「見習いの魔法使い(apprenti sorcier)」という言葉がある。魔法がどういう大それたことになるのか、どう収拾するのか方法も習わないまま、魔法使いが魔術を好き勝手に使えば、世の中は大混乱である。後先を考えず、手がつけられない乱暴勝手をする人のことを、そう表現する。
アフリカ専門の週刊誌として定評のある、「ジュンヌ・アフリック」誌が、「見習いの魔法使い」という見出しを掲げて、表紙記事を出した。ニジェールのタンジャ大統領のことである。大統領の無手勝流に、ここのところ、みなが顔をしかめている。それでも、タンジャ大統領は、強硬に押し切った。国際社会の反対も、国内の野党勢力の反対も、なにもかも押し切って、何をしたのか。反対派の大粛清でも行ったのか、流血の衝突でも起こしたのか。そういうことは幸いにしてない。何をしたのかというと、憲法改正の国民投票を行ったのである(8月4日)。
憲法を改正しようという話とはいえ、国民投票で民意を問うというのは、民主的な進め方ではないか。クーデタとか軍事政権が出来たとかいう話でもあるまいし、なぜそんなに問題になるのだ。実は、この憲法改正、タンジャ大統領が大統領選挙をしないでも、このまま任期を越えて大統領を続けられるようにしよう、というものである。なんとも自分に都合のいい憲法を作って、これからもずっと、大統領で居続けようというのである。
タンジャ大統領は、1999年の大統領選挙で当選し、民選大統領として就任した。そして、2004年の大統領選挙も公明正大に行ったうえで当選し、現在2期目を務めている。クーデタが頻発し、軍事政権が続いたニジェールで、民主主義が順調に定着しつつあることに、国際的にも評価が高かった。さて、2期目の任期は、今年2009年末で切れる。今年11月に再び大統領選挙が行われる、はずであった。
ここで、タンジャ大統領はもう一回、と思ったのである。ところが、大きな障害があった。憲法である。ニジェールの憲法は、大統領の3選を禁じている。つまり、タンジャ大統領はもう大統領選挙には出られない。そういうことなら憲法の規定を守って、後進に道を譲るといって、タンジャ大統領が潔く身を引くなら、問題はなかった。ニジェールの民主主義は安泰で、タンジャ大統領は、ニジェールの民主化を定着させた大統領として、栄誉を不動にしたであろう。
ところが、タンジャ大統領は、自分はもっと大統領を続ける、憲法が駄目というなら、憲法を変える、と言いだした。そこからの強引さが、なかなか凄い。憲法改正には、国会議員の4分の3が賛成して発議され、5分の4が賛成投票しなければならない。ところが、今回の憲法改正には、与党が過半数を占めている国会であるにもかかわらず、半数以上の国会議員が、反対を表明した。
そして国会は、憲法裁判所に違憲審査を求めた。憲法裁判所というのは、日本でいえば最高裁判所にあたる司法機関である。憲法裁判所は、大統領職の3選は現憲法が禁止しているので、それを可能にするような国民投票は違憲である、という判断を下した。そうしたら、そういう判断を憲法裁判所に求めるような国会は怪しからんということだろうか、タンジャ大統領は国会を解散してしまった(5月26日)。
6月5日、タンジャ大統領は大統領令を発し、新憲法採択を問う国民投票を行う旨を公にした。そうしたら、憲法裁判所は、そんな大統領令は違憲であると断じ、その取り消しを命じた。これではタンジャ大統領は、国民投票が実施できない。でも、タンジャ大統領は、そんなことぐらいでは挫けない。6月26日、「特別権限」を行使すると宣言した。これは憲法に規定される大統領の権限であり、「共和国の独立が脅かされている場合」に、大統領は「行政命令と大統領令のみをもって国家を統治できる」のである。
共和国の独立を、いったい誰がどう脅かしているのか。いつもと変わらず平穏なニジェールなのであるが、構わない。憲法に書いてある「魔法」だから、使ってしまうのである。これで、憲法裁判所が違憲と言おうが、誰が何を言おうが、大統領令だけで国民投票ができるのだ、ということになった。そのうえで、憲法裁判所の裁判官を罷免し、憲法裁判所を解散してしまった(6月29日、その後新たな裁判官を任命)。
新憲法の草案を発表し、3週間の周知期間をおいて、一昨日(8月4日)に国民投票を実施した。国民投票による賛意は、投票総数の過半数で成立するというから、新憲法は無事に成立するだろう。そして、この新憲法の規定に従って、タンジャ大統領はあと3年自動的に任期延長(2012年まで)、その後も選挙で当選しさえすれば、何期でも大統領を続けられるようになる。それだけではなく、新憲法は首相職を廃止し、なんと大統領が首相でもある、という規定になっている。大統領に全権が集中する仕組みである。
3選禁止の規則を無視するだけでなく、対立候補との選挙戦もないまま大統領の座を確保し続ける。国民投票で好き勝手に憲法を変えて、そういうことが出来るというのなら、憲法政治というのはどこに行くのか。このタンジャ大統領のやり方に、国際社会は反発している。国連事務総長をはじめ、フランス、欧州連合、米国、カナダなどの欧米諸国も声明を出して、タンジャ大統領のやり方を非難してきている。
日本はどうするか。もちろん、タンジャ大統領のやり方を是認するわけにはいかない。きちんと現行憲法を守って、潔く身を引いてほしかった。日本もタンジャ大統領を非難するべきだろうか。私は、ニジェールの大使でもあるので、ここは考えをまとめなければならない。
アフリカ専門の週刊誌として定評のある、「ジュンヌ・アフリック」誌が、「見習いの魔法使い」という見出しを掲げて、表紙記事を出した。ニジェールのタンジャ大統領のことである。大統領の無手勝流に、ここのところ、みなが顔をしかめている。それでも、タンジャ大統領は、強硬に押し切った。国際社会の反対も、国内の野党勢力の反対も、なにもかも押し切って、何をしたのか。反対派の大粛清でも行ったのか、流血の衝突でも起こしたのか。そういうことは幸いにしてない。何をしたのかというと、憲法改正の国民投票を行ったのである(8月4日)。
憲法を改正しようという話とはいえ、国民投票で民意を問うというのは、民主的な進め方ではないか。クーデタとか軍事政権が出来たとかいう話でもあるまいし、なぜそんなに問題になるのだ。実は、この憲法改正、タンジャ大統領が大統領選挙をしないでも、このまま任期を越えて大統領を続けられるようにしよう、というものである。なんとも自分に都合のいい憲法を作って、これからもずっと、大統領で居続けようというのである。
タンジャ大統領は、1999年の大統領選挙で当選し、民選大統領として就任した。そして、2004年の大統領選挙も公明正大に行ったうえで当選し、現在2期目を務めている。クーデタが頻発し、軍事政権が続いたニジェールで、民主主義が順調に定着しつつあることに、国際的にも評価が高かった。さて、2期目の任期は、今年2009年末で切れる。今年11月に再び大統領選挙が行われる、はずであった。
ここで、タンジャ大統領はもう一回、と思ったのである。ところが、大きな障害があった。憲法である。ニジェールの憲法は、大統領の3選を禁じている。つまり、タンジャ大統領はもう大統領選挙には出られない。そういうことなら憲法の規定を守って、後進に道を譲るといって、タンジャ大統領が潔く身を引くなら、問題はなかった。ニジェールの民主主義は安泰で、タンジャ大統領は、ニジェールの民主化を定着させた大統領として、栄誉を不動にしたであろう。
ところが、タンジャ大統領は、自分はもっと大統領を続ける、憲法が駄目というなら、憲法を変える、と言いだした。そこからの強引さが、なかなか凄い。憲法改正には、国会議員の4分の3が賛成して発議され、5分の4が賛成投票しなければならない。ところが、今回の憲法改正には、与党が過半数を占めている国会であるにもかかわらず、半数以上の国会議員が、反対を表明した。
そして国会は、憲法裁判所に違憲審査を求めた。憲法裁判所というのは、日本でいえば最高裁判所にあたる司法機関である。憲法裁判所は、大統領職の3選は現憲法が禁止しているので、それを可能にするような国民投票は違憲である、という判断を下した。そうしたら、そういう判断を憲法裁判所に求めるような国会は怪しからんということだろうか、タンジャ大統領は国会を解散してしまった(5月26日)。
6月5日、タンジャ大統領は大統領令を発し、新憲法採択を問う国民投票を行う旨を公にした。そうしたら、憲法裁判所は、そんな大統領令は違憲であると断じ、その取り消しを命じた。これではタンジャ大統領は、国民投票が実施できない。でも、タンジャ大統領は、そんなことぐらいでは挫けない。6月26日、「特別権限」を行使すると宣言した。これは憲法に規定される大統領の権限であり、「共和国の独立が脅かされている場合」に、大統領は「行政命令と大統領令のみをもって国家を統治できる」のである。
共和国の独立を、いったい誰がどう脅かしているのか。いつもと変わらず平穏なニジェールなのであるが、構わない。憲法に書いてある「魔法」だから、使ってしまうのである。これで、憲法裁判所が違憲と言おうが、誰が何を言おうが、大統領令だけで国民投票ができるのだ、ということになった。そのうえで、憲法裁判所の裁判官を罷免し、憲法裁判所を解散してしまった(6月29日、その後新たな裁判官を任命)。
新憲法の草案を発表し、3週間の周知期間をおいて、一昨日(8月4日)に国民投票を実施した。国民投票による賛意は、投票総数の過半数で成立するというから、新憲法は無事に成立するだろう。そして、この新憲法の規定に従って、タンジャ大統領はあと3年自動的に任期延長(2012年まで)、その後も選挙で当選しさえすれば、何期でも大統領を続けられるようになる。それだけではなく、新憲法は首相職を廃止し、なんと大統領が首相でもある、という規定になっている。大統領に全権が集中する仕組みである。
3選禁止の規則を無視するだけでなく、対立候補との選挙戦もないまま大統領の座を確保し続ける。国民投票で好き勝手に憲法を変えて、そういうことが出来るというのなら、憲法政治というのはどこに行くのか。このタンジャ大統領のやり方に、国際社会は反発している。国連事務総長をはじめ、フランス、欧州連合、米国、カナダなどの欧米諸国も声明を出して、タンジャ大統領のやり方を非難してきている。
日本はどうするか。もちろん、タンジャ大統領のやり方を是認するわけにはいかない。きちんと現行憲法を守って、潔く身を引いてほしかった。日本もタンジャ大統領を非難するべきだろうか。私は、ニジェールの大使でもあるので、ここは考えをまとめなければならない。
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