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埼玉県所沢市の職員が2025年7月にマイナンバー法違反の容疑で逮捕された。容疑者は職権を乱用してマイナンバーや所得情報を照会できるシステムを悪用。多数の親族のマイナンバーを集め、虚偽の扶養控除手続きで税還付を受けた。個々のシステムや手続きが内部不正をほぼ想定しておらず、抜け穴を突かれた。内部不正をどう防いでいくかは他の市町村にも共通する課題となりそうだ。

 「市民の皆さまの信頼を損なう行為であり大変申し訳ない」。埼玉県所沢市は2025年7月10日、職員の逮捕を受けて記者会見を開き、小野塚勝俊市長が謝罪した。

 埼玉県警は同日、上下水道局の職員を逮捕した。職権を使って親族のマイナンバーを不正に調べ、扶養の実態がないにもかかわらず、虚偽の扶養控除手続きで住民税(市・県民税)の控除を受けていた容疑である。住民税の還付に加え、住民税額から算出する保育料の減額も合わせて不正に得た利益は215万円という。容疑者は一連の不正のために複数のシステムを業務外で悪用していた。しかし職権を持つ職員が不正を働く想定がほぼなかったため、いずれの段階でも防いだり検知したりできなかった。

 マイナンバー法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)の第52条では、国や地方自治体などの職員が職権を乱用し、職務以外の目的でマイナンバーを集めることを禁じている。違反には2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科される。公務員が同法52条違反で逮捕されたのは制度ができて初だという。容疑者には虚偽公文書作成(刑法156条)や詐欺(同246条)の疑いも掛けられている。

親族の正確な基本4情報が必要

 不正の疑いが浮上したきっかけは、2024年9月11日に同市の公益通報窓口に届いた内部告発文書だった。同市の調査によれば、容疑者が不正を働いた時期は市民税課に在籍していた2023年1~3月。住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)など複数システムを業務目的外で使い、以下の4段階の不正を経て14人の親族を扶養控除に加えた。

 第1段階は、親族の正確な生年月日や住所を調べるための戸籍謄本の取り寄せである。戸籍謄本は通常、本人か父母や子など直系親族しか委任状なしでは取り寄せられない。自治体の職員は戸籍を扱う市民課など、職務によっては市外も含めて国民の戸籍を取り寄せられる。容疑者が在籍していた市民税課も業務で必要な場合があり、課内の決裁を経て取り寄せる手続きができたという。

 その手続き書類に押印する必要がある市長公印は、職員が単独で使える状態にあった。容疑者は多数の親族について戸籍謄本を業務のために取り寄せる申請書をつくり、不正に戸籍謄本を入手した。