フラン(2万円)。」
そして、出納係を務めているお母さんが、説明を引き継ぐ。
「これらの活動経費の合計は、24万9千フラン(5万円)です。これらは、全部、親からの分担金で支弁されます。今年は一人500フラン(百円)を徴収することにしました。」
それぞれの活動項目ごとに、どこまで事業が進んで、どれだけ支払いを済ませたかが、やはり一覧表になって表示されている。
「昨年は、教室の天井を補修するという大きな工事を行いました。だから、特別に一人千フラン(2百円)を徴収したのです。」
見上げると、木製の天井が真新しく、きれいにニスが塗られている。
事務局長が続ける。
「昨年度は、38人が卒業試験を受けて、12人が合格で、合格率32%でした。今年度は、34人が受けて15人が合格。合格率44%で、成績の向上が見られます。」
小学生で、国定の卒業資格試験があるのである。半分以上が不合格とは、けっこう厳しい試験であるとしても、ともかく親たちは、生徒の成績向上を、成果として実感している。
こうした事業計画を決めるのは、管理委員会の総会、つまり生徒の親であるお母さん方自身である。議論をして、多数決で決定する。費用をどう分担するかも、自ら決める。決めたら、出納係は費用を徴収し、勘定を付ける。事業計画は、その内容ごとに項目を立てて、進捗状況と経費の使用状況を表にする。最後に、決算表を作って、総会で承認する。全部、管理委員会が自主的に進める。
日本の技術協力とは、一つ一つの小学校ごとの管理委員会への、この手法の伝授であった。それぞれの小学校が、それぞれの管理委員会を持ち、委員長、出納係その他の役員が、それぞれ選挙で選ばれている。一連の運営方法は、ヤンタラ第三小学校のほかにも訪ねた別の2つの小学校でも、まったく判を押したように同じ方式である。事業内容は、それぞれの小学校で異なるけれども、その決め方や、実施の監督、会計の管理、そうした運営の手法は共通である。
管理委員会の制度そのものは、ニジェール政府が設置したものである。小学校をより自主的かつ独自に運営することを目指して、政府が2004年に制定した。子供の親と先生方をつなぐ、学校の自主運営組織で、日本のPTAにあたる。ところが、小学校ごとに管理委員会をつくったのはいいけれど、それだけで動かない。何をどうしていいか、分らないからである。
そこで、日本が国際協力機構(JICA)を通じて、手順を定式化して技術指導し、一定の手順をきちんと踏んでいきさえすれば、年間を通して活動を継続していけるようにした。これが「みんなの学校」プロジェクトであった。
(続く)
ヤンタラ第三小学校の管理委員長
出納係が支出・収入を説明
昨年は天井を全面修理した
ヤンタラ第五小学校で、執行計画の説明
こちらの表では、計画の実施状況が分かる
ヤンタラ第五小学校の管理委員会のみなさん
生徒急増から簡易校舎が必要
その維持を管理組合で行う
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