依存気味のエイシンフラッシュが無理矢理ドイツ語を教える話

エイシンフラッシュからプレゼントを貰った。
日々の感謝の気持ちとして、受け取って欲しいとのこと。
勿論、教え子から感謝されて貰うものだ。嬉しいに決まっている。
僕こそ、いつも頑張っているフラッシュに何かお返しやご褒美をプレゼントしたいくらいだ。

そう、フラッシュから、本が何冊も入っている三省堂の紙袋を受け取るときに話したら。

「だったら、ここにある本、全部読んで、ドイツ語話せるようにしてください」

どうやら、プレゼントは初学者向けの教科書、テキスト、問題集、辞書、CD。

ドイツ語教材だ、これ。

「トレーナーさん、今日は動詞の人称変化の小テストです。勉強、してきましたか？」
「･･････してない、全く」
「昨日はいつもより1時間3分ほど早く起きて仕事に行く前の勉強時間を確保、お昼ご飯も私と食べた後にトレーナー室で単語帳を作成、寝る前にその単語帳を暗唱。合計勉強時間、2時間14分。大丈夫ですよ、トレーナーさんが仕事の合間を縫って、頑張ってること、私、ちゃんと知ってますので。だから、30過ぎにもなって『俺全然勉強してないわー』って高校生みたいな予防線張るのやめましょうね」
「･･････何で勉強時間知って─」
「試験を始めます。筆記用具以外はしまってください」

「今日の試験はよく出来ました。文法問題以外に、毎日見るよういっておいた単語帳からのランダムでの出題。これに対しても、ほとんど答えられてましたね」
「フラッシュ」
「でも、どうしてこの1問だけ答えられなかったのですか。
das Ehefähigkeitszeugnis
初学者には確かに難しい単語だったからもしれませんが、この単語は今後絶対使う単語ですし、間違えて欲しくなかったですね」
「あの、フラッシュ。この単語」
「はい、今日はよく頑張りました。得点数に応じて時間を設定するので･･････今回は95分ほど、頭を撫でてあげます」
「いや、あの、フラッシュ先生。この単語も含めて、時々渡された単語帳にえげつないぐらいメモ書きが入っているのですが。特にこの単語みたいな言葉の関連語とかましてやドイツでの文化とか法定手続とか書いてあるのですが」
「膝枕、お嫌いですか？」

「CD、聴いて頂けているようで。寝る前にもしっかり聴いているのですね。今日、何でトレーナーさんのスマホの充電がほとんどないのか、合点がいきました。全く、いくら寝る前の確認として音声データ聴きたいからって、充電せずに音声かけっぱなしじゃ駄目じゃないですか」
「フラッシュ、この音声データなのだけれども、これ、全部フラッシュの声だよね？」
「はい。私の声ですべて収録しました」
「単語とか文法とかこういう風に耳で覚えられるよう解説してくれるの『は』ありがたいよ」
「目だけでなく、耳で覚える。トレーナーさんも英語科目の受験勉強でご経験はあると思いますが、特に単語に関してはまず綴りを覚える前に単語の発音を覚えてしまうと綴りの暗記の際も簡単に覚えられますよね。特にドイツ語はおおよそローマ字読みですので、その傾向は強いかと」
「ときどき、単語や文法解説以外で、めちゃくちゃ長い、僕が知らない単語とかで話しているところあるよね。あれはなんて言ってるの？あと、この音声、バイノーラルマイクで録ったでしょ。正直、内容がいくら真面目でも、あの、これ普通に勉強に集中できない」
「こうやって･･････よいしょ･･････すぐ隣で、耳元に囁きながら。私だって、ずっと、ずっと、トレーナーさんのお勉強、見てあげたいんです。トレーニング以外の時間、座学の授業やトレーニング後の自由時間も含めてぜんぶ、その時間に充てたい･･････これは、せめてもの、お気持ちです。ちゃんと、トレーナーさんが、私の言葉で、ドイツ語、覚えられるように
････････････お勉強、教えたいだけなのに、どうして、トレーナーさんは、私の声、耳元で聴こえる度に、ビクっ、ビクっ、って身体、跳ねちゃうんですか？ちゃんと集中、してくださいね。声にしっかり集中できたら･･････きっと、そんな風にいやらしい妄想もできなくなるくらい、勉強、うまく行きますから」

「センター英語。190以下はゲジゲジ」
「共通テスト、ドイツ語の方が得点取りやすいんですよ。ほら、見てください、トレーナーさん。トレーナーさんの現役時代の英語の点数よりも上。9割越えられましたね。えらい、えらい。これで一旦、共通テスト過去問演習は終了です。お勉強、頑張っているようなので、ご褒美に、今日はトレーニングもお休みなので、ふたりで出掛けましょう、といいたいところですが、あいにくの雨。おうちでゆっくりしましょう」
「フラッシュ」
「はい、何でしょう」
「最近さ、フラッシュの話すドイツ語、分かるようになってきてさ。だから、フラッシュが昨日の夜とか、てか、毎回フラッシュとするときに、時折、ドイツ語出るときあるじゃん。あれで何て言ってるのか。僕は─」
「リスニングの勉強を始めましょうか」
「え。いや、今日はおやすみって」
「私、無意識にドイツ語出ちゃうとき、あるんです。やっぱりああいうときには、つい夢中になって。それにトレーナーさんには分からないだろうな、って思ってとんでもないことばかり言っちゃうんです。トレーナーさん、もっと聴きたいんですか。いいですよ、トレーナーさんが頑張ればいっぱい、いっぱい、聴けますよ」

「日記、ちゃんとつけてくれてますね。外国語の勉強には日々あったことを日記につけること、これも今までの学習の確認をする上でも有用です。この調子で続けていきましょうね」
「･･････交換日記だとは聞いてない。てか、そもそもフラッシュに読まれること、想定してない」
「昨日の日記は･･････なるほど。私に着て欲しい服ですか。デートで新しい私服を見せたから、色々他にも着てほしくなっていっぱい思いつくもの書いたんですね。最後あたりは水着しか書いてないのはあまり感心しませんが」
「夏、大体ずっと合宿所いるから。フラッシュと海行っても、学校指定のやつしか見れないし」
「じゃあ、休日にふたりで海に遊びに行こう、って私にいえばいいじゃないですか」
「････････････」
「まあ、確かに合宿所付近の海岸で、明らかにトレーニング用じゃない水着着させて遊んでるトレーナーさんを他の方が見たらどう思うのか、というところのご心配はあるでしょうが。どちらにしても、これからも素直な気持ちを日記に書きましょう。人間、素直が一番です。これからもお互いの生活が上手くいくよう、お互い素直になりましょう。こうやって直接話すよりも紙で書く方が案外伝えやすかったりしますし」
「･･････じゃあ、フラッシュも勉強、勉強ばかりいわないで、素直にドイツに行こうっていえばいいじゃん」
「････････････」