なんか一人だけ世界観が違う   作:志生野柱

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 例の扉が開いていなかった部屋に入ると、中には簡素な木の机と、そこに置かれた透明な水晶玉があった。

 

 天井や床と壁の境目、壁の隅といった角という角にパテが塗られ、机の角も綺麗に鑢掛けされている。ぱっと見た限りでは、120度以下の鋭角は見つけられない。

 

 机上の水晶玉がアーティファクトなのだろうが、用途は不明だ。

 というか、「アーティファクト」という呼び方自体がよく分からない。

 

 考古学分野において、正確には、当時の文明以上に高度な技術が用いられた不可解なもの、或いは現行の技術でも解析や再現のできないものを「オーパーツ」と言う。

 対して「アーティファクト」は非自然物全般を指す。ただの石であっても、削って鏃に加工されていれば非自然物であり、「アーティファクト」だ。

 

 しかし冒険者などの一部においては、言葉がやや逆転している。

 ダンジョンで出土する魔術的な機能や特殊効果のある道具類は全て「オーパーツ」。その中でも特に強力なものを「アーティファクト」と呼ぶ。……というのが一般人類の話。

 

 一般ではない人類、或いは人類ではないモノが何を指してそう呼ぶのかは分からない。

 明らかに人類の技術ではない魔剣のような特殊物品、人の手にあらざるもの(クリエイテッド)をアーティファクトと呼んでいるかもしれない。

 

 常識が違う。

 故に、言葉が全く違う意味を持つ可能性が生じる。

 

 彼らの言うアーティファクトとは、「人間一人を生贄にして動く物品」かもしれない。

 

 ……とはいえ、ここで未知や異常に怯えていても始まらない。というか、終われない。

 それがどういう仕組みで動き、どうやって動かすのかは不明だが、最終的な機能だけは分かっている。

 

 この閉鎖空間からの脱出だ。

 

 「……トラップは無さそうだが、()()だけポンと置かれてもな。用途だけは分かっているが、機序も使用法も分からんのでは、どうしようもないぞ」

 「まあ説明役が居たとしても、どうせ碌なものではないでしょうけどね」

 

 一応警戒しながら部屋に入り、机に近付くと、水晶玉を支える台座の下に、執務室で見たものと同じ簡素な封筒が挟まっているのが見えた。

 

 「……」

 

 ルキアが無言で進み出ると、封筒を取って中身を開ける。

 また封はされておらず、宛名の類もない。

 

 中身はやはり、一枚の便箋だ。

 しかし今度は速記文字ではなく、流麗な筆致の飾り文字で書かれている。

 

 内容は一言。

 

 『ようこそ』。

 

 「……え、っと、ここが出口なんですよね?」

 

 ルキアが紙を見せると、イライザが困惑の声を漏らす。

 ステラは苦々しく表情を歪めたが、やがて力なく笑った。

 

 配置のミスでも、何かの謎やギミックの示唆でもない。これは本当に、文面通りの歓迎だ。

 智慧を得て、蒙を啓き、元の、しかし新しい世界へと戻る者への祝福だ。

 

 「全く……。ルキフェリア、起動方法は分かるのか? さっさと出よう」

 「そうね。と言っても、使い方は分からないのだけど……魔力でも流してみる?」

 「まあ、下手に魔術的な干渉を試みるよりは、その辺りから始めるべきだな」

 

 ステラの同意も得て、ルキアは水晶球に手を翳す。

 しかしどの程度の量の魔力を流そうかと考えた途端、それまで無色透明だった水晶の内に、白い霧のような靄が現れた。

 

 魔力の流れを読めず、もうルキアが魔力を流したものと思ったイライザは「成功でしょうか?」と期待の声を上げたが、ステラは魔力障壁と攻撃の準備に入る。

 流石にここから「油断したな!」と猟犬がもう一匹、なんてことはないだろうが──。

 

 そんなことを考えた次の瞬間には、三人は色褪せた木々の並ぶ、湿った土の上に立っていた。

 

 急激な視界の変化に脳が付いていけず、三人とも立ち眩みに近い一瞬の眩暈を覚える。

 イライザはぷるぷると頭を振り、ルキアとステラは硬く目を瞑っては開きを何度か繰り返す。

 

 その数歩前で、()()()()()()()()フィリップが立ち上がった。

 

 「よし。じゃあ、行きましょう。……って、もう霧が晴れますね。こんな一瞬で……?」

 

 森の天気は変わりやすいなあ、と安穏と呟くフィリップ。

 その姿に、ステラは膝から崩れ落ちそうなほど、深く深く溜息を吐いた。

 

 「ふぅ……。どうやらクリアか? 脱出できたし、追ってくる様子もないな? ……結局、なにが目的だったんだ?」

 

 イライザはどさりと尻もちをついて座り込み、ルキアに至ってはふらふらとフィリップに歩み寄って抱き着いた。

 

 「た、助かった……?」

 「ここからもう一悶着は、流石に止めて欲しいが」

 

 ステラは近くの木に背を預けるように座り込むと、律儀に抱擁を返しているものの、表情が困惑一色のフィリップを見て笑う。

 それは愉快さばかりではなく、むしろ安堵の成分が多い、気の抜けた笑みだ。

 

 「え? ど、どうしたんですかルキア? 脱出? もしかしてさっきの霧、なにかの魔術攻撃だったんですか?」

 「いや……はは。まあ、駄弁る暇は十分にある」

 

 ステラは自分の隣をぽんぽんと叩いて示す。

 その意味を解せないフィリップではないが、自発的に動くより先に、ルキアに手を引かれた。

 

 フィリップがステラの隣に腰を下ろすと、彼女は触れた肩に体重を移して凭れかかる。

 日頃から体幹は特に鍛えているし、座った女性一人分の重みで崩れるほど柔ではないが、彼女らしからぬ甘えるような仕草に、フィリップは意外を通り越して怪訝そうな目を向けた。

 

 しかしフィリップが口を開く前に、逆側にルキアが、正面に居住まいを正したイライザが座り、木の幹を背後にして囲まれるような形になった。

 

 「え……?」

 「……答え合わせしたいことも、褒めて欲しいことも沢山あるの」

 

 困惑の声と共にルキアを見遣るも、返ってくる言葉は説明になっていない。

 

 視線を正面のイライザに移せば、彼女は安堵の中に達成感と解放感を滲ませた、一仕事やり遂げた顔をきりっと引き締める。

 

 「私は、是非アドバイスを頂きたいです! あまりお役に立てなかったですし、結局、守られてしまいましたから! 今度こそはお二人をお守りするために!」

 「え、なんですか急に、皆して……」

 

 やっぱりさっきの霧が何かの攻撃だったのか、と、フィリップは大真面目に考えた。

 

 

 




 キャンペーンシナリオ『なんか一人だけ世界観が違う』
 シナリオ25 『黒山羊の館』 ノーマルエンド

 技能成長:同行者のみ。多量のため省略

 特記事項:未取得の智慧が複数個存在

 ※倒す必要のない猟犬を全滅させているため、KPの裁量で妥当な量のボーナスを与えてよい。
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