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菅首相の「太陽光パネル1000万戸構想」が持つ意味

東工大の黒川氏に聞く

編集委員 滝順一

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菅直人首相は5月の主要国首脳会議(G8)で「日本のエネルギー供給の20%を2020年代の早い時点で再生可能エネルギーで賄う」とし「1000万戸の家庭に太陽光発電パネルを置く」との構想を示した。政府が昨年決めたエネルギー基本計画の目標を前倒しする内容だ。この構想の持つ意味を、太陽光発電の研究開発に長く携わってきた黒川浩助・東京工業大学特任教授に聞いた。

――菅首相の提案をどうみますか。

「首相が示した構想は裏付けがいまひとつ明確ではないが、太陽光の潜在力はもっと大きい。2030年の日本の電力総需要を想定して、最大限でその8倍は見込める。ただこれは耕作放棄地など未利用の土地を全部使う前提だ。より現実的には、電力の送電系統とうまくなじめるかが、その実現のポイントになる。また太陽電池産業の性格から、ステップ・バイ・ステップで生産規模を拡大していく必要がある。太陽光発電協会がつくったロードマップでは30年までに太陽光だけで累積導入量を1億キロワットに拡大する。これは総発電量の約10%に相当する。これくらいにしないと存在感がない」

――太陽光は基幹電源になると思いますか。

「太陽光発電が大量に普及する世界を実現するには、電力インフラも形を変えていかなければならない。インフラに手を加えるのには時間がかかるが、2030年を目指せばできる。今は原子力発電所のような大規模電源から下流に向け一方的に電気を流し込んでいるわけだが、エネルギー貯蔵システムを分散電源として導入していく。上流でも最下流でもない場所がいい。各家庭に蓄電池を置くと、たいへんな数になるが、1千戸単位の団地や、2万戸に電気を配る変電所単位で大型の蓄電池を置けば、各戸に置く場合に比べコストは2ケタ下がる」

電気自動車の普及も効果が大きい。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の資金を使って、三菱自動車の岡崎工場で実験をしている。社員駐車場に太陽電池パネルと蓄電池を置く。工場で働いている間に、社員の電気自動車に太陽光で充電する。電気自動車が満タンなら蓄電池に入れる。工場は電気料金節約のため買電量のピークを抑えたい。どうしても電力が必要なときは社員の自動車から少し拝借することもできる」

「昼間に電気を生む太陽電池が大量に普及すると、系統電力の需要ピークは昼間でなくなる。夕方のピークは残るが、家庭で電気自動車から供給すれば夕方のピークも抑制できる。今の電気式給湯器はオフピークの夜間電力を使ってお湯を沸かしてためているが、夜間がオフピークでなくなれば昼間に沸かす。エネルギー供給の構成要素が変わればエネルギーの価値も変わる。送配電網のスマート化で、需給によって電力料金が変わるダイナミック・プライシングが可能になる。エネルギーの最適な組み合わせも時々刻々変わる」

「震災や電力危機があったから、太陽光を拡大するというのでなく、大きなトレンドとして再生可能エネルギーの利用を増やすのは自然な流れだ。電力だけでなく、ガスや石油も組み合わせて最適なエネルギー利用の組み合わせを目指すスマート・エネルギー・ネットワークを目指すのが進むべき方向だろう」

――太陽光発電のコストはどれくらい下がりますか。

「ロードマップでは、家庭用電力料金と等しくなる第1次のグリッドパリティ(1キロワット時当たり24円)、工場など大口電力と等しくなる2次パリティ(同14円)、電力会社間で取引する卸電力と等しくなる3次パリティ(同7円)の3段階の目標を掲げ、30年までに3次まで達成できるとみている。家庭の太陽光発電から余剰分を買い取る制度が一昨年に、1キロワット時当たり48円でスタートしたが、今年度は40円に下がったはず。毎年、価格が下がりすぐに24円にまでいく」

「太陽光は、他の発電技術に比べて早くコストが下がる。量産効果と技術開発がその理由だ。技術開発には電池の発電効率が上がる効果と、生産の習熟によって歩留まりが向上しパネル当たりの価格が下がる効果がある。量産効果は累積生産量がものをいうので、早く大きくする。補助金政策で離陸期に少しでも助走の勢いをつけてやることが大事。産業が育てば(税収増などで)お金は戻ってくる」

――国内市場では輸入品が出回っています。

「中国のサンテックなどは思い切った投資で量産効果をあげている。日本の太陽電池産業は家電メーカーが多く、毎年の売上高に応じてステップ・バイ・ステップで生産を拡大する。戦略に違いがある。国内では昭和シェル系のソーラーフロンティア社が思い切った投資を実行、石油産業の発想は違うと感じさせる」

「日本企業が世界市場で存在感を示し続けるには、3割程度のシェアを維持していく必要がある。世界市場は30年に年2億キロワット程度になるとみており、日本勢は合計で年産6600万キロワットほどにまで能力を高めないと上げ潮に乗っていけない」

――再生可能エネルギーの固定価格買取制度を導入する法案が国会に提案されていますが、審議が進みません。

「買い取り制度は不可欠だ。というより、買い取り制度に転換するため補助金などの支援を政府はやめた。新制度を発足させなければ支援にはざまが生じ、普及の腰を折る。かつて補助金の打ち切りで国内市場が縮んだ。販売網がやられたのだ」

「住宅向け需要だけでは国内の累積設置1億キロワットの半分もいかない。工場の自家発や新規発電事業者のメガソーラーが出てくる必要がある。そのためには電力の自由化をもう一段進める必要がある。すでに卸電力市場はあるが、十分に機能していない」

――電力市場の改革論議も活発になった。

「東日本の電力不足の時、周波数が違うので西日本から送る電力に限りがあった。かつては電力業界も列島を貫く直流の基幹送電線を検討していた。米国や中国では送電網強化のため長距離直流送電の整備が進み始めたが、日本は雲散霧消した。安全保障を考えれば、太平洋側と日本海側にそれぞれ1本ずつ送電線を引くのが望ましい。大きな投資になるが、計画停電のようなことをやって失われる富を考えれば、投資の価値はある」

「各電力会社が供給余力を持つより、全体で融通し合う方が経済的だ。国かJパワーのような会社が基幹網をつくれば、発電事業への新規参入者も基幹網を経由して顧客を見つけやすくなる。発送電分離にもつながる。固定買い取りを始めると電力料金があがるといった主張があるが、あまり目先にとらわれず戦略的な視点が必要だ」

取材を終えて


 太陽光発電協会のまとめでは10年度の国内メーカーの総出荷量は約250万キロワット。30年に6600万キロワットは20年で25倍以上に拡大する計算になる。それほどのスピードがなくては、世界市場での日本勢の存在は薄れるばかりだ。
 これから原発の新増設は難しくなり、30年当たりを見通したエネルギーの組み合わせは化石燃料と原子力、再生可能エネルギーの新たな最適組み合わせ解を探すしかない。そこでは再生可能エネルギーがこれまでより大きなウエートを占めると期待される。

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