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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

アフリカの広大な魅力

2009-07-13 | Weblog
しばらく筆を休めて、周りの様子をじっくり見なおすことにした。足元を、今一度照らしてみようと思ったのである。昨年9月にこちらに赴任して以来、反射神経で仕事をしてきたようなものだ。外交というのは待ったなしである。知らない、準備がまだだ、という言い訳はきかない。懸案は、赴任した次の日から起こる。大使としては、あたかも何年もこの仕事を続けてきているかのように対処し、大使としての反応を示さなければならなかった。

正直言って、私は、コートジボワールという国に足を踏み入れるのは全く初めて。いやコートジボワールはおろか、西アフリカの地域のいずれの国にも生活の経験がない。もちろん5年ほど前に、フランスの日本大使館で、政治情勢と国際問題を担当していたときに、旧仏領のアフリカ諸国情勢を研究していた。2004年にコートジボワールで反仏暴動が起きた。フランス人の居住者が、大挙して軍の輸送機に分乗して脱出する大騒動を、大使館のテレビを見ながら追っていたことは、よく覚えている。しかし、そうした情報は、フランス外交を知るための材料であった。コートジボワールの現地事情への知見は、表面にとどまっている。

だから、こちらに着任してから、言ってみれば走りながら勉強してきた。見聞きするもの一つ一つに、新しい発見や、新しい視点を見出して学んできた。ブログにも、そうした初めて出会う驚きなどが、正直に綴ってある。コートジボワールやアフリカに長年従事してきた方々からみれば、私の記事に、何と浅薄な理解だろうという思いを持たれたかもしれない。私自身が、振り返ってそう思うところがある。時日が経つにつれて、理解したつもりのことにも、よく研究すると二重にも三重にも裏があることが分ってくる。また、西アフリカの歴史、文化的・社会的な背景を理解したうえで、初めて見えてくることがある。旅行者の見聞と異なり、外交官としての観察は、まず相手の文化に謙虚でなければならない。

そこで、ここしばらくの間、前に読んだコートジボワールについての文献や書籍を、もう一度読み直してみたのである。昨年、大使として赴任すると決まったときに、フランスから大急ぎで仕入れて読み進めた本などである。ウフエボワニ大統領逝去(1993年)後の歴史を、再び追った。とくに2002年の国家分裂の危機以降に、どのような出来事が起こり、どういう人々がどういう役割を演じてきたのかを、フランス人研究者や、コートジボワールの新聞記者が書き残したものを通して、整理し直してみた。

実に面白い作業だった。日々、新聞などを追っていて、なぜそういうことが事件になるのかとか、どうしてそもそも話題になるのか、とか不思議に思うことが、しばしばあった。ところが、過去の歴史を追ってみると、その伏線となるような出来事がある、ああこれだったんだ、と理解できる。例えば、バグボ大統領が、ある土地を訪問した、演説の中である表現を使った。それらの意味や文脈は、コートジボワールの歴史を生きてきた人々にはぴんとくる。なぜ、大きな事件性を帯びたものなのか、背景がわかって初めて理解できる。だから歴史を振り返りながら、あたかも推理小説の、最後のなぞ解きを読んでいるような気分になる。

もっとわくわくしたのは、そうした書籍や文献の中に、見知った名前がたくさん出てくることである。私が、こちらに来て以来面識を持った多くの人々が、それなりの社会の指導者ばかりだから当然と言えば当然ながら、この危機の時代に何らかの重要な役割を演じてきているのだ。あの人が、そういう経歴を持っていたのか、とか、この人があの時にこんなことを発言していたのか、とか、実に驚きの事実が並んでいる。これは、大使という職業の醍醐味かもしれない。「歴史上の人物」と接触がある。「織田信長」や「武田信玄」と、日々つきあっているようなものだ。

さらに、伏線や文脈をよく知るためには、コートジボワールという一国についての理解だけではなくて、もっと広いアフリカ全体の問題への理解を要する。コートジボワールが抱える問題は、他のアフリカ諸国に共通する事情や背景に由来するものも多い。だから、物事の理解には、深い知識だけでなく、広い知識も必要となってくる。それを追い始めるということになると、他の多くの人々が捕われたように、私はもう、アフリカの広大な魅力に、体半分引きずり込まれたようなものである。

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1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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お、再開しましたね! (やまだ)
2009-07-14 13:29:11
ブログ再開しましたね。vividなアフリカ事情を知るための貴重な報告ですから、楽しみにしています。
これからも健筆を期待しています。
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