「あ、あの!今日も……その、いつものアレ…お願いしてもいいですか?」
「もちろん!さ、おいでシュヴァル」
「や、やった…!」
言うが早いや。シュヴァルグランは両手を広げた俺の胸元へ勢い良く飛び込んできた。
「え、えへっ……えへへ…♡」
今の俺達は一見すると恋人同士がただイチャついてるように見えるかもしれない。だけど、実は全然違うんだよ。
これは所謂リラクゼーションの一種で、特に気性難のウマ娘を落ち着けさせるために昔からよく用いられていたらしい。ハグに癒し効果があるのはヒトもウマも変わらんようだ。
とはいえ、別にシュヴァルは気性難でも何でもないんだけどね。むしろその真逆と言ってもいい。
ただ、色々と溜め込む性格のせいか最近よく思い詰めた表情をしていたから、少しで彼女の癒しになればと俺の方からこのリラクゼーションを提案してみたんだ。
シュヴァルは最初こそ遠慮がちに俺に抱きついていたが…
「……あ、あの!そろそろ頭を…」
「はいはい。撫でさせてもらいますとも」
「えへへぇ…♡」
今じゃご覧の通り。
かつて彼女にあった遠慮は跡形もなく吹き飛んで、俺にして欲しいことを自分から言ってくれるようになったんだ。
あの引っ込み思案だったシュヴァルがここまで変わるなんて、まさにリラクゼーション効果様々だよ。最近じゃトレーニングやレースへのヤる気まで目に見えて上がってるし、言うことなしだ。
どうしてこんなに簡単で効果的な方法を学校じゃ教えてくれなかったんだろうか?他のトレーナーももっと積極的に使用して行くべきだよ。
本当、これを教えてくれたゴールドシチーのトレーナーには感謝しないといけないな。
お礼に今度飲みにでも行きたいところなんだけど、どうしたことか最近全く姿を見かけないんだよなぁ。長期休暇でもとったんだろうか…?
「あ、あのっ、トレーナー……さん?」
「ん?どうしたシュヴァル」
「その……手、手が、止まっていた…ので」
「あぁ、ごめんごめん。ちょっと考えごとしてて」
「……………………………そう、なんですか。わかりました。……じゃあ、あの……そろそろ、撫で撫での続きをですね」
「よしきた!……あぁいや、やっぱり今日はもう終わりにしよう」
「えっ」
「ほら、時計を見てごらん。もう門限が近いだろ?」
「時計…?貴方、さっきから何を……」
「??」
「……も、もうちょっとだけ、ダメですか?もう少しだけ僕のこと抱きしめていて欲しいんですっ…!」
「いや、でも本当に時間がさ。門限過ぎちゃうと寮長に怒られちゃうだろ?」
「……またッ!」
「??…シュヴァル?」
「…………………………だ、大丈夫ですから!僕は怒られても全然平気なんです!そういうの昔から慣れてますから!……だから、だからあと少しだけ…!」
「ちょっと落ち着いてくれシュヴァル!あんまり大きい声だすとたづなさん辺りが心配しt「もうやめてくださいよッッ!!」
「!?」
「どうしてですか?どうしてオンナを抱いてる時に他の事に目を向けられるんですか?まだ考えごとしたり時計を見たりするのは、許せないけど理解はできますよ?ギリですけど。でも、他のオンナの話はダメですよ。ありえないですよそんなの。少なくとも僕はトレーナーさんの事しか考えてませんよ?目の前いる貴方だけを見て、貴方の体温だけを感じて、貴方の匂いだけを嗅いで、貴方の声だけを聴いて。そしてこの瞬間を口一杯に詰め込んで、噛み締めてるんです。……まぁ貴方にとって僕を抱くことは単なる手慰みでしかなくて、謂わば都合の良いホール扱いなのかもしれませんけどね。わかってますよそれくらい。僕が正妻扱いしてもらえてるなんて、そこまで自惚れてません。僕は全自動のオナ○です。それでも僕にとってはホール扱いされてる瞬間が、都合の良い玩具にされてる瞬間が、本当に何よりも大事な時間な訳でして。もうこれしかないんです。毎日毎日貴方に抱かれることだけを楽しみにかろうじて生にしがみついてるんですよ。本当、実際僕っていう存在は結構ギリギリなんだ。ギリギリのところでなんとか踏ん張ってて、落っこちないように精一杯…生きてて。時々それがどうしようもなく辛くて辛くて辛くて、何もかもを諦めちゃいそうになる。でも、でもそんな時に、同じ場所で同じヒトが僕を待っていてくれてるって思ったら、勇気が湧いてくるんです。あとほんの少しだけ生きてみようって、心からそう思えるんだ。だから、まやかしでもいいから、今この瞬間だけは僕のことだけ見ててくださいよ。嘘でもいいから貴方を信じさせてください。だって、僕を……いえ、ウマ娘を抱きしめる行為がどういう意味を持つかくらいトレーナーなら当然知ってるでしょ?そうです、結魂(けっこん)です。貴方はあの日僕と契りを結んだんだ。だからこの身体を許したし、前と後ろ(から抱きしめること)の初めてを捧げたんです。ねぇトレーナーさん、僕の身体を使って散々楽しんどいて今さら逃げ出すんですか?責任も何も取らずに飽きたから捨てるんですか?……どうなんだよッ!ちん○みてぇーにバキバキに固まってねぇではっきり答えろや!!今、僕がしてるのはめっちゃシンプルな二択だろ!?僕の命をゴミみたいに捨てるのか、一人のオンナとして生涯愛し抜くのか、たったそれだけなんだよ!なんも難しいこと聞いてねーだろうがよッ!!要らねーなら要らねーって言えよ!"お前とは遊びでした、メンドくさいからここでポイしますw"って言い切ってみせろや!そのあとは突き飛ばして頭を踏みつけるなり、この身体を好き放題嬲るなり、もう好きにしろよッッ!!……だって、それくらい酷いことしてくれないと、貴方を諦められないんですよ。僕、もう手遅れなんです。貴方と触れ合えてない時間に僕がどんな風に過ごしてるか知ってますか?知らないでしょうね。僕のことなんか全然興味ないですもんね?ハイ、それくらいわかってます。でも聞いてもらいます。遺言だと思ってウマホでも弄りながら暇つぶしに聞いてください。まずですね、ハグが終わってこの部屋を出ます。それから数歩いたら……吐ちゃうんですよ。貴方が目の前に居ない現実や、明日には捨てられるかもしれないという恐怖に、この脆弱な心が耐えきれないんですね。あ、もちろん他の所からも漏らしてますよ?上からも下からも後ろからも。まさにオイルショック。今も現在進行形で漏らしてますからオムツが手放せない。止まるんじゃねぇぞ。ま、放課後は大体こんな感じで過ごしてます。長々とご清聴ありがとうございました。要するにこの物語は、とあるトレーナーの軽はずみなハグで、とあるウマ娘が身も心も尻もぶっ壊されたっていう、ただそれだけのお話なんです。この滑稽な哀しみが、ほんの少しでも貴方の心に伝わってると……嬉しいな」
「………」
「………」
「あの、シュヴァル……さん」
「…………なんですか?突き飛ばすなら早くしてくださいよ。僕の方から離れられないんですってば」
「い、いや、そうじゃなくて…さ」
「………」
「もうちょっとだけ……こうして、君の事抱きしめててもいいかな?」
「えっ…」
「門限とか気にしないでさ、気のすむまでこうしてようよ。ね?」
「で、でも、トレーナーさんは今から他のオンナ所へ腰を振りに行くんじゃ…」
「こら!汚い言葉を使うんじゃありません!」
「そもそも俺はそんな話一回もしてないだろ?記憶改竄すんのも大概にしとけや」
「…ほ、本当に?本当に僕のこと捨てたりしませんか?途中で手のひら返してDVしたり、帽子に灯油かけて燃やしたりとか…しない?」
「しないしない。お前俺のこと未開拓地帯の部族かなんかかと思ってんのか?」
「女の子を簡単に抱きしめて責任も取らないドクズのチャラ男だと思ってます」
「おい!」
「え、えへへ…!冗談です」
「まったく。……ほら、他にして欲しいことあったら言ってくれよ。今日は君が満足するまでとことん付き合うからさ」
「あ、じゃあ……まずはギュッと…抱きしめ返して欲しいです。いっつも僕から……だもん」
「ん、わかった」
「そ、それから……頬擦りも、したいです。もっと直接トレーナーさんと……触れ合いたいから」
「……んー。ま、まぁ…わかった」
「それからそれから」
「まだあんのかよ!」
「えへへ…。よ、欲張っちゃいます!サービスしてください♡」
「ええい!もう好きにしろ!ここまで来たらなんでもしてやるよ!だからあのお経みたいなのやめてね!怖いんだよッ!」
「や、やったっ。それじゃあ最後に…!」
「なんだ!?」
「──────ハグが終わったら、僕のオムツ替えてください♡」
おわり
リクエストもちょびっとずつですが漏れなく全部書いてますからね。気長にお待ちを。
では、感想もらえたら嬉しいな。