「俺はマレンケ族だという、お前はベテ族だという。
パパはジュラ族だ。でも、みんなコートジボワール人さ。
俺はムスリムだという、お前はキリスト教徒だという。
先祖はみんな自然崇拝だ。そして、みんなアフリカ人さ。」
ティケン・ジャー・ファコリさんが「アフリカ」を歌い出すと、聴衆は大騒ぎだ。数百本の腕が、空に突き出る。レゲエという音楽では、常に4拍子のリズムが、莫大な音量で流される。単調な音階が展開する中に、悠長に歌詞が重ねられる。そして、ティケン・ジャーさんの歌には、その歌詞に強烈なメッセージが隠れている。繰り返される歌詞に、政治への批判や、人間のこだわりの馬鹿馬鹿しさをぶつける。そのテーマは、常にアフリカである。
「ガーナには帝国があった、モシ族には英雄がいた。
アシャンティ族には王様がいて、マンダング族には栄光があった。
ヌミビアには王国があって、もちろんエチオピアのラスタファリ王朝を忘れてはいけない。
どの国にも、豊かな文化がある。その文化は、われわれのものだ。」
そして、ティケン・ジャーさんは、「ドミニカー」と歌う。なぜ、ドミニカなのだ。
満場の聴衆が唱和して、「アーフリカー」と応える。
ティケン・ジャーさん「コロンビアー」、聴衆「アーフリカー」。
ティケン・ジャーさん「ジャマイカー」、聴衆「アーフリカー」。
ティケン・ジャーさん「アメリカー」、聴衆「アーフリカー」。
そうだ、われわれはどこの誰でもない、アフリカ人だ。みなが一緒に確認して盛り上がる。
「国境を開けろ」という曲に移った。みな大好きな曲らしい。コンサート会場全体が叫び出す。
「国境を開けろ、国境を開けろ。
夏だって冬だって、君たちのことはいつも受け入れている。
僕たちだって、君たちのところに行きたい。
門を開けてくれ、国境を開けろ。」
「僕たち数万人は、君たちと同じように旅行がしたい。
君たちと同じように働きたいのに、ビザを拒否される。
勉強もしたい。いい職業につくことを夢見ている。
こちらの人生は酷いから、そこから抜け出したいのだ。」
そういう歌詞が延々と続いた後、ティケン・ジャーさんは、音楽を背景に、「語り」にはいる。
「そうだ、ヨーロッパに行きたい。ヨーロッパで自由にやりたい。でも、アフリカだって自由だ。君たちはアフリカを捨てるのか。アフリカで働いて、アフリカを良くしよう。フランスできつい肉体労働をすることだけが、人生の夢であるはずはない。アフリカに残って、アフリカを良くしよう。」
と、歌詞と正反対のことを、若者たちに語りかける。
そして、曲の締めくくりに、「国境を開けろ、国境を開けろ」とリフレイン。
「わがートジボワール」という曲が始まった。
「政治が私の国をひどいことにしてしまった。
この歓待の国を、友愛の国を、政治家たちが駄目にした。
わがコートジボワールよ、君が武器を取るのはもう見たくない。」
「わが友は北から来た、ムスリムの三日月を下げながら。
別の友は南から来た、ヤムスクロの十字架を下げながら。
一緒に農園に出て、一緒に働いた。
ところが戦争は二人を別々の側に置く。「象牙性」の名の下に。」
「内輪げんかをする家族は、絶対に豊かにならない。
兄弟も姉妹も、団結しなければ未来はない。
ともに手を取って働かなければ。さあ今や、団結の時がきた。」
そして、ティケン・ジャーさんは、また「語り」にはいる。
「日本は繁栄した、豊かな国だ。でも、日本にも困難な時期があった。戦争でめちゃめちゃに破壊された国だった。それから日本の人たちは、そういうところから始めて、働いて豊かになった。そうして今や、世界第一の経済大国になった。アフリカにも出来る。子どもたちのために、素晴らしいアフリカを作ろう。アフリカを、祝福された大陸にしよう。」
マンの若者たちにむかって、日本を語ってくれた。たいへん得をした気分だ。
「ああ、わがコートジボワールよ。君が涙に濡れるのはもう見たくない。
ああ、わがコートジボワールよ。君が武器を取るのはもう見たくない。」
歌ううちに、強い夕日を差し伸べながら、西の山端に太陽が沈んだ。夕闇が深まり、照明が狂ったように回る。若者たちは、両手を挙げて揺らしながら、ずっと踊り続けている。野外コンサートは、ここマンでは9年ぶり。だれもが長く忘れていた、平和の文化だ。そして、ティケン・ジャーさんは、祖国とアフリカを歌い続けていた。レゲエで泣けるものなのだろうか、涙を流しながら一緒に歌っている人がいた。 開場を待つ
今日は盛り上がるぞ
満場の聴衆
舞台で挨拶
コンサートが始まる
熱唱、ティケン・ジャー
とっぷり日が暮れた
ティケン・ジャー・ファコリさん
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- Unknown (地球)
- 2009-07-31 05:18:52
- レゲの4拍目、数え方によっては2拍目、は胸をズシーンと打つ。音は物理的だと実感する。座っている人たちが段々立ち上がって、体を左右に揺らす。人海が波を打つ。自然と一体感が起こる。ボブ・マーレイ楽団の大音響レゲをジャマイカで聴いたときの強烈な印象を思い出した。ジャマイカのコーヒー・プランテーションには荘園主の館があって、ブルー・マウンテン・コーヒーをボン・チャイナで飲む。酸味が程よく、ミルクも砂糖も要らない。本屋に,アフリカから連れてこられた荘園労働者が、過酷な環境から逃げようとしたので、その名になった、runaway caveの話を綴った小さな薄いザラ半紙の本があった。だからジャマイカは、中南米だけれどもスペイン語じゃなくて英語。高級ホテルのジャマイカ人のボーイの得意の返事は、「アイリー」。これは、"no problem" という意味だそうだ。どこからきたのか。
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