あちらこちらで耳にするウマ娘達の面倒臭い話。それを聞く度に、俺はつくづく思うんだ。
"あぁ、俺はメジロアルダンの担当トレーナーで本当によかった"
……ってね。
他のトレーナー達には申し訳ないが、はっきり言って彼女の聞き分けの良さは別格だ。ただの一度たりとて(訳の分からん行動をして)俺の手を焼かせたことはない。
とはいっても、勿論"ただ楽な子"という意味ではないぞ?彼女の担当をする上では様々な壁が立ちはだかってきた。
生まれつき持つハンディキャップや、メジロ家としての使命、強力過ぎる同年代のライバル達に挟まれているなど、担当としてそれ相応の覚悟はいつだって求められている。
しかしまぁ、それくらいの困難は大なり小なりどのトレーナーだって背負ってる。俺だけが特別な訳ではないし、ましてやそれを苦に思ったこともない。
つまり俺はこのトレセン学園においてトレーナーとしてかなり恵まれた環境にある、って訳。ウチのアルダンは何かあるとすぐに尊厳を垂れ流す奴等とはモノが違う。
今日だってそうさ。彼女の方から"より高みへと飛び立てる方法を思いついた"とかで、放課後に話がしたいと相談を持ちかけられた。
本当……どこまでも直向きな子だよ。
だからこそ俺は彼女の望みにとことん向き合うんだ。それがどんなに困難な壁であったとしても、絶対に乗り越えさせてみせるから。
待っててくれ、アルダン。今行くよ。
--------------------
放課後。場所はいつものトレーナー室。
アルダンはソファに、俺はパイプ椅子に。互いの指定席に腰を下ろしてミーティングが始まった。
「それじゃあ聞かせてくれるかな?君のいう"高みへと飛び立てる方法"について」
「はい。……ですが、その前にトレーナーさんに確認したいことがあります。よろしいでしょうか?」
「あぁ、もちろん」
「ありがとうございます。では、単刀直入にお聞きしますね?」
「うん」
「私は…………、私はオグリキャップさんを筆頭とした数多のライバル達に、今のままの私で努力を重ね続けていけば、いつか勝利を掴むことができると、そう思いますか?」
「………」
できる。
そう答えるのがトレーナーとしては正解なのかもしれない。
──────しかし、メジロアルダンは徹底的な
他のどのウマ娘よりも"今"と真剣に向き合い続けてきた彼女は決して甘い目算をたてたりはしない。どこまでも自分に対してシビアだ。
だからこそ俺もいちトレーナーとして、本来なら口が裂けても伝えるべきではない、嘘偽りのない率直な言葉を伝えた。
「……思わない、ね」
「………」
「もちろんいい所はまでは行くと思う。それに勝負は水物だし、あらゆる条件が重なった時には勝ちを拾うことだってあるかもしれない」
だけど、それはきっと彼女のいう「勝利」ではないのだろう。
もちろんどんな形であろうと勝ちは勝ちだ。例えどんなメンバーだろうと、レース中にどんなハプニングがあろうとも、一番最初にゴールテープを切ったやつが勝者なんだ。それにケチをつけることは誰にも許されない。
だけど、だけどそれは彼女の望む真の勝利とは違う。
それは名家に生まれた者が等しく背負う、謂わば呪いにも似た枷。
──────棚ぼたの勝利は、勝利とは認められない。
相手を力でねじ伏せたと民衆に認めさせてこそ、初めて勝利したと胸を張れるのだ。
……しかしそれを実現するには、彼女の対戦相手達はあまりにも強過ぎた。
アルダンにも才能はある。いやさ、間違いなく一流のウマ娘にだってなれるはずなんだ。
だがよりにもよって、揃いも揃って、間違いなく歴史に名を残すであろう名バ達が彼女を取り囲んでいる。はっきり言ってどいつもこいつも化け物だ。
トレーナーとしての無力さを棚にあげるようであまりこういうことを言いたくはないが、正直、運が悪いなんてレベルの話じゃないだろう。
そんな怪物達を相手に力でねじ伏せる勝利を望むのは…
「……だけど、君のいう勝利を掴めるか?という問いに対しては、うん、正直なところ……厳しいと思う」
「やはり、そうですか。忌憚のないご意見……ありがとうございました」
担当トレーナーからの死刑宣告にも等しい言葉を受けても尚、彼女の表情に曇りはなかった。
臆してない。この絶望的状況にも彼女はまるで臆してないんだ。
やはり彼女は強い。この精神性の強さこそが彼女の本当の長所だ。
担当トレーナーとして贔屓目満載の、何の根拠もない希望的観測になるから口には出さないが、この長所を磨き続ければ或いは──────
「それではやはり、私が享受してきた戦術は無駄にならずにすみそうですね」
「ん?戦術?」
「はい。実の所、私自身もトレーナーさんと同じ考えをしていました。今のままの私達では厳しい戦いになるだろうと」
「………」
「だから、私はあらゆる方達を頼りました」
「正直に心中を吐露し、私に勝つ術はないかを探り続けたのです」
「アルダン、それは…」
「わかっています。これまでに貴方と私でその研究は十二分に行ってきましたよね」
「……ですが、ウマ娘にはウマ娘同士でしか伝えられない"想い"というものが存在するのです」
「!!」
思い当たる節がある。
選ばれたウマ娘のみが受けることができるという"想いの継承"
その洗礼を浴びた者は先人達の技術、強靭さを受け継ぐことで飛躍的な強さを手に入れると聞く。
まさか彼女はそれを…?
「幸いなことに私は星の巡り合わせも手伝って、とある二人のウマ娘から"想い"を託して頂くことができました」
やはり。想いの継承は"二人"のウマ娘から受け継ぐと聞いたことがある。
彼女は、アルダンはとうとうそれを…!」
「最初のウマ娘は、やはりこの方を置いて他にありませんでした」
「──────私が心から尊厳する姉、メジロラモーヌ」
予想通りのその名を聞いた時、とくん、と自分の心臓が高鳴る音が聞こえた。
年甲斐もなく自分が子供のように高揚してるのがわかる。
でも仕方ないだろう?
あのメジロの至宝から、古今東西の強者達から"怪物"とまで言わしめたあのラモーヌから受け継いだものに"期待を寄せるな"というのが、どだい無理な話だ。
「き、聞かせてくれアルダン!ラモーヌからは何を受け継いだんだ!?」
あの脅威の末脚か?それとも位置取りの上手さ?はたまた、レースとは何たるかの真髄?
何でもいい!ラモーヌから受け継いだものならなんだって構わない!
「はい。お姉様から受け継いだ"想い"、それは」
「うん!」
「──────アヘ顔腋見せガニ股のポーズ、です」
「なるほど!アヘ顔腋見せガn……………………は?何て?」
「ですから、アヘ顔腋見せガニ股のポーズです」
「………え、何それ?」
「説明しましょう。あの日、あの夜、お姉様は私達メジロ家のごく一部の者たちを屋敷に集めて、この技を披露してくださいました」
「ままままま待ってくれ!回想に入る前にもっと説明して欲しいことがa
--------------------
メジロ家のとある一室にて
「アヘーーーーーーーー!!!」
裂帛の雄叫びと共にお姉様が魅せたアヘ顔腋見せガニ股のポーズ。それを目撃した者達の反応はまさに三者三様でした。
「……凄い。テンアゲなんてレベルじゃないっしょ、これ。バクアゲ⤴︎⤴︎だよ…」
「嘘、筋肉が……泣いてる。……感動?いや、これは多分」
「あんな綺麗で下品な腋見せ、アタシには……。ううん、例えエアグルーヴ先輩だってできっこない。レベルが、違う」
「ほわぁ〜どいつもこいつもキチ○イでございます〜」
「私、帰ってもよろしいでしょうか?」
各々が自由な感想を漏らす中、私はただじっとお姉様の言葉を待ちました。
このポーズを私達に魅せた真意を探るために。
「……ふぅ。いいこと?皆、よくお聞きなさい」
「今魅せたポーズこそ、メジロ家に代々伝わる殿方を落とす秘伝の技」
「──────腋見せガニ股のポーズよ」
「この技は修得のし易さに比べて、その効果はあまりにも絶大。これを見たトレーナーは間違いなく一発で堕ちて、文字通り腋目も振らず貴女達に襲いかかってくるはずよ。多分」
「故に、秘伝。部外者にその一切を晒すことを禁じるわ。いいわね?」
腋見せガニ股のポーズのままメジロ家筆頭から放たれる圧。その場にいた全員(約二名既に退室済み)が静かに頷いた。
「あぁそうそう、自己流でアヘ顔も添えさせてもらったわ。だってそのまま伝えてもつまらないし、何よりこの技って"華"がないもの。遊び心くらい欲しいじゃない♡」
凄い。お姉様は既にこの技を自分のモノへと昇華しているんだ。
やはりこの方は別格。混じりっけなしの“メジロ"。
「それから……ねぇ、アルダン」
「は、はい!」
「この技はね、メジロ家の中でも貴女にこそ最も相応しいと思うのだけれども……どうかしら?」
「え…!?で、でも……私がそんな下劣で下品でクソ汚い格好をしても、お姉様と違って似合わないと思うのですが…」
「○すぞクソガキ。……あのね、アルダン。これは貴女みたいなカマトトぶってる雌がしてこそ本領を発揮するのよ?」
「そう、でしょうか」
「えぇ。普段から清楚ぶってる腹黒の雌が、この汚ねぇ無様なポーズをやるからこそ、殿方の股間にクるのよ。多分」
「なるほど。確かに、私ほどのお清楚さなら…」
「ふふ、飲み込みが早い子は好きよ。貴女からの報告、楽しみにしてるわね?」
--------------------
「と、いうことがありました。秘伝まで教えてくれるなんて流石お姉様ですよね。なんだかんだ妹に甘いんですから」
「………」
「では、早速トレーナーさんに私のアヘ顔腋見せガニ股のポーズを見て頂きたいのですが、よろしいですか?」
「よろしくないよろしくない!!」
「何故?」
「何故もクソもあるかよ!ツッコミたいところがいっぱいあるよ!!」
「口、お尻、アルダンのアルダン♡以外にもまだツッコミたい所があるのですか!?何とめにあぁっくな…」
「おいバカやめろ!!そうじゃなくて、さっきの回想は一体何の話だったんだ!?レースと一ミリも関係ない技術を学んできてどうすんだよ!」
「??……レースの話なんて最初からしてませんが?」
「はぁ!!??じゃあ勝利がどうこうって発言は何だったんだ!」
「今年生徒会主催で開かれるトレセン学園ベストカップル賞を何としても勝ち取りたくて。皆様なかなか手強いんですよっ!」
「初めて聞いたわそんなもん!っていうか、じゃあそれと腋見せなんたらは何の関係があるんだよ!」
「関係ありまくりです。私達の仲を今以上に深めなければ勝利への光明は見えてきませんので」
「……そんなもんで深まる訳ないだろ?いや、そもそもカップルでもないし」
「まだ見てもないのに私のアヘ顔腋見せガニ股のポーズを頭から否定するんですか?……傷つきました、メジロ家やめます。貴方に嫁入りします」
「待て待て!そんなもんいきなり見せられたって戸惑うだけだろ!?ラモーヌに騙されてるんじゃないか?」
「お姉様を侮辱する発言は例え旦那様とて許せません。我謝罪要求」
「わ、悪かったよ。でも実際にラモーヌがトレーナーにやった訳でもあるまいし、効果なんて怪しいだろ?」
「いえ、既に実践されましたよ?私が秘伝の真偽を確かめる為に軽く煽ったら…
じゃあやってやるわよ!なんならもう全裸で鼻フックもキメてやるわよ!
と、意気込んでトレーナーさんの元へ即日向かわれました。あの方、煽り耐性低いですから」
「尊敬してんのかバカにしてんのかどっちだ」
「……で?どうなったんだ?ラモーヌのトレーナーは本当に、その、襲いかかった…のか?」
「入院しました」
「は?」
「お姉様のアヘ顔腋見せガニ股のポーズを見た途端お腹抱えて笑われたそうで、そのまま笑い過ぎで呼吸困難をおこして入院されたそうです」
「真逆の効果じゃねぇか」
「お姉様も現在心療内科に掛かってます。笑われたショックでその場で尊厳を……あ、いえ、心を閉ざされてしまいましたので」
「その顛末を聞いてよく実践しようと思ったな」
「でも、お姉様ってば健気にもトレーナーさんのお見舞いに行ってるんですよ?まぁ顔を見たらまた笑ってしまうらしく、すぐに面会謝絶となりましたが」
「何の救いもない話だった」
「で、ここまで聞いておいてまだ私のア腋股を見たくないと、そう仰るのですか?」
「変な略し方すんな。……いや、むしろより強く思ったよ。絶対見たくない」
「私の処理済みの腋ですよ?アヘ顔ですよ?お清楚な私のBUZAMAな姿を見てイキリ立たせたいと、興奮したいとは思わないのですか?」
「悪いけどそんな趣味は持ち合わせてない」
「なるほど、やはり凡庸な足フェチでしたか。私の足をマッサージする度にこっそり匂いを嗅いでるから、薄々気づいてはいましたが……」
「今度から鼻栓してやるわ」
「舐めて味を楽しむんですね?わかります」
「さてさて。それでは次に受け継いだ"想い"で、今度こそトレーナーさんのトレーナーさんを元気づけてさしあげましょう」
「もうやめてくれ…昔のアルダンを返してくれ…」
「次に私が受け継いだ方の名はナリタトップローd「やめろっ!!!」え?……で、でもまだ名前しか」
「もういい、もうその名前で君が何を継承したのか全て察した。絶対に言うな、やるな。わかったな?」
「で、ですが…」
「いいな?わかったな?俺は本気だぞ」
「はい…」
「…………」
「………こ「やめろって!」
「……はい…」
「………」
「あ、たづなさんがまた窓ガラスをぶち破ろうとしてますよ?」
「え?嘘、ここ三階だぞ」
クルッ
「今です!!」
「あ、しまっ「肛門日光浴でーーすっっ!!!」
「……とうとう、言いやがった…」
「スッキリしました。それでは、早速私の肛門日光浴をご覧に」
「ならないならない!こんな所で尻を出そうとするな!」
「では貴方は私の尻を見たくないと、皺の数を知りたくないと、そう仰るのですね?……メンタルにきました。早急に抱きしめてください」
「あのな、だいたいからして肛門日光浴って太陽に向かって尻を出すんであって、間違ってもヒトに向かって晒すもんじゃないんだよ」
「メンタルにきました」
「いや、だから…」
「メンタルにきました」
「ちょっと、俺の話を…」
「メンタルにきましたっ!!!!」
「わかった!謝るから落ちついてくれ!!」
「謝罪は不用です。今すぐ私の皺の数をきっちり計測するか優しく抱きしめるか、どちらか選んでください」
「……選択肢の振れ幅どうにかならんのか?実質一択じゃないか」
「わかりました。では今パンツを脱ぎますので、しっかりとご確認を。正確に数え終わるまでこの部屋からは絶対に出られませんので」
「わかった!抱きしめる!抱きしめるから!スカート捲るのやめろ!!」
「よし。……ふふ、作戦成功ですね♡」
「……へ?作戦?」
「はい。当初の狙い通り、トレーナーさんとの仲を深めることに成功しましたので」
「あぁ、そういやそんなこと言ってたな…」
「最初に無茶な要求をして、その後で真の要求をする。交渉ごとの基本ですね。うふふっ♡」
「あのねぇ、俺はてっきり君がレースで本気悩んでるものかと思って真剣に…」
「それはそれ、です。この先のレースに関しては誰が何と言おうとも、私と貴方の力で必ず勝利を掴んでみせますのでご心配なく」
「……嬉しいよ。頼もしい限りだ。やっぱり君は誰よりも強いウマ娘だ」
「でも、いくらなんでもこれは回りくどすぎるだろ?それに抱きしめるくらいなら……まぁ、したよ。他でもない、君に頼まれたらね」
「そうですね。トレーナーさんならきっとそうしてくれてたと、私もそう思います」
「ならなんでこんなメンドくさいことを?俺の方こそメンタルにきたんだけど」
「ふふ。だって、それじゃあ…」
「?」
「つまらない、でしょう?」
「……さいですか」
「それに、私だって一度くらいは他の方々のように思う存分トレーナーさんと戯れてみたかったんです」
「戯れるってレベルじゃなかったぞ。強襲だよ」
「では、そろそろギュッとお願いします!少しでも手抜きを感じたらパンツ脱ぎますからねっ!まぁそれでも私は一向に構いませんが」
「とほほ、最後の最後まで脅迫されっぱなしだったな」
おわり
お経無し、お漏らし無し、の純愛イチャコラに挑戦してみました。たまにはこんなのもよろしいかと。
それでは、感想もらえら嬉しいな。