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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

かわいそうなタンジャ

2009-08-08 | Weblog
コートジボワールの新聞も、ニジェールのタンジャ大統領の手荒なやり方について報じている。大方の記事が、批判的な目を向けている中で、以前にも紹介した小説家の、ヴナンス・コナン氏が、「かわいそうなタンジャ」という題で、コラムを書いている。

「いったい彼は、この大陸においてこれまで無かったようなことを、しようとしているのだろうか。彼が望んでいるのは、ちょっとばかり、つまりほんの3年ほど、自分の任期を延長したい、ということなのだ。

ベン・アリ(元チュニジア大統領)は、憲法を改正して終身大統領になった。皆が拍手をした。
ホシニ・ムバラク(現エジプト大統領)は、30年近くも大統領の座にあって、とても民主的な政治とはいえない。でも、オバマ大統領は、彼を訪れて中東和平の演説を行った。

カダフィ(リビア最高指導者)は、もっと簡単。そもそも、選挙を行ったことがない。誰も彼に反対を唱えることすらできない。それでも、パリ、マドリッド、ローマを訪問した時、最大の栄誉で歓迎された。そして、今はアフリカ連合の議長をしている。

ボンゴ(前ガボン大統領)は、憲法を修正して死ぬまで大統領を務めた。サルコジ大統領は、彼の葬式に出た。
エヤデマ(前トーゴ大統領)は、シラク大統領に憲法を改正しないと約束していたのに、やっぱり改正した。大統領のまま死去したとき、シラクは彼のことを友人と呼んだ。
ランサナ・コンテ(前ギニア大統領)は、憲法を改正して、死ぬまで大統領だった。

ポール・ビヤ(現カメルーン大統領)は、憲法を改正したけれど、サルコジ大統領は彼をパリに歓迎した。
イドリス・デビ(現チャド大統領)は、憲法を改正したけれど、サルコジ大統領は、反政府勢力がデビ大統領の追い落としにかかったときに、救援に赴いた。

タンジャについては、どうして駄目なんだ。どうして。」

と、ここまで読んで、私はほんとうだ、まったくコナン氏のいう通りだ、と感心している。自分の権力の延命を図るために、憲法を改正するというのは、たしかに欧米諸国ではとんでもないやり方かもしれない。でも、このアフリカにおいて、それほど目くじらを立てる話だろうか。実際、欧州諸国だって、これまでにアフリカ流の政治を大目に見てきたこともあるじゃないか。それをどうして、この度タンジャ大統領に限って、厳しく問い質すのだ。

ところが、コナン氏は、ここから筆先を変える。

「タンジャよ、君の問題は、君の国が民主主義への道を歩み始めていたということを、君がよく理解していないことなのだ。民主主義というのは、ただ憲法があって、ただ大統領がいて、ただ名目だけの政府がある、ということではない。確固とした政治制度があり、市民組織が活躍し、老若男女が、ただ指導者を称賛するというのではなく、民主主義を日々実践しているということなのだ。

君の以前に憲法改正を行った大統領がいるかもしれないが、そうした大統領たちの国は、民主主義国ではない。それらの国々で大統領は、恐怖か汚職で、政治制度と市民組織を、自分のもとに跪かせている。そういう国では、真の民主主義者は、黙るか殺されるかしか選択がないのだ。

ニジェールは違った。ニジェールでは、民主主義が着実な歩みを見せていた。君の政治制度は、きちんと機能していた。君が示した独裁への意向に、ニジェールの政治制度は、確固として正しく、反対の反応を示したのだ。それなのに、君は、国会を解散し、憲法裁判所を解体し、報道の自由を押しつぶした。

しかし、ベナンをみなさい。マシウ・ケレクは大統領職に居残ることを画策したけれど、市民組織は強く反対を示し、ケレクはそれを見て断念した。ケレクの名誉は、今も安泰だ。ナイジェリアをみなさい。オバサンジョは、2期の大統領を務めた後、出ていく気はさらさらなかった。しかしナイジェリアの政治制度は、彼にノーを突きつけ、彼は断念した。オバサンジョの名誉は、今も安泰だ。

オバマ大統領は、ガーナを訪問した時の演説で、「国家には強い人間は必要ない。必要なのは強い制度だ」と述べた。そう、強い制度とは、国会であり、憲法裁判所であり、野党の存在であり、報道機関なのだ。君は、君の国の民主主義を、せっかくきちんと機能している政治制度を、無きものにしようとしているのだ。だから、皆、君のことが許せないのだ。」

そういうことだったのだ。ニジェールは、民主主義を築き上げてきていた。三権分立と法の支配のもとに、きちんと機能する民主制度を維持していた。人々がタンジャ大統領を非難するのは、アフリカの他の大統領たちと比べてひどいことをしているかどうか、という観点からではない。むしろ、タンジャ大統領がまともだったからこそ、つまり彼のニジェールがアフリカの中で数少ない希望だったからこそ、それを元の木阿弥にする彼のやり方に、失望しているのだ。

欧米諸国は、単にタンジャ大統領への批判から、声明を重ねているのではない。ニジェールの民主主義を何とか支えようとしているのである。10年の月日を重ねて、ようやく軌道に乗り始めた、民主主義のルールに基づいた政治機構。それを、タンジャ大統領の好き勝手で台無しにしてはいけない。欧州諸国の断固とした立場は、ニジェールの国内で今日も民主主義を信じて行動している人々への、応援歌なのだ。

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