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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

楽観論があふれる

2009-08-14 | Weblog
ふたたびブルキナファソの首都、ワガドゥグに飛んだ。8月9日、コートジボワール問題を話し合う「評価支援委員会」が開かれたからである。前回(2月)の会合に引き続き、私は2回目の登板である。

この会合は、コートジボワールの危機解決にあたり、資金を出して協力している各国や国際機関と、コートジボワール側との間の、協議の場である。国際社会の側からは、お金を出しているのだから、ちゃんと現状を報告してください、ということである。一方で、コートジボワール側は、各国に対する支援を、陳情する場と考えている。

それを、ブルキナファソのコンパオレ大統領の下に集まって行う。コートジボワールの紛争当事者たちと、アビジャンに駐在する大使や国際機関代表が、わざわざワガドゥグまで出張して、話をするのだ。なんだ、アビジャンでやればいいじゃないか。ほんとうにそう思うけれど、これをワガドゥグで行うところにミソがある。アビジャンでは、コートジボワール側の誰もが紛争当事者だ。コンパオレ大統領という、調停者あってこそ、進む話がある。

それで、前回2月の会議のときと同じ、ワガドゥグの国際会議場に出かけた。コの字型の会議場の設営も同じ、多くの同僚大使たちが夏休みで欠席していることを除けば、出席者も同じ、コンパオレ大統領が出てきて、挨拶をして、自分で筆を嘗めて議事を取り仕切るところも同じ。議事次第も同じ。私は手元の資料を見ながら、余裕綽々である。国際会議は、とにかく回数が物を言う。出席回数を重ねれば重ねるほど、過去や経緯を知れば知るほど、立場が強くなる。

前回の「評価支援委員会」では、大統領選挙の新しい日程をどう示すかについて、議論が紛糾した。昨年行われるはずであった大統領選挙が延期され、しかも新しい日程も決まっていない、という先行き不安の中で開かれたからだ。新しい日程の見通しを示すべし、という意見に対して、誰もが悪者になりたくない中で、選挙管理委員会が立ち往生していた。

それに比べて、今回は皆表情が明るい。何といっても、この半年間に、いろいろ進展があった。
(1) 5月に大統領選挙の日取り(11月29日実施)が発表された。
(2) 6月末に身分認定作業が完了し、有権者登録は650万人を越えている。
(3) 7月には選挙に至る準備日程、つまり「工程表」が示された。
(4) 3月末には、債務削減につながる対貧困国優遇措置が認められた。世銀による政府財政支援も開始された。

こんなところである。だから、誰もが大統領選挙の実施に向けて、楽観論を述べる。現実には、準備作業の第一歩となる「暫定選挙人名簿の公表」が、「工程表」どおりに今月末に行われるか否か、心配がある。有権者登録で集められた650万人のデータを整理して、「暫定選挙人名簿」を作成する。ところがその作業を行う調整センターが未だ機能していない、というような技術的な問題がある、と言われている。

選挙管理委員長は、一応この点を説明して、あれは発電機の問題だ、という。地方のセンターを70ヶ所ほど整備しようとしたら、多くの場所で電源がないことが判明した。でも、発電機を国連からお借りして、何とかなっていますよ。発電機の電源では、電圧の変化が激しくてコンピューターを動かせない、という見方の人もいますので、それが議論を呼んでしまったのです。それは大きな問題じゃないか、と私は思うけれども、ここは楽観論でいかなければ。そう、皆が大統領選挙に進むことができる、11月29日は現実的な日程だ、と発言しているときに、異論や疑問を唱えて、水を掛ける必要はない。

そして、やはり資金が足りない、国際社会にさらに協力してほしい、という議論になった。選挙準備をコートジボワール全土に展開するにあたって、安全を確保しなければならない。作業に従事する要員を守らなければならない、機材を安全に運び、泥棒されないようにしなければならない。そして選挙当日には、もちろん投票所を警護しなければならない。そうした作業に従事するために、政府側と「新勢力」側の両軍事勢力を統合して、新しい軍警察部隊を作っている。その運営経費が足りない。各国に拠出してもらえないか、とそういう話である。

追加支援の訴えにただ黙っていると、要望を素直に受け取ったとみられる。もちろん、この問題がほんとうに選挙実施の大きな障害となるのなら、支援国の立場として、真剣に検討する余地はあるかもしれない。それは後で考えよう。それはそれとして、こういう国際会議の場では、とにかくあてずっぽうでいいから、まず反応を返しておかなければならない。とにかく派手に発言するのだ。発言内容の詳細は、誰も覚えてなんかいない。でも、後で、そういえば日本は何だか異議を唱えていたな、とだけ思い出してもらえればいい。

私は発言の札を立てる。
「議長、その経費は、もともとから60億フラン(約15億円)と計上され、コートジボワール政府側が負担するという整理になっていたのではないですか。今の段階で、国際社会の側に資金供与と言われても、困るのですが。」

コンパオレ大統領は、コートジボワール側に説明を求める。ソロ首相が、私に応えて発言する。
「確かに、当初の計算では60億フランであり、政府側として30億フランの予算を付けたのです。ところが必要額が膨れ上がり、全体で110億フランが必要になってしまった、という事情です。つまり、新たに80億フラン(約20億円)が必要で、手当の見通しがありません。ぜひご理解ください。」
他の国も、人件費は出せないとか、新しい拠出は無理だ、とか反応を返している。とにかくすぐに何か反応を打ち返す。これが要諦である。

大統領選挙に向かう見通しについて、楽観論があふれるうちに、会議は終了した。この楽観論に、ほんとうに信頼に足る根拠があるのかどうか、それは誰もあえて問わない。いずれにしても、今月末(8月29日)には「暫定選挙人名簿」を発表するという、最初の宿題の提出期限が到来する。選挙管理委員会が、この名簿の発表をちゃんと行えば、この楽観論に裏付けがあるということになる。まずはお手並み拝見というところである。

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