国祭日といえば、7月にはもう一つ、大事な国祭日があった。7月4日、米国の独立記念日である。今年もこの日、米国大使の公邸の広い庭には、大きなテントがいくつも張られ、祝賀レセプションが用意されていた。さすがに、米国の独立記念日ということもあって、主要閣僚や、日頃新聞紙面に載っているような有名人達が、たくさん来ている。
米国とコートジボワールの、両国国歌が流れたあと、米国大使が挨拶に立つ。
「今年は、大変意義深い年になりました。米国の歴史始まって以来、有色人種として初めて、しかもアフリカ系の血筋を引く、バラク・オバマ大統領が、第44代大統領として、就任したのです。」
ご自身も、アフリカ系の女性大使であり、その喜びの言葉には実感がこもる。
とはいえ、私は少し可笑しかった。この米国大使は、昨年の11月にオバマ候補が当選したとき、あまりに皆が「黒人大統領誕生おめでとう」というものだから、語気を荒げて言っていたものだ。
「黒人であろうが、白人であろうが、オバマ大統領の資質には違いはないわ。新しい米国の大統領が誕生した、それだけで十分素晴らしいことなのよ。」
それもその通りだろう。でも、オバマ大統領誕生への、アフリカ諸国の熱狂は、想像以上のものだった。コートジボワールでも、オバマ・カフェや「散髪店オバマ」は出来るし、オバマTシャツは氾濫するし、小型バスは胴体にオバマ大統領の顔を大きく描き込んで走っている。こうしたオバマ人気を目の当たりにして、アフリカ諸国との関係増進にはこの熱狂に乗らない手はない、米国の外交当局として、そう考えたに違いない。だから、米国大使も、独立記念日の演説では、堂々と「アフリカ系大統領オバマ」を売り込むことにしたのだ。
7月11日に、オバマ大統領がガーナを訪問したことは、アフリカにとって大変な栄誉と考えられた。ロシアという重要国や、ラクイラのG8サミットを訪問したあと、いきなりアフリカを外遊先に選んだのだ。ガーナでは議会制民主主義に基づいた、政治的安定を達成している。昨年11月の大統領選挙では、秩序立った選挙と、接戦にもかかわらず円滑に政権交代を実現した。多くのアフリカの人たちが、ガーナの本格的な民主主義を、自分のことのように誇らしく思ったのである。そのガーナを、オバマ大統領が訪れた。アフリカの熱い目に応え、そして同時に、民主主義を賞賛するために。
アッタ・ミルズ大統領と国民議会を前に、オバマ大統領は演説をした。この演説には、ガーナ国民だけでなく、アフリカ中の人々が熱心に耳を傾けた。
「しっかりとした民主主義の政府を支援する」と、オバマ大統領は訴える。
「民主主義とは、単に選挙を実施することだけではない。選挙と選挙の間に何が起こるかも重要だ。選挙を行っている国でも、抑圧がありうる。政治家が私欲を肥やすような国、警察が麻薬の運び屋に買収されているような国には、繁栄はない。収益の2割をピンハネするような政府や、港の税関長が汚職にまみれている国には、誰も投資しない。暴力や賄賂が、法の支配に優先するような社会には、誰も住みたくない。」
アフリカの人たちには、思い当たる節でいっぱいの、指摘の数々である。
「ガーナは、民主主義的精神の何であるかを、示して見せた。選挙で敗者となっても、その敗北を受け入れた。勝者は、不公正なやり方で敗者を叩きつぶす誘惑に負けなかった。そうしてミルズ大統領の、かつての敵対者達も、今こうしてミルズ大統領と一緒になって、私を迎えてくれている。間違えてはいけない。歴史は勇気あるアフリカの人々の側にある。クーデタに訴えたり、権力にしがみつくために憲法を変える連中の側にはない。」
コートジボワールのみならず、選挙を控える多くの国々の政治家達も聞いているはずだから、しっかりと釘を刺しておく。
「アフリカの将来は、アフリカ人の手にある。そして、私は特に、アフリカ全土の若者たちに呼びかけたい。若者たちは、人口の半分以上を占めているのだ。」
オバマ大統領の言うとおりだ。アフリカの未来は、若者たちがどう行動するかによって、大きく変わるだろう。
「世界は、あなた方が作るのだ。政治指導者たちを正しく責任を果すようにし向け、政治機構を人々のために働くようにする力が、あなた方にある。あなた方の活力と教育をもってすれば、新たな富と、世界への広がりを作ることが出来る。病気を克服し、紛争を止めさせ、そして底辺から働きかけて変革をもたらすことが出来るのだ。」
そして、オバマ大統領は、アフリカの人たちに、広く呼びかける。
「しかし、これらのことが成し遂げられるのは、あなた方が自分たちの未来に責任感を持って取り組む場合だけだ。それは簡単ではない。時間と努力が必要だ。苦労や後戻りもあろう。だが、私は約束する。米国はその道筋のどの一歩においても、あなた方の同伴者であり、あなた方の友人である。好機というものは、あなた方の下す決定、あなた方の行う行動、そしてあなた方の信じる希望から、現れてくるものなのだ。」
私が日頃言いたいことを、さすが稀代の演説の名手、オバマ大統領は実に上手く言ってくれている。そして何より、アフリカの人々は、私などよりも百倍も千倍も、オバマ大統領の言うことに耳を傾けるであろう。オバマ大統領の登場は、アフリカの人々との間に、相互理解のための強力な直通回線を設けたようなものである。
(続く)
米国とコートジボワールの、両国国歌が流れたあと、米国大使が挨拶に立つ。
「今年は、大変意義深い年になりました。米国の歴史始まって以来、有色人種として初めて、しかもアフリカ系の血筋を引く、バラク・オバマ大統領が、第44代大統領として、就任したのです。」
ご自身も、アフリカ系の女性大使であり、その喜びの言葉には実感がこもる。
とはいえ、私は少し可笑しかった。この米国大使は、昨年の11月にオバマ候補が当選したとき、あまりに皆が「黒人大統領誕生おめでとう」というものだから、語気を荒げて言っていたものだ。
「黒人であろうが、白人であろうが、オバマ大統領の資質には違いはないわ。新しい米国の大統領が誕生した、それだけで十分素晴らしいことなのよ。」
それもその通りだろう。でも、オバマ大統領誕生への、アフリカ諸国の熱狂は、想像以上のものだった。コートジボワールでも、オバマ・カフェや「散髪店オバマ」は出来るし、オバマTシャツは氾濫するし、小型バスは胴体にオバマ大統領の顔を大きく描き込んで走っている。こうしたオバマ人気を目の当たりにして、アフリカ諸国との関係増進にはこの熱狂に乗らない手はない、米国の外交当局として、そう考えたに違いない。だから、米国大使も、独立記念日の演説では、堂々と「アフリカ系大統領オバマ」を売り込むことにしたのだ。
7月11日に、オバマ大統領がガーナを訪問したことは、アフリカにとって大変な栄誉と考えられた。ロシアという重要国や、ラクイラのG8サミットを訪問したあと、いきなりアフリカを外遊先に選んだのだ。ガーナでは議会制民主主義に基づいた、政治的安定を達成している。昨年11月の大統領選挙では、秩序立った選挙と、接戦にもかかわらず円滑に政権交代を実現した。多くのアフリカの人たちが、ガーナの本格的な民主主義を、自分のことのように誇らしく思ったのである。そのガーナを、オバマ大統領が訪れた。アフリカの熱い目に応え、そして同時に、民主主義を賞賛するために。
アッタ・ミルズ大統領と国民議会を前に、オバマ大統領は演説をした。この演説には、ガーナ国民だけでなく、アフリカ中の人々が熱心に耳を傾けた。
「しっかりとした民主主義の政府を支援する」と、オバマ大統領は訴える。
「民主主義とは、単に選挙を実施することだけではない。選挙と選挙の間に何が起こるかも重要だ。選挙を行っている国でも、抑圧がありうる。政治家が私欲を肥やすような国、警察が麻薬の運び屋に買収されているような国には、繁栄はない。収益の2割をピンハネするような政府や、港の税関長が汚職にまみれている国には、誰も投資しない。暴力や賄賂が、法の支配に優先するような社会には、誰も住みたくない。」
アフリカの人たちには、思い当たる節でいっぱいの、指摘の数々である。
「ガーナは、民主主義的精神の何であるかを、示して見せた。選挙で敗者となっても、その敗北を受け入れた。勝者は、不公正なやり方で敗者を叩きつぶす誘惑に負けなかった。そうしてミルズ大統領の、かつての敵対者達も、今こうしてミルズ大統領と一緒になって、私を迎えてくれている。間違えてはいけない。歴史は勇気あるアフリカの人々の側にある。クーデタに訴えたり、権力にしがみつくために憲法を変える連中の側にはない。」
コートジボワールのみならず、選挙を控える多くの国々の政治家達も聞いているはずだから、しっかりと釘を刺しておく。
「アフリカの将来は、アフリカ人の手にある。そして、私は特に、アフリカ全土の若者たちに呼びかけたい。若者たちは、人口の半分以上を占めているのだ。」
オバマ大統領の言うとおりだ。アフリカの未来は、若者たちがどう行動するかによって、大きく変わるだろう。
「世界は、あなた方が作るのだ。政治指導者たちを正しく責任を果すようにし向け、政治機構を人々のために働くようにする力が、あなた方にある。あなた方の活力と教育をもってすれば、新たな富と、世界への広がりを作ることが出来る。病気を克服し、紛争を止めさせ、そして底辺から働きかけて変革をもたらすことが出来るのだ。」
そして、オバマ大統領は、アフリカの人たちに、広く呼びかける。
「しかし、これらのことが成し遂げられるのは、あなた方が自分たちの未来に責任感を持って取り組む場合だけだ。それは簡単ではない。時間と努力が必要だ。苦労や後戻りもあろう。だが、私は約束する。米国はその道筋のどの一歩においても、あなた方の同伴者であり、あなた方の友人である。好機というものは、あなた方の下す決定、あなた方の行う行動、そしてあなた方の信じる希望から、現れてくるものなのだ。」
私が日頃言いたいことを、さすが稀代の演説の名手、オバマ大統領は実に上手く言ってくれている。そして何より、アフリカの人々は、私などよりも百倍も千倍も、オバマ大統領の言うことに耳を傾けるであろう。オバマ大統領の登場は、アフリカの人々との間に、相互理解のための強力な直通回線を設けたようなものである。
(続く)
(里佳はフランスで)
ますますのご活躍をお祈りいたします。
ハイペースで言語をマスターされたことと思います。頑張って下さいませ。