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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

統合と麻痺

2009-05-28 | Weblog
分裂していた国を再び統一する、という話は、普通は一方が他方を制圧するか飲み込むかである。かつてのベトナムがそうだったし、東西ドイツの統一もそうだった。ところが、コートジボワールについては、南北分裂の時期を通じて、どちらかがどちらかを圧倒するまでの優劣がついたわけではない。そこで武力ではなくて、話し合いで解決しようとしている。

そして、ワガドゥグ合意(2007年3月)が成立した。合意では、大統領選挙の実施や暫定合同政府の樹立とともに、国の機構の統一を目指すことになった。南北の双方が、すなわち政府側と反乱軍側が、互いの権威と勢力を認め合いながら、両方の権力機構を融合させる、というのである。

職業訓練学校の視察は、南北分裂の時代を経て、北部地域が現在どのような状態にあるのか、そして南北統一の試みが、北部地域ではどういうふうに展開しているのか、そうしたことを実地に観察する、良い機会となった。実際のところ、私にとってはそちらの視察目的の方も重要であった。職業訓練学校の視察は、なかなか出かける機会のない北部地域を渉猟するための、ひとつの口実であった。

「反乱軍」であったとはいえ、現在北部地域を押さえている「新勢力」は、2002年以来事実上の行政機構を形作ってきた。「新勢力」の軍事機構は、北部地域を10の司令区(com'zone)に分け、それぞれの司令官が、司令区内の秩序維持のみならずある程度の行政権を行使してきた。といっても、税金を取る仕組みなどないし、法律や制度をつくる仕組みもない。

それで、南北再統合にあたっては、行政権限をこれまでの司令官から「知事(préfet)」に委譲する、ということが必要となる。コートジボワールの行政制度は、フランス方式であって、知事といっても日本と違って地方選挙で選ばれるのではなく、大統領からの代官として派遣される行政官である。その行政官である知事が、大統領の名前において、法律を執行する、そういう制度である。

ワガドゥグ合意に従って、北部のどの主要都市にも、知事が再派遣された。だから、どこに出かけても、知事のところにまず挨拶に行くことになる。知事は地方の顔であり、だから一番偉い人ということになっている。ところが、北部では本当に権力を握っているのは、「新勢力」の司令官であるから、こちらの方が実質のところ偉い。だから、司令官にも挨拶をする。

私は、コロゴで知事に会ったので、一つ質問をした。「新勢力」の司令官から、首尾良く権限委譲が行われているか、司令官とうまく共存できているのか。
「もちろん、権限委譲は着実に行われています。司令官との関係も非常に良く、協力しあいながら行政を進めています。行政の権限といっても、警察権は「新勢力」側が引き続き掌握しています。私に委譲されるのは、一般行政の部分です。」
と、知事が応える。もちろん、他に代表団もいる前で、うまくやっていけない、というような受け答えは出来ないだろうけれど。

しかし、と知事が加える。
「この一般行政というのが、学校や道路の補修をしたり、公共サービスを提供したりするところから、公務員に給与を払ったり、コピー機を動かすというのに至るまで、皆お金がかかる。以前は、そういう経費は、国民の税金から還元されて、地方に支払われていたわけです。ところが、ここでは税金を取る仕組みが復活していないし、アビジャンの政府から資金が送られてくることはない。今のところ地方財政は、国庫とつながっていないのです。これでは、行政権限を委譲してもらっても、私としては何の行政も出来ない。」

確かに、行政経費をどのように捻出するのか、これは大問題だ。徴税の制度も壊れてしまっており、要するに収入は全くないのだ。
「これまでは、道路に穴があいたりしたら、「新勢力」の兵士たちがやってきて補修していました。予算の伴わないまま私に権限が委譲されても、私では道路の補修もできない。」
コルゴ知事は、あきらめ顔に言う。

予算の制度は、アビジャンの中央政府には一応整っていて、行政機構の各部に資金が流れていくようにはなっている。それとても、全国からの税金による歳入がないために、支払いが滞っている。ましてや、地方の省庁にまでは税金が流れてくるとは思えない。知事として情けないながら、司令官の支配であれば出来ていたことが、自分に権限が委譲されてしまうと出来なくなる、という矛盾がある。

それでも、権限の委譲は、どんどん進められることになっている。アビジャンで見る限り、それは南北統合の実現という、前向きの動きなのだが、北部地域の現状を見るならば、あるいは行政の麻痺状態が、どんどん広がっていくということにもなりかねないようだ。

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