兵士が戦争をもたらす、と多くの人は考える。実は違う。戦争が兵士をもたらす。戦争がなければ、兵士にはならなかった、そういう人々がたくさんいる。戦争の悲惨を経験した場所において、兵士たちは加害者であるとみられている。しかし、多くの場合には、戦争によって人生が捻じ曲げられた、被害者でもあるのだ。とくに若い兵士たちは、人生のはじめから戦争しか知らない。平和の中で生きることができなくなっている。
紛争が終わって、平和を求めるときに、そうした兵士たちの、失われた人生をいかに取り戻すのか。戦いの必要がなくなった世界で、武器をおいた兵士たちが、代わりに手に取るものがなければならない。そうすることによって、ほんとうに戦争の根が断たれ、平和と復興が始動する。だから、武装解除、動員解除が進むようにするために、兵士の社会復帰を確保していってやらなければならない。
つまり、兵士の再就職である。コートジボワールでも、紛争が終結し、北部の反乱軍であった「新勢力」の兵士たちを解散させ、兵営から村々に戻らせる必要が出てきた。人生の再出発は、そんなに容易なことではない。兵士というのは、とくに青少年の兵士は、戦うことしか知らない、生きる方法を知らない。人生再出発のための最低限の手段や道具を、兵士たちに教えてやり持たせてやる。そうした活動を、IRC(International Rescue Committee)というNGOが、私たちが訪れたマンを中心にコートジボワールの中西部において、行っていた。
私たちが一日中、マンの職業訓練学校などを視察したあと、夜遅くになって集会所に着くと、動員解除予定の兵士たちが、50人ばかり集まって待っていてくれた。社会復帰のためのIRCの支援を受けている兵士たちである。私たち一行は、兵士たちの一人一人にマイクを回して、除隊後の人生についてどういう見通しを持っているか、どういう問題があるかを聞いた。
「商売をするとはどういうことか、教えてもらいました。」
と、若い女性が発言する。いきなり元女性兵士の登場である。
「仕入れや売上、利益の計算の仕方とかです。それで、8人ほどの仲間で集まって、一緒に魚の販売を試みることにしました。IRCから、一人一個のアイスボックスを提供してもらいました。女性は私だけ、あとの7人は男性です。」
組合を作って、共同事業でやろうというのだ。内陸で山間部のマンだから、魚を仕入れて売るというのは、上手にやればけっこういい商売になるかもしれない。
「私も、IRCから商売を学びました。兵士になる前に少し手がけていたので、反物の仕入れ販売をしようと思います。でも、最初の反物を仕入れるための資金がなくて、困っています。つごう2万フラン(約5千円)が必要なのですが、誰も提供してくれません。」
男の人が訴える。そう、小さい商売でも小さいながら資金が要る。小規模金融(マイクロクレジット)という制度があると、こういう人たちの助けになる。
別の元兵士の男性も、自分は自動車部品を販売する事業を始めつつあるのだが、いくつかの重要な部品について、入手の方法が分からず、仕入れができないのだ、と困難を訴える。そう、商売といっても一朝一夕には軌道に乗らない。資金も回るようにしなければならないし、商品の入手経路や販路についても、長い間の実績の積み重ねで出来上がっていくものなのだ。素人が手を出しても、それこそ「武士の商法」で終わってしまうかもしれない。
「私は、自動車修理工がいいと思って、IRCから3カ月間、技術の研修を受けました。卒業にあたって、溶接の器具一式ももらいました。しかし、町に出て行っても、どこの修理工場からも雇い口はないといって、断られています。もう1か月、職探しをしています。」
と、別の男性が訴える。職能を身につけたといっても、必ずしも働き口があるとは限らない。
IRCは、その土地での労働市場で、どのような職種に需要が高いかを研究しながら、社会復帰の計画を策定している。その結果、ここ中西部では、大工や左官など建築関係の職人に需要が多い、農業では牧畜・養鶏などが成長産業として有望である、自動車・二輪車の増加が見込まれ、より多くの修理工が必要となるだろう、などの経済分析が出されている。さらにパン焼き、冷蔵商品販売、観光関係、服飾縫製、輸送業、などに今後の働き口が出てくるだろう、と予想している。そうした見通しのもとに、職業訓練を斡旋していく。IRCは、2003年以来これまでの活動で、自主除隊者534名、「新勢力」からの除隊予定者554名の、社会復帰を手伝ってきた。
IRCの担当の人が、私たちに説明する。
「たとえ元兵士たちが、一生懸命勉強しなおして、社会復帰に努力しても、ここの現地の人たちがうまく受け入れてくれないという問題があります。あいつらは、元兵士だ、乱暴者だ、というような偏見も根強いのです。一般の市民は、平和を強く望むがゆえに、これまで戦争に従事してきた人々につらくあたるのです。そういう元兵士たちを、あたたかく迎えることこそが、平和への助けになるのですが。」
さらに、この担当の人は、元兵士の側にも難しい目を向ける。
「元兵士というのは、決して強い人々ではない。むしろ自主性に欠ける、意志に弱い人々が多い傾向があります。つまり、兵隊というのは、本質は命令されて動く人々なのであり、自分で判断して決めていくということに慣れていない。さあ、自由に自分の人生を選んで行きなさい、といわれても、ただ不安がつのるだけなのです。だから、技術面や物資面だけでなく、気持ちの上から、自主独立の人生に導いてあげなければならない。」
それでも、私は何人かの元兵士の若者が、希望の言葉を述べてくれたことに、大いに勇気づけられていた。
「今は、僕は助けてもらっています。ありがとう、という気持ちです。でも同時に、こうして新しい人生を始めることに、誇りを感じています。そのうちに、ちゃんと商売に成功して、コートジボワールのお手本(exemplaire)になってやろうと思います。」
そうだ、こういう心構えの若者たちがいればこそ、国の復興に期待が持てる。今は未知で不安な行く末だけれど、決意をもってのぞめば必ず希望の未来がくるのだ。この高い志を述べてくれた兵士が、数十年後には立派な市民に成長して、社会を支えているに違いない。私はそう確信していた。
紛争が終わって、平和を求めるときに、そうした兵士たちの、失われた人生をいかに取り戻すのか。戦いの必要がなくなった世界で、武器をおいた兵士たちが、代わりに手に取るものがなければならない。そうすることによって、ほんとうに戦争の根が断たれ、平和と復興が始動する。だから、武装解除、動員解除が進むようにするために、兵士の社会復帰を確保していってやらなければならない。
つまり、兵士の再就職である。コートジボワールでも、紛争が終結し、北部の反乱軍であった「新勢力」の兵士たちを解散させ、兵営から村々に戻らせる必要が出てきた。人生の再出発は、そんなに容易なことではない。兵士というのは、とくに青少年の兵士は、戦うことしか知らない、生きる方法を知らない。人生再出発のための最低限の手段や道具を、兵士たちに教えてやり持たせてやる。そうした活動を、IRC(International Rescue Committee)というNGOが、私たちが訪れたマンを中心にコートジボワールの中西部において、行っていた。
私たちが一日中、マンの職業訓練学校などを視察したあと、夜遅くになって集会所に着くと、動員解除予定の兵士たちが、50人ばかり集まって待っていてくれた。社会復帰のためのIRCの支援を受けている兵士たちである。私たち一行は、兵士たちの一人一人にマイクを回して、除隊後の人生についてどういう見通しを持っているか、どういう問題があるかを聞いた。
「商売をするとはどういうことか、教えてもらいました。」
と、若い女性が発言する。いきなり元女性兵士の登場である。
「仕入れや売上、利益の計算の仕方とかです。それで、8人ほどの仲間で集まって、一緒に魚の販売を試みることにしました。IRCから、一人一個のアイスボックスを提供してもらいました。女性は私だけ、あとの7人は男性です。」
組合を作って、共同事業でやろうというのだ。内陸で山間部のマンだから、魚を仕入れて売るというのは、上手にやればけっこういい商売になるかもしれない。
「私も、IRCから商売を学びました。兵士になる前に少し手がけていたので、反物の仕入れ販売をしようと思います。でも、最初の反物を仕入れるための資金がなくて、困っています。つごう2万フラン(約5千円)が必要なのですが、誰も提供してくれません。」
男の人が訴える。そう、小さい商売でも小さいながら資金が要る。小規模金融(マイクロクレジット)という制度があると、こういう人たちの助けになる。
別の元兵士の男性も、自分は自動車部品を販売する事業を始めつつあるのだが、いくつかの重要な部品について、入手の方法が分からず、仕入れができないのだ、と困難を訴える。そう、商売といっても一朝一夕には軌道に乗らない。資金も回るようにしなければならないし、商品の入手経路や販路についても、長い間の実績の積み重ねで出来上がっていくものなのだ。素人が手を出しても、それこそ「武士の商法」で終わってしまうかもしれない。
「私は、自動車修理工がいいと思って、IRCから3カ月間、技術の研修を受けました。卒業にあたって、溶接の器具一式ももらいました。しかし、町に出て行っても、どこの修理工場からも雇い口はないといって、断られています。もう1か月、職探しをしています。」
と、別の男性が訴える。職能を身につけたといっても、必ずしも働き口があるとは限らない。
IRCは、その土地での労働市場で、どのような職種に需要が高いかを研究しながら、社会復帰の計画を策定している。その結果、ここ中西部では、大工や左官など建築関係の職人に需要が多い、農業では牧畜・養鶏などが成長産業として有望である、自動車・二輪車の増加が見込まれ、より多くの修理工が必要となるだろう、などの経済分析が出されている。さらにパン焼き、冷蔵商品販売、観光関係、服飾縫製、輸送業、などに今後の働き口が出てくるだろう、と予想している。そうした見通しのもとに、職業訓練を斡旋していく。IRCは、2003年以来これまでの活動で、自主除隊者534名、「新勢力」からの除隊予定者554名の、社会復帰を手伝ってきた。
IRCの担当の人が、私たちに説明する。
「たとえ元兵士たちが、一生懸命勉強しなおして、社会復帰に努力しても、ここの現地の人たちがうまく受け入れてくれないという問題があります。あいつらは、元兵士だ、乱暴者だ、というような偏見も根強いのです。一般の市民は、平和を強く望むがゆえに、これまで戦争に従事してきた人々につらくあたるのです。そういう元兵士たちを、あたたかく迎えることこそが、平和への助けになるのですが。」
さらに、この担当の人は、元兵士の側にも難しい目を向ける。
「元兵士というのは、決して強い人々ではない。むしろ自主性に欠ける、意志に弱い人々が多い傾向があります。つまり、兵隊というのは、本質は命令されて動く人々なのであり、自分で判断して決めていくということに慣れていない。さあ、自由に自分の人生を選んで行きなさい、といわれても、ただ不安がつのるだけなのです。だから、技術面や物資面だけでなく、気持ちの上から、自主独立の人生に導いてあげなければならない。」
それでも、私は何人かの元兵士の若者が、希望の言葉を述べてくれたことに、大いに勇気づけられていた。
「今は、僕は助けてもらっています。ありがとう、という気持ちです。でも同時に、こうして新しい人生を始めることに、誇りを感じています。そのうちに、ちゃんと商売に成功して、コートジボワールのお手本(exemplaire)になってやろうと思います。」
そうだ、こういう心構えの若者たちがいればこそ、国の復興に期待が持てる。今は未知で不安な行く末だけれど、決意をもってのぞめば必ず希望の未来がくるのだ。この高い志を述べてくれた兵士が、数十年後には立派な市民に成長して、社会を支えているに違いない。私はそう確信していた。
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