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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

陶芸の国日本

2009-08-05 | Weblog

さて、そのカブラン親方の作品を見せてもらう。店には、植木鉢だけでなく、花瓶やお椀やお菓子入れなどが並んでいる。全部素焼きで、パステルカラーのような色合いの絵付が施してある。
「本当は、釉薬を掛けて、鮮やかな色どりに仕上げたいのですがね。そうするには、薪で焼き上げるだけでは、温度が低すぎるのです。この窯では、9百度まで上げるのが限界です。釉薬を溶かすには、ガスバーナーを入れて、1200度以上の高温にしなければならない。」

薪で焚く窯では限界がある、ということで、隣にはガスバーナーの窯を建設中である。これも手作りだ。ところが、さすがの自助努力の親方にも、高温の窯を手に入れたとしても、どうにも困った限界があって、釉薬をかけた陶器の製作には、まだ取り掛かれない。それは、技術の壁である。

「釉薬の配合が分らない。本には、銅、コバルト、マンガン、クロムなどの酸化物を配合すると書いてあります。生地の粘土には燐も混ぜ込むようです。でも、実際に何をどの分量で入れればいいのか、まったく見当がつかない。」
アビジャンに数カ所ある、この親方のような窯元が一緒になって、ここの中国大使館に技術協力で教えてもらえないかと、頼みに行ったこともあるという。でも中国の陶工による技術指導は、なかなか実現する見通しにはない。

親方の夢は、このコートジボワールの経済発展をも見越している。
「有望なのが、建設用煉瓦です。現実に、経済復興とともに、煉瓦の需要は急増しているのです。ところが、そうした煉瓦が、国内で生産できていない。結局、みな輸入に頼ることになり、貴重な外貨を使っていく。コートジボワールの国内に、優良な材料、つまり粘土はふんだんにあるのに、残念なことです。」

すでに、粘土を成型する煉瓦製造機を一つ手に入れた。粘土を入れて蓋を閉め、粘土を固める仕組みになっている。こうして固めた粘土を、窯で焼き上げる。この機械では、しっかりと硬い煉瓦にするために必要な、32トンの圧力をかけることができる。ところが、これでは1回のプレスで、1つしか作れない。親方は、店の奥からカタログを取り出してくる。
「連続して粘土を成型する、煉瓦プレスの機械があるのです。南ア製です。これさえあれば、採算が合う規模で、煉瓦を製造していくことができる。しかも、いろいろな込み入った形にも成型できます。元手さえあれば、この機械を手に入れて、私の組合でどんどん国内産煉瓦を焼いていくのに。有望な市場はそこに見えているが、手が出せない。悔しいですね。」

親方は資金不足を嘆いているのか、と思ったら、それよりもむしろ政治に憤慨している。
「政治家たちはなにをやっているか、ですよ。危機になる前は、私の陶芸製品に、ずいぶん需要があったのです。民芸品として観光客にも売れていたし、フランスにまとめて輸出したりしていました。それがここ10年、まったく駄目になりました。政治さえ正常になれば、私の商売はうまくいくのです。煉瓦プレス機を買うくらいの資金は出来ていたでしょう。それを、大統領選挙をいつまでも行わず、いつまでも危機を引きずっている。」

そして、一般庶民はもういい加減怒っているのだ、という。
「皆、政治家たちの議論にあきれている。何がいったい、象牙性なのか。私の一族はアボワソ(Aboisso)出身だけれど、ガーナはすぐ隣で、村の多くの家はガーナに本家がある。誰もが親戚の中に「外国人」がいる。私だって、祖父の一人はマリ人だ。そういう国なのですよ、コートジボワールは。アフリカの国境は、勝手にひかれたものでしょう。コートジボワール人か、そうでないか、分けようというのが、どだい無理な議論だ。」
大統領選挙をさっさとやれ、ということですね、と聞くと、当たり前だ、どこの国でもやっていることがなぜ出来ないか、とまことに真っ当に怒っている。

日本はいい国ですね、と親方。経済先進国として尊敬する、と月並みな賛辞がくるのかと思っていたら、違う。日本は、陶器製造を芸術として見てくれる国だ、という。
「この間も、テレビの番組を見ていたら、鳥肌がたちましたよ。日本の陶芸についての番組で、ある年配の陶芸家が登場して、自分で粘土に手を付けてろくろを回しながら、芸術を語っているのです。その人は、なんと首相経験者というではないですか。陶芸をやる人間として、とても勇気づけられましたね。」

さすが陶芸の国日本だ、その日本で活躍する、陶工の人たちとの交流が出来たらいいのだが、と親方は言った。植木鉢を買いに来ただけだったけれど、思わぬ方向に話が発展しそうだ。陶芸を通して、日本とコートジボワールで文化交流を進めるというのは面白い案だ。そう、釉薬のノウハウについてぐらいは、日本からの技術協力で、何か出来るかもしれない。

 親方の作品

 壷が並ぶ

 煉瓦製造機、一つづつプレスする

 このカタログの機械が手に入れば
大量生産できる南ア製のプレス機

 親方の作品、菓子器

 親方の作品、花瓶


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