なんか一人だけ世界観が違う   作:志生野柱

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 聖剣には六つの形態変化がある。

 火・水・風・土・光・闇の六属性につき一つずつ。攻撃範囲の拡張や攻撃能力の向上を目的としており、単純な火力や汎用性では聖痕者に劣るものの、聖剣の攻撃は全てが高い邪悪特攻を持ち、一度発動させれば、集中力と魔力次第でそこそこ持続する。

 

 言うなれば、振り回せる神罰術式。

 

 並の人間どころか聖痕者でさえ再現できない特異に過ぎる魔術であり、イライザ自身の魔術性能ではなく、聖痕、より正確には疑似熾翼の演算補助によって行使される。

 イライザ自身は、それぞれ「火の剣」「風の剣」というイメージと詠唱、多少の魔力消費くらいしか必要としない。

 

 しかし、六種類の形態変化の中で、他とは違うものがあった。

 

 それは光属性の形態変化。

 

 「輝ける我が灯火を以て、足引く全てを一掃せよ──聖剣プロヴィデンス、《攻撃変化・光(シェイプシフト・ルミナ)》!」

 

 噛み締めるように紡がれた詠唱に従い、聖剣がその形を失う。

 『攻撃変化・火(シェイプシフト・フレイム)』であれば、現れるのは天を衝く炎の柱が如き剣。風属性のそれは、天より降る竜巻の剣。

 

 そして光属性であるそれは、光の剣──ではなく、夜空に瞬く星のような、無数の光弾だった。

 特に剣の形を象るということもなく、重力子の壁の向こう、捻じ曲がった空間のなかに疎らに浮かんでいる。

 

 魔剣の力というか、むしろ魔術だ。これならルキアも同じことが出来る。

 しかしそれ故に他より「剣」感が無く、魔術センスのないイライザは、むしろ直感的に使えない。

 

 発動、維持、照準、発射。

 その全てが、イライザの脳のリソースをゴリゴリと音を立てて食っていく。魔術行使の八割を疑似熾翼に頼った上で、なお。

 

 普通は発動できない。

 その処理は手に負えないと、人間の脳は自己防衛機能を以て却下する。

 

 だが──死にはしない。

 この無理を押し通しても、脳が爆発するようなことはない。

 

 疑似熾翼を用いて無理やりに行使する。

 ぱちぱちと頭の中で火花が散るような感覚。ニューロンが不要な結合を解き、魔術行使に最適な形に組み直される。足りなければ新生する。

 

 別に、致命的なことはない。

 魔術行使には体性感覚や運動制御、予測や計算など、脳の多岐に渡る部分を使う。つまり負荷も広範囲に分散され、重篤な運動麻痺や記憶障害といったデメリットは、一度や二度の身の丈に合わない魔術行使で顕在化するものではない。

 

 「夜を照らす小さき光よ、神の敵を撃ち貫け!」

 

 イライザが吼え、星々が奔る。

 

 空間の歪曲とは、そこに在る全てを捻じ曲げること。

 当然、光さえも例外ではない。猟犬までの五メートルで、光は何十、或いは何百回も折れ、曲がり、回り、捻じれる。

 

 しかし、光は一秒で地球を七と半周する。三秒あれば月まで行って帰ってくる。

 

 その速度自体への干渉は無く、捻じ曲がった空間の中に猟犬の姿が見えるということは、光が通る道もある。

 ならば何ら問題は無く、ルキアの魔術に匹敵する威力の光弾は、一匹の猟犬をハチの巣にした。複数体を狙っていたし、拡散した上で当たれば殺せる威力だったが、無敵の“角”に逃げられてはどうしようもない。

 

 しかし防壁越しの攻撃で、確かに一匹獲ってみせた。素晴らしい戦果だ。

 そう讃えようとして目を向けたステラだったが、イライザは荒い息をしながら蹲った。

 

 「大丈夫か?」

 「は、はい。立ち眩みがしただけで……あ、申し訳ございません、お見苦しいものを」

 

 イライザが小鼻を押さえて下を向く。

 鼻腔からぽたぽたと血が流れていたが、彼女自身は特に慌てた様子もなく、服につかないように注意する余裕まであった。

 

 「無理はするなよ。魔王と戦う時までに使いこなせるようになればいい」 

 「はい、王女殿下。精進致します」

 

 使うのを控えろ、とステラは言わなかった。

 

 彼女はそれを十全に使えるようにならなければならない。

 今はルキアの魔術で守られているから平気だが、聖痕者七人分の火力を持つとされる魔王真体を前に、立ち眩みだの鼻血だので足を止めている暇はないだろう。

 

 まあ、今は、今を乗り切るのが最優先だ。

 

 「殺意だけで動く獣とはいえ、我武者羅に襲い掛かる個体ばかりではないみたいね」

 

 もはやティンダロスの猟犬は一匹たりとも、その不明瞭な姿を晒していない。

 残りはひときわ大きな個体を含めて五匹。その全てが、捻じ曲がった空間や壁や天井に潜伏し、身を隠してしまった。

 

 「長期戦になると面倒だが、引き摺り出せるか?」

 「無理よ。本気で待たれたら死ぬわね、私たち」

 

 あっけらかんと言い放ったルキアに、イライザが愕然とした目を向ける。

 伝説の魔物を「思ったより弱かった」と、手が滑ったかのような調子で殺した、人類最強の魔術師。それが平然と、さも当然のように、敗北すると言い切ったのだから。

 

 なにか打開策はないかと、イライザは思考だけでなく視線まで彷徨わせる。

 普段なら特に意味のない行動だったが、今ばかりは違った。

 

 「……あっ! あの、一番奥の部屋! 扉が閉じていませんか!?」

 

 目を凝らすと、幾重にも捻じ曲がった空間の中に、閉じたままの扉が見える。

 猟犬が潜んでいた部屋の扉は全て開け放たれ、中の怪物たちは全てルキアたちの元へ集まった。

 

 閉じている部屋は一つだけのはず。即ち、脱出用のアーティファクトがある場所だ。

 

 この重力子の繭を動かして──そんなことが出来るのかはともかく──どうにかそこまで行けば、猟犬たちは三人を逃がすまいと、“角”を出て襲い掛かってくるはず。

 イライザはそんな読みだったが、そう上手くはいかない。

 

 「そうだな。恐らく、あそこが脱出口だ」

 「だから何、という話だけれどね」

 

 そんなことはとうに承知だったような、気のない返事が二つ。

 

 まず「黒眩聖堂」は展開しながら移動できるほど単純な魔術ではない。

 変形や延長をしようにも、事前に設定した形状、もしくは集まった重力子が自然に形成する球状のどちらかにしかならない。

 

 そしてこれは推測だが、恐らく、ティンダロスの猟犬たちの目的もまた、この屋敷からの脱出だ。

 

 連中はこの屋敷で全滅すればそれまでだが、外へ──通常空間へ出れば増援が呼べる。

 閉じ込められているのは奴らも同じで、アーティファクトの存在を知らないか起動できないのだろう。

 

 ルキアたちが脱出しようとすれば、一旦は見逃してくれるかもしれない。

 そしてその後、無限体の猟犬を永遠に相手取ることになる。

 

 勿論、ただの推測だ。そうはならない可能性だってある。

 推測通りだった場合のリスクが大きすぎて、試そうという気にはならないが。

 

 「あいつが、ああまで警戒するわけだな。本当に」

 「遭遇したのが閉じ込められた状態で幸運だったわね」

 

 ルキアとステラは、以前のことを思い出して納得していた。

 軍学校との交流戦で、ティンダロスの猟犬が現れた時のこと。フィリップがいつになく憔悴していた理由が、ようやく実感と共に理解できた。

 

 こいつらは、ヤバい。

 

 直接戦闘能力はルキアやステラが勝る。障壁越しの攻撃が出来るという意味では、奴らよりもイライザの方が上だ。

 空間歪曲による防御は不可思議で、見ているだけで頭がパンクしそうだが、光や熱は通る。重力子の繭で影響を防ぐことも出来るし、致命的なものではない。

 

 問題はやはり、その殺意と執念。

 そしてそこに“角”への潜伏という隠避・移動能力が組み合わさると、もはや手のつけようがない。

 

 人間の集中や警戒には限界がある。

 今はルキアが球形の防壁によって“角”からの侵入や攻撃を防いでいるし、食料はともかく水分なら魔術で供給可能だ。

 

 だが人間はエネルギーや水分を補給していても、連続活動には十日の制限がある。

 なるべく安静にした状態で十日だ。いつ襲われるか分からない緊張状態で、脳の活動が240時間も持続するわけがない。

 

 魔術行使に必要な演算能力や空間把握能力が時間と共に低下し、最後には意識がぷつりと途切れるように落ちるか、幻覚や反響動作、健忘といった症状によって戦闘不能になる。

 

 連中はそれを待てる。

 しかも一方的にこちらを監視できる、こちらからは攻撃できない無敵の領域でだ。

 

 獲物が弱っていき、隙を晒す瞬間を虎視眈々と待ち続け、その時が来れば“角”から飛び出て襲ってくる。

 何度でも。一匹殺して凌いでも、断末魔は異次元から増援を呼び寄せ、また何日でも何十日でも何年でも、狙った獲物を殺すまで永遠に“狩り”を続けるのだ。

 

 ルキアなら勝てるとか、この三人なら人を使って常時警戒させられるとか、そういう話ではない。

 

 そもそもこれは対等な“戦い”ではない。

 向こうが追い立て、こちらは逃げるか迎撃するかの、非対称で不平等な“狩り”。

 

 故に勝敗も存在しない。

 あちらが勝つまで──獲物が死ぬまで終わらない。

 

 智慧か技か、どちらかが足りずに時間旅行を仕損じ、ティンダロス領域を通ってしまった馬鹿の末路は、それだ。

 

 「ウィレット、考えるべきは広範な「打開策」ではない。必要なのは「掃討策」──奴らをこの場で、一匹残らず殺し尽くす方法だ。……幻影で誘き出すのはどうだ?」

 「そこまで馬鹿では……いえ、試してみるべきね」

 

 ルキアは自分たちの姿を光学術式で不可視化し、三人の姿を映した幻影を防壁の外に作り出す。

 いや、作り出そうとした。透明化までは上手く行ったものの、幻影を作る段階になると、魔術が発動しなかった。

 

 「……魔術が破綻したわ。防壁の外だと、式に座標情報を含む魔術は使えないみたいね」

 「相対位置もか? なら防壁系の魔術は殆ど駄目だな」

 「えぇ。先に成立した『黒眩聖堂』を押し退けるほどの強度はないようで、それは一安心だけど」

 

 とはいえ、それは「ここに閉じこもっていれば安全」というだけで、三人の脱出には繋がらない。

 

 盾はあっても矛が無いのでは、敵を殺すには不十分だ。

 まあ重力子を凝縮したこの盾は、内に捕らえた敵を分子レベルでバラバラにすることも出来るが──どのみち、“角”から引き摺り出すのは必須。現状ではどうしようもなかった。

 

 「となると、もう私には()()を使うくらいの案しかないな。他にアイディアは?」

 「そうね──、っ!!」

 

 ルキアは言葉を切り、頻りに周囲を見回す。

 

 何か見えたとか、聞こえたわけではない。

 感知したのは嗅覚。臭気だ。

 

 あの独特の、冷たい石と埃と黴、死と病の臭い。

 

 空気も含め空間それ自体を切り取った『黒眩聖堂』の内側で、外部の臭いを感じ取るのは不可能だ。

 となれば可能性は一つ。

 

 ルキアのただならぬ様子から事態を察し、ステラも慌てて視線を彷徨わせ、魔術感覚を全周に向ける。

 

 空間隔離は破られていない。

 外界の様子を投影した黒い壁は綺麗な球形のままで、その内側に、あの具体化した錯覚は入り込んでいない。

 

 しかし──。

 

 砥ぎ上げられた業物の輝きが病的に染まる。

 視界の端にあった白銀に蒼褪めた汚れが纏わりついたことに、ルキアとイライザは同時に気が付いた。

 

 「イライザ、剣を捨てて!」

 「きゃっ!?」

 

 聖剣の刃という“角”を通って現れたティンダロスの猟犬が、見定めた獲物──聖剣を手にしたイライザの喉元へ噛みつく。

 

 それは傍目には、聖剣が姿を変え、勇者に牙を剥いたかのようだった。

 

 「く、っ──!!」

 

 イライザはルキアの言葉に従わなかった。

 いや、従えなかった、と言った方が正しい。

 

 言葉は聞こえていたし、従う気持ちもあった。

 ただ彼女は反射的に、至近距離にいる敵を、手中の剣で切り払おうとしていた。

 

 ルキアの言葉を理解した時点で、既に剣を振っているほどの反射速度。

 悪いことではない。訓練の成果がよく出ているし、まだ伸びると思えば頼もしくもある。

 

 しかし剣が手放される前提で魔術を組んでいたルキアからすると、余分以外の何でもなかった。

 

 「っ……!」

 

 剣ごと球状の超重力空間に捕らえて、引き摺り出す方法を探したかったのだが、流石に無理だ。イライザの腕を引き千切ることになる。

 

 反射に等しい速度で組み上げた魔術を、ルキアは半ば意地でキャンセルする。

 自分自身の最速を塗り替えるほどの超集中が脳に負荷を掛けるが、フィリップの弟子を「勢い余った」なんて理由で殺すことは許容できない。

 

 無理に無理を重ねて魔術を中断。

 重ねて代替となる攻撃を用意しようとしたルキアだったが、彼女が反射より一手遅れた時点で、ステラの反射が先を行く。

 

 「あつッ!?」

 

 ティンダロスの猟犬が爆ぜるように燃え上がり、鋭角のみで構成された全身が炎を噴き上げる。

 

 鉄を鍛えた通常の剣なら一瞬で原型を失う熱量。

 その余波を間近で浴びて、イライザは悲鳴を上げて聖剣を放り投げた。

 

 剣が空中にあるうちに、猟犬は全身がガラス化したように硬直し、炎の中で砕け散る。

 すると聖剣は空気に溶けるようにして消え、一瞬の後に、イライザの手中に再び現れた。

 

 「空間隔離を突破するとはな……!」

 「フィリップはこれで防げると言っていたでしょう。多分、空間係数の違いで、空間隔離魔術自体の強度も下がったのよ」

 

 ステラは取り繕いもせず、苦々しく表情を歪めた。

 

 どこかで間違えた。

 この状況は殺意に溢れすぎている。何かのトラップにかかったか、ギミックを誤ったようだ。

 

 設計者の魔術能力に加え、この強さ、この量の敵。

 初めから殺すつもりだったのなら、ここまでのギミックは全て無駄だ。三人が転移した時点で、ティンダロスの猟犬や“毒見役”なんかを嗾けているだろう。

 

 ……まあ、別に悲観することはない。

 

 全部殺す。

 それはこの絶望的状況から生まれた悲観ではなく、先んじて決めていた予定だ。

 

 予定の通りにするだけのこと。全部殺して、大手を振って脱出するまで。

 

 「隔離は解くなよ。外のあれに巻き込まれて無事でいられる保証はない」

 「えぇ」

 

 分かっている、とルキアは言わなかった。

 今は最低限の返事分すら、意識を余所に割きたくない。警戒すべきは全周だけではないのだから。

 

 「気を張れよウィレット。下手に殺そうとするな。怪我をしないことを第一に、守りに徹しろ」

 「怪我……毒があるのですか?」 

 「さあな。だが奴らの纏う青い膿が、まさか肩こり腰痛に効くということはないだろう」

 「あはは──」

 

 ステラの軽口が、この中で肉体的にも精神的にも最も未熟な自分への気遣いであることは、イライザにも分かった。

 

 得体の知れない相手が、どこから襲い掛かってくるか分からない。上下前後左右どころか、手にした剣の刃から飛び出してくる可能性さえある。

 そんな緊張下でも無理をして笑顔を作ったのは、その気遣いを無駄にしないための努力だ。

 

 過剰な緊張が解れ、適切な戦意に置き換わる。

 その一瞬のラグを知っているかのように、蒼褪めた脳漿と共に、ティンダロスの猟犬が姿を現した。

 

 下だ。

 

 ルキアの魔術で浮遊しているイライザの足元、靴底の“角”から、姿の不明瞭な怪物が滲出する。

 

 咄嗟に振るった剣は虚しく空を切った。

 地面を踏まずに力を込めることの難しさに顔を顰めた時には、絶えず変移する姿を完全に晒した猟犬が、牙とも棘ともつかない鋭角に満ちた口を開いている。

 

 イライザの目の前だ。

 ルキアとステラからは、イライザがちょうど壁になる。イライザ自身の身体なんか遮蔽として全く使えないが、今は背に三対の羽と、眩い光輪があった。

 

 援護は期待できない。

 しかし剣は振り切って無防備。切り返そうにも、浮遊した状態では力と重心の制御が難しい。力を込めるという単純な操作すら、普段と勝手が違いすぎる。

 

 死ぬ、とは思わなかった。

 

 やばい、と思った時点で、眼前の怪物は絶命していた。

 全身に斑模様に穴を開け、体積の三分の二を失った猟犬が結晶化し、砕け散る。

 

 「──、っ!」

 「信頼してくれるのは結構だけど、魔力障壁くらいの保険は用意しなさいね」

 「あ、ありがとうございます!」

 

 周囲に油断なく視線を走らせ、イライザには目を留めずに言うルキア。

 光を使った彼女の攻撃は音もなく、その速度故に遮蔽を迂回しても知覚可能な遅れを生じず、完璧に敵を貫いた。

 

 ティンダロスの猟犬は撃たれたことに気付くことさえ無かっただろう。

 目の前で見ていて、瞬きもしなかったイライザも、気が付いた時には怪物の身体に穴が開いていた。目の前に怪物が居ることを知覚した時点でだ。

 

 「奇襲性と潜伏能力は恐ろしいが、なに、撃てば死ぬ。幸いにして、あの空間歪曲が重力子の壁を越えることはないらしい。そして奴らは、かなりのマスティフ型──獲物のスタミナが切れるまで追い詰めたり、狩人の前に誘導するのではなく、追い付いたら殺すタイプの猟犬のようだ」

 

 移動速度、攻撃力、攻撃速度、どれを取っても一級品。

 人間を殺すことに何の苦労もしない、当然に人間を殺すモノ。本来は人間なんかと“戦闘”をしない、追って殺すだけの猟犬。

 

 そういう性能。故に、そういう性格をしている。

 心の裡に滾るのは憎悪であって戦意ではなく、動機は狩猟本能であって戦闘本能ではない。

 

 それは。

 

 「不幸中の幸いね」

 「あぁ。凄まじい奇襲性だが、予兆がある。予兆、出現、攻撃の三行程。しかも噛みつきや引っ掻き程度の()()攻撃だ」

 

 ルキアが笑い、ステラも同じ表情を返す。

 

 ティンダロスの猟犬。

 恐ろしくはあり、異質であり、全く以て理解の及ばぬ生命体。

 

 だが──戦闘能力のみを秤に乗せるのならば、()()

 

 人間如きを殺すのに、一対一の白兵戦なんか必要ないのだ。ルキアとステラは。イライザだって、性能的には。

 

 「“狩り”をされては、私たちに──人間に勝ち目は無いだろう。だが火力のぶつけ合い、攻撃速度の競い合いなら、どうやら私たちが上回る」

 

 ティンダロスの猟犬だって、決して鈍くはない。

 その攻撃を、剣や盾、或いは鎧付きの徒手などで受けろと言われて対応できる人間は、正規の兵士の中でも半分かそれ以下。ルキアやステラには無理だし、先代衛士団長の薫陶を受けたイライザでも百戦百勝には程遠い。

 

 だが光速ではない。

 反射にもまだまだ遠い。

 

 魔力障壁の展開や、魔術を使った迎撃なら容易に間に合う。

 それは、ルキアとステラにとっては“遅い”部類だった。

 

 「予定通りだ。残りを殺し尽くすぞ」

 

 さっさとかかって来いと言わんばかりに、ステラは尊大な所作で手招いた。

 

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