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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

元気のない大統領

2009-08-12 | Weblog
8月7日は、独立記念日である。1960年のこの日、コートジボワールはフランスから独立し、それから数えて今年は、49回目の独立記念日になる。国としての歩みを確認する、大事な一日であるから、大統領は国民に向けての演説をする。演説は、前日の6日の夜に、テレビ放送を通じて行われる。

今年は、というか昨年もそうだったのだけれど、今年も大統領選挙を控えている。バグボ大統領が、11月29日に予定されている大統領選挙について、どのようなメッセージを盛り込むのか、これは注目しなければならない。それに、私はバグボ大統領の演説をいつも楽しみにしている。内容が明快で、機知に富んでいるし、語り口も愉快である。私は、夜8時からの国営放送に、チャンネルを合わせた。

バグボ大統領が、画面に現れた。あれ、いつもと違う。手元の演説原稿を、ただ棒読みしている。口調に抑揚がなく、表情にも変化がない。バグボ大統領は、いつだって原稿など見ないで、自分の言葉ではっきりと語りかけるのに、さすがに独立記念日の演説となると、このようにきちんと書かれたものを読まないといけないのだろう。しかし、そうだからといって、あの闊達な語り口がないのは勿体ない。この演説こそ、一番力強く、国民に訴えなければならないだろうに。

内容についてはどうだろう。大統領選挙について、大統領がしっかりした決意を伝えるはずだ。バグボ大統領は、テレビ画面で述べる。
「今日、大統領選挙を11月29日に行うことについて、いかなる政治的な障害もありません。」
そう、昨今の議論は、大統領選挙に向けての障害があるという話だったから、バグボ大統領としては、まずその噂を打ち消そうというわけである。

つまり、先月のはじめから、どうも11月29日に大統領選挙を行うというのには、いろいろ困難があるのではないか、という懐疑論が出てきていた。先月半ばに、国連のチョイ代表は、選挙の準備作業について、技術的な問題があるということを公に述べて、物議をかもした。選挙に向けての「工程表」が、もう出されていなければならない時期なのに、未だ出ていない。月末の国連の安全保障理事会で、その点に懸念が表明された。そうしてはじめて、コートジボワール側は「工程表」を出してきた。なんとなく選挙が予定通りに行われるかどうか、雲行きが怪しいという雰囲気があるだけに、ここはバグボ大統領に、大統領選挙に向かう心構えについて、明確に語ってほしいものだ、と期待をかける。

「でも理解しなければいけないことは、コートジボワールにおいては、内務大臣が実施するわけではないし、つまり、大統領が実施するわけではないのです。つまり、大統領選挙を実施するのは、選挙管理委員会なのです。」
あれあれ、大統領が、選挙について自分には実施の責任がない、というようなことを言い始めた。

「つまり、コートジボワールの政治危機を解決するために、すべての政党が同意したのは、選挙に関する技術的な問題については、サジェム(SAGEM)という民間会社と、国立統計庁に、すべてを任せるということでした。」
それはその通りなのだけれど、今そういう、選挙の準備が制度としてどうなっているのか、ということを聞きたいわけではない。大統領の意気込みを聞きたいのだ。

「今のところ、どこからも、大統領選挙を予定通り行うことは出来ない、というふうな見方は出てきていません。だから、大統領選挙は、11月29日に行われることになっています。」
それだけ述べて、バグボ大統領は他の話題に移ってしまった。大統領として、いろいろな地方を遊説したという話をしている。

どう受け取ったものだろう、この演説は。今のところ出来ないとは誰も言っていないから出来るのだ、というのは、保証としてはなんとも心もとない。もし選挙の実施を任されているという、その何とかいう会社や政府機関やらが、やっぱり出来ません、と言い出したらどうなるのか。選挙は出来なくなる、ということになってしまう。

それより、この言い方だと、「今のところ誰も反対しないので、貴女と結婚します」とプロポーズされているようなものではないか。選挙に向かうぞ、といった決意は感じられず、どうにも頼りない。コートジボワールが混迷から脱出するための、鍵となる大統領選挙の話である。国を指導する大統領には、さあ国民の皆さん、力を合わせて選挙を実施しよう、と言ってほしかった。

原稿を棒読みのバグボ大統領には、いつもの元気がない。内容も逃げ口上めいて、いつもの勢いがない。そのうちに、私は気がついた。大統領はどうも、渋々演説文を読んでいるようだ。ほんとうは、もっと強い調子で大統領選挙について語ることも出来たし、そうしたかったのではないか。でも、この時期に大統領として、選挙についてあまり好き勝手には言えない。周りの人々から、当たり障りのないところで留めるように助言されたのだろうか。

それにしても面白みのない演説で、楽しみにしていた私として、とても残念であった。翌日は、独立記念日の当日で、大統領府での記念式典がある。またバグボ大統領の演説があるはずだ。今度こそ、元気な演説が聞けるだろうか。明日に期待をつないで、私はテレビの電源を切った。

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