「は?制服に顔を埋めてみて欲しい?」
いつも通りのお昼、珍しくあのツンデレお嬢様こと担当のメジロドーベルがカフェテリアでのランチを誘ってきたため昼食を早々に食べ終えてしまっていた俺は冷めたお湯だけを注文してドーベルの食事を眺めながら雑談していた。
「うん、最近クラスで流行ってるみたいでさ。アタシもやってみようかなって」
制服に顔を埋めるっていうことはつまりだ。隣のテーブルに座っている先輩トレーナーが担当ウマ娘の胸辺り顔を突っ込んでいるあれをやれってことだろう?
「……それをやったところで何になるんだ?」
あの先輩の様に周囲の目線を気にしない様な人なら何も考えずに実行しただろうが、生憎俺は常人なもんで、あんなことをカフェテリアという人の気が多い場所でやるからにはそれ相応の理由が必要だ。
「ん……ただの占いみたいなものらしいよ。後輩が先輩の所はどうなんですかって言って騒がしいの」
そう言うと、ドーベルは露骨に視線を俺からズラした。嘘吐いてるな、コイツ。耳と尻尾もせわしなく動いているのを見るにどうやらこれでも隠せている気でいるらしい。
とにかく、どうせ大した理由は無いんだし乗っかる義理もない。
「そっか。でも俺胸は大きい方が好みなんだよなぁ……。じゃ、そういうことだから遠慮しておくよ」
そうは言ったものの、俺は別に小さいのが嫌いだという訳じゃない。そもそも、ドーベルのは決して小さくはないだろう。しかし良くも悪くも平均的だ。俺が隣の先輩トレーナーの様な醜態を晒さなければならないというのなら、やはり自分好みのものを選びたいという、ただそれだけの話だ。
「……は?」
明らかにドーベルの表情が曇る。確かに安易に断ってしまったのは俺が悪いが、何もそんなに怒らないでもいい気がするが。そんなことを考えていると、カフェテリアに予鈴が響いた。
「おっと、もうこんな時間か。ドーベルも分かってると思うけど、今日はトレーニングが休みだから俺は帰るぞ。何かあったら連絡してくれ」
もうすっかり冷めてしまった冷めたお湯を飲み干し、俺は鞄を抱えてドーベルにそう告げた。ドーベルは何か言いたそうにしているが、まあ良いだろう。そんなことより一刻も早く家に帰ってモ○ハンしなくちゃいけないんだ。
「は?ちょっと待ちなさいよ!」
ドーベルが俺の手を掴もうとしたが、それを躱して俺は足早に直帰した。
「クソッ!このアストンラーヂャン目茶苦茶強いじゃないか……ゲームバランスどうなってだこれ……」
帰宅してからと言うものの、かれこれ数時間はも○ハンをやっていたのに、気がつけばアストンラーヂャンを倒すことだけに夢中になってしまっていた。
幾ら好きなゲームとはいえ、こう何時間も連続で遊んでいては流石に疲れてしまう。そろそろ夕御飯でも買いに行こうかと立ち上がると、丁度ギイィィィという音を立てて玄関の扉が開いた。
「あっ、良かった。そろそろいつものコンビニにご飯買いに行く時間だから居なかったらどうしようかと思ってたけどなんとか間に合ったみたい」
扉を開けたのは例に漏れずドーベルだった。昼に見た制服姿ではなく、いつも出かける時に着ている私服に着替えているのを見るあたりどうやら一度寮に戻ってから来たらしい。
「おいおい、ドーベルのせいでまたエグイ形に扉曲がったじゃないか。後でちゃんと直してくれよ?」
今月に入ってまだ数日しか経っていないのに家の扉が破壊されるのはこれで今月十回目だ。大家さんに怒られる俺の身にもなって欲しいものだ。
「それで?何の用だ?」
「『何のようだ?』じゃないでしょ?昼にアタシのお願いを聞いてくれなかったからこうしてわざわざアタシから訪ねてきたんじゃない」
ああ、言われてみれば確かに服に頭を埋めてくれみたいなこと言われてたっけ。なるほど、自分の胸に自信が無いからこうして人目の無い場所までわざわざ出向いてくれたわけか。正直面倒だが流石は聡明なドーベルだ。気を遣うのが上手いなぁ。
「……もしかしてさ、忘れてた?アタシって普段からあんまり我が儘なんか言わないタイプだっていう自覚があるから、たまには素直にトレーナーにお願いすれば言うこと聞いてくれるかなって思ってたんだよ?確かにアタシは小さい頃から男の人が苦手でトレーナーにも冷たく当たっちゃってたのは悪かったと思ってるし反省もしてる。半日もの間トレーナーを苦しめちゃった罪悪感は今でも消えてない。でもさ、今はトレーナーの組んだメニューもちゃんとこなしてるし、良好な関係だと偽装するっていう名目のデートだって心の底からアタシは楽しんでたって分かってたでしょ?それなのにさ、今になってアタシの簡単なお願いすら聞いて貰えないってどういうこと?……え?アタシが嘘吐いてたって?うん、そうだね。だって本当のことを伝えたらトレーナーは何がなんでも嫌がるかなって思ったからだよ。もうどうせやっちゃうから意味ないだろうけど本当の理由を一応教えておくと、アタシの匂いをかがせてトレーナーがどんな反応するのか見てみたかったんだ。その反応で相手との遺伝子レベルの相性が分かるらしいよ。もしも落ち着く様な、安心できる匂いだと思ったなら、それは相性バッチリだって。アタシいつもトレーナーのシャツを嗅いでるんだけど、気持ちがフワフワしてとっても安心できるの。ね、これって相性バツグンだと思わない?そう思うよね。だってトレーナーはアタシの男嫌いをすぐに直してくれるような人だもんね。それに今までずっと二人で一緒にやってきたんだから、相性が悪い筈無いよね。でも、アタシとトレーナーの相性がよくても、トレーナーとアタシの相性が良いなんて限らないでしょ?だからここはやっぱりトレーナーにも試して貰いたいの。でもあれってほら、服の上から実質胸の匂い嗅がれてるみたいなものでしょ。他の男ならまずあり得ないけど、トレーナーになら恥ずかしいけど、それでもやっぱりアタシを知って貰いたいって思えたんだ。それなのにトレーナーはアタシになんて言ったと思う?『胸が大きい方が好み』?あまり笑わせないで頂戴。トレーナーだけはちゃんとアタシの本質を見てくれてると思ってたのに、やっぱりトレーナーも男っていう生き物なんだね。一度口を開けばおっぱいおっぱいって。確かにアタシのおっぱいはそんなに大きくないよ?それはアタシ自身分かってるし、悩んでたりもする。でもそれをあんな風に言わないでくれる?それかあれよ、トレーナーが毎日アタシの胸を揉んで好きな大きさにしてくれても良いんだよ?いや、寧ろそうして頂戴。そうしたらトレーナーも他の子なんかに目移りしないでしょ?そうだ、それが良いよ。タイキ程大きくなるのは無理でも、トレーナーが揉んでくれたらきっとトレーナーが満足できる程には育つ筈だよね。だって、二人の愛が籠ってるんだから♡……っていけないいけない、話が逸れちゃうところだった。それでね、本題に戻るんだけど今度こそトレーナーはちゃんと受けてくれるよね?え、嫌だ……?どうして?ねぇどうして簡単にそんなことを言うの?……分かった、トレーナーはアタシのこと嫌いなんだ。そうでしょ?だってこんなにもお願いして、トレーナーの要望に応えたいからアタシだって身体を貴方に差し出す覚悟で居るのに。アタシのことが嫌いじゃないとそんな無下にできないでしょ?それともなに、もしかして自分は健全な関係を保ちたいだなんてそんなこと言うんじゃないよね?胸が大きい方が好きだのなんの、それアタシ以外に言ったら普通にセクハラだよ?分かってる?……でもドーベルは許してくれたって……、べ、別に許した覚えはない!それはトレーナーが他の子に奪われるくらいならアタシが幾らでも身体をあげるっていう意味なんだから。せめて引退するまで待って欲しいなんて、今更そんな偽善者ぶる必要はないでしょ?散々他のウマ娘を下心丸見えでジロジロ見てるくせに担当ウマ娘であるアタシとは適切な距離を保ちたいなんて、そんなこと許さないから。いい?もうトレーナーはアタシから逃げられないわよ♡まずはアタシとの相性を調べて、その後トレーナーの本音が聞けるまで逆ぴょい尋問する。そこまではいい?そうしてトレーナーが素直になった後でようやくアタシの身体を好きに開発させてあげる♡どう?素敵な案でしょ?♡じゃ、そういうことだからさっさと始めるよ、トレーナー♡」
あまりの情報の多さに俺の脳は処理しきれず、次の日ようやく情報の処理を終えた俺は隣でドーベルが眠るベッドの上で激しい倦怠感ととある部分の痛みによって目を覚ますのだった。
終わり
狂気度が足りないとは思いますが、誰の作品をリスペクトしているのか分かった人がいれば「あのタグ」付けを是非お願いします