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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

親方の自助努力

2009-08-04 | Weblog

植木鉢が必要になった。植木鉢といっても、蘭を植えるためのもので、底だけでなくて周りにもたくさん穴があいた、風通しのよい特殊な鉢である。そうした鉢を、アビジャン市内のある陶器工房で作っているのを知っていたので、早速買いに行った。

その陶器工房は、湖沼に沿って、家具屋や木工細工の店が軒を並べる地区にある。店に入ると、めざす穴開きの植木鉢は、道路に面した入り口にたくさん陳列してあったが、売り子も誰もいなくて、呑気なものである。誰かいますか、と呼ばわりながら店の奥に入っていくと、工房で昼寝をしていた子供が、私の姿に驚いて、親方を呼びにいった。

親方が出てきたので、私は、店に並べてある植木鉢がほしい、と伝えた。
「あなた、日本の大使ですよね。」
と、いきなり身元が割れてしまっている。テレビで見て、お顔を見知っていますから、と言われる。今日は週末で、のんびりとした服装で出てきたところであるのだが、このように顔を知られているのでは、いい加減な格好では街を歩けない。

日本大使と知れたからには、親方の案内で、陶器工房の中を見せてもらうことになった。工房といっても、湖沼に面した空き地に、掘立小屋が並んでいて、さまざまな道具や機材が、雑然と置いてあるだけである。製作中の陶器が、乾かすために並べてある。その間を、鶏の親子や、猫が行き来している。

「私は、1977年に職人として独立しまして、以来もう30年になります。」
と親方。年のころ50歳くらいだろうか。
「アビジャンには、私の工房のほかに、あと数軒の陶器工房があります。これらの陶器工房が一緒になって、協会を作っておりまして、私が協会長をやっています。」
親方は、名刺を差し出す。名刺には、「コートジボワール陶工協会」のアカ・カブラン協会長、と刷ってある。

アビジャン周辺には、粘土を産する地区が、何か所もあるという。粘土はよほど良質で、ほとんど砂粒が混じっておらず、そのまま陶器製作に使える。カブラン親方が使っているろくろを見せてもらう。足で蹴って回すろくろの、足で蹴る部分がゴムタイヤのようなもので覆われており、横に電動モーターがくっつけてある。
「電動のろくろが欲しいが、高くて勿体ないのでね、自分で作りました。」
電動モーターの回転が、ゴムタイヤを摩擦して、ろくろが回る仕組みになっている。

粘土を成型したら、そのあと焼成窯に入れて焼き上げる。窯は、工房の片隅にあって、煉瓦を積み上げた、素朴ながらがっしりしたものであった。火は薪をくべておこすという。私は、先日カティオラという陶芸の街に行った話をする。カティオラの陶芸学校では、焼成窯が壊れていて、困っていると言っていた。生徒たちは作品を作っても、焼きあげることができない。粘土細工のままで終わるなら、焼き物とはいえない。

「その陶芸学校は、政府が新しい窯を買ってくれるのを待っているんだと思うけれど、それではいつまでたっても埒があかないですよ。窯を作るのには、ずいぶんと資金が要るのです。この私の窯は、私が自分で築いたものですけど。」
と言いながら、親方は傍らの煉瓦を一つ取り上げる。
「この特殊な煉瓦、耐火煉瓦で組み上げていかなければなりません。それで、この煉瓦は、ひとつ4千フラン(約千円)します。窯を一つ作り上げるにはそれが5千個必要です。そうすると、掛け算で全部でいくらかかるか分るでしょう。そんなお金は、政府からは中々出てこない。」

ほほう、それは大変な投資である。親方には、よくそんな資金があったものだ、と感心してみせる。
「そこは、頭の使いよう。ほら、この湖の向こうに、石油精製工場があるでしょう。」
と、対岸の工業地帯を指さす。
「あそこの工場には、石油を精製するための炉があります。その炉では、数ヶ月毎に、焦げた耐火煉瓦をはがして、新しいものに貼り直します。その時に出かけて行って、捨てられた煉瓦をもらってくるのです。その中には、まだ十分使えるものがたくさん混じっていますから。」

親方は、そうしたお古の煉瓦を、こつこつ5千個も集めたのだ。これが、もらってきた煉瓦の一つです、といって予備の煉瓦を見せてくれた。この耐火煉瓦は、2200度の高温まで大丈夫なのだという。そうして、集めた煉瓦で窯を組み上げた。これで、ひと月に3回ほど火入れをして、焼き物を焼いている。資金がなくても、知恵で窯を手に入れた。

さきほどの自作の電動ろくろといい、自分で建設した窯といい、自助努力の精神である。コートジボワールでは、往々にして、すぐに誰かに懇願する人、支援がくるのをただ待っている人が多いなかに、こういう人もいるものだ。親方の逞しさに、私は大変感心している。

 陶器工房

 アカ・カブラン親方
「コートジボワール陶工協会」の協会長

 自家製の電動ろくろ

 自家製の窯

 現在製作中のガス窯、これも自作

 これが集めてきた耐火煉瓦
「22」とあるのは耐火性2200度ということ


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