今回「成人式」を迎えるチャバ世代の、席の最前列にいる3人の「代弁者」たちが、立ち上がった。そして、向かいに座っているドゥボ世代の、最前列に立っている「代弁者」たちに向かって、何やらエブリエ語で宣言している。それを聞いていたドゥボ世代、つまり今権力を握っている世代の「代弁者」たちは、後ろを向いた。後ろに座っている自分たちの世代の人々に、何やら呼びかけていたと思ったら、
「マニャ、マニャ、マニャ、ウェー。」
そうすると、座っているドゥボ世代の人々が、いっせいに「ウォー」と答える。
何をやっているのですか、と私はアモンアゴ副議長に聞く。
「自分たちは、世代として成人ができた。そうチャバ世代が宣言したわけです。それに対して、権力を握っているドゥボ世代が、分ったと答えたのです。」
これは、エブリエ族の議会なのだ。意見交換などのすべてのやりとりは、「世代」を単位として行われる。発言は、それぞれの世代の「代弁者」たちが行う。「代弁者」は、世代の「長」とは異なる人々である。各「世代」の一番偉い人たちが演説を行うのではない。ここに一つの知恵がある。
その議会の議事進行は、簡略に説明すれば次のとおりである。
世代Aの「代弁者」が、他の「世代」例えば世代Bの「代弁者」に対して、自分たちの意見を伝える。
例えば、「これこれの問題が生じている。どれそれの対策をとってほしい。」
そうすると世代Bの「代弁者」は、後ろを振り返って、自分たちの「世代」全員に対して伝える。
「世代Aが、これこれの問題が生じている。どれそれの対策をとってほしい、と言っている。」
世代Aの「代弁者」が意見を述べているのを皆聞いているから、改めて繰り返すまでもないのだけれど、それでも世代Bの「代弁者」は、聞きとったことを繰り返す。そこで人々に意見があると、意見が出される。なければ、伝えられた意見について、異議はないことを確認する。
「マニャ、マニャ、マニャ、ウェー。」
座っている世代Bの人々が、いっせいに「ウォー」と答える。
そうすると、世代Bの「代弁者」は正面に向きなおって、こんどは世代Aの「代弁者」に対して、伝える。
「われわれの世代では、了解したという衆議になった。」
それを聞いてから、世代Aの「代弁者」は後ろを向く。
「世代Bでは、われわれの提案に、了解したと言っている。」
世代Bの「代弁者」が伝えた内容を皆聞いているから、やはり繰り返す必要はないのだが、それでも世代Aの「代弁者」は、そう述べる。そこでまた、世代A全員のなかで議論がある。議論が終わると、異議はないことを確認する。
「マニャ、マニャ、マニャ、ウェー。」
座っている世代Aの人々が、いっせいに「ウォー」と答える。
これの繰り返しで、議事が進んでいく。ときどき議事進行と全く脈絡なく、「盛上げ役」が登場して、面白おかしい仕草と、甲高い声の語りで、皆を笑わせる。今日は式典だから、だいたい脚本通りの議事進行である。でも、アモンアゴ副議長によれば、ほんとうの議事では、世代の出席者の中で活発な議論があり、そして「代弁者」どうしの間で、また活発な討論が交わされるのだという。
なんと、これはエブリエ族の民主主義である。誰もが議会に参加し、それでいて発言は「代弁者」だけに許されていて、誰もが手を挙げて意見を述べるのではないから、議事は不必要に長くならず、また混乱もしない。そして、各世代の統率者が自ら発言することはない。発言するのは、あくまでも「代弁者」なのだ。だから、議事がうまく纏まらなかったら、それは「代弁者」の能力不足であって、統率者の能力不足だとは見做されない。もどかしいほどゆっくりとではあるけれど、「代弁者」が一つ一つの意見を咀嚼して繰り返すので、参加者の中での透明性は確保され、また誤解や曲解もない。
私たちは、選挙をして選ばれた代議員による議会制度こそが、民主主義であると教わり、民主主義制度というとそれより他にはないように思っている。でも、このエブリエ族の世代方式だって、りっぱに民主主義だ。それどころか、考えてみれば、私たちの選挙方式では、数年に一度、投票箱で候補者に一票を入れるという行為だけで、意見を述べたことにされる。それよりは、エブリエ族の方式の方が、よほど一人一人が決定過程に参加する度合いが高く、民主的に優れている気がする。
アフリカの部族社会は近代化から取り残されて遅れているので、民主主義についても欧米先進国が教えなければならないと思われている。ところが、部族社会に近づいて、よく観察してみれば、部族社会にもちゃんと民主主義がある。それどころか、欧米の議会制度よりもある意味で優れている意思決定制度が、ちゃんと機能しているではないか。私は、大いに感心をした。
そして、エブリエ族の人々が編み出した「世代」方式が、けっこう優れていると思われるのは、民主主義的な決定方式というところだけではなかった。 式典がはじまる
ドゥボ世代の席
帽子を被っているのが、村の長 ドゥボ世代の「代弁者」
チャバ世代の「代弁者」
後ろを向いて、世代の皆と衆議
盛上げ役の登場
チャバ世代が食事を振る舞う
黄色いのは、アチェケ(キャッサバ芋のパスタ) 食事を頂くこととしよう
(続く)
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