青果業界「10年にひとりの逸材」と言われて アキダイ社長・秋葉弘道
アキダイ社長、秋葉弘道。野菜を売って、人に喜んでもらうのが嬉しくてたまらない。八百屋のアルバイトで「10年にひとりの逸材」と言われ、飛び込んだ青果業界。満を持して開店した店に客が来なければ、バスに向かって「大根10円」のフリップも出した。いまやコメントを求めてマスコミが列をなす有名店に。野菜のことなら、この男に聞け。 【写真】この記事の写真をもっと見る * * * 「毎度~、いらっしゃいませ~、いらっしゃ~い、はいどうぞ~」 これまで数え切れないほど、店頭で同じ声がけをしてきたからだろう。いつものハスキーボイスとは別人のような、よく通る声が響いていた。 ここは、東京都練馬区にある生鮮市場アキダイ関町本店(以下アキダイ)。声の主は、この店の社長、秋葉弘道(あきばひろみち・56)だ。アキダイは1992年、23歳だった秋葉が始めた八百屋をルーツにしたスーパーマーケット。葉物野菜が高騰している、米が買えないなど、とくに八百屋に関係するニュースがあると、テレビのクルーが列をなして社長のコメントを取りに来ることでも知られている。最近は異常気象や米不足などのニュースが続き、テレビで秋葉を見ない日はないくらいだ。 一方でアキダイはその品物のよさで、このあたりの繁盛店としても有名。本店があるのは西武新宿線の武蔵関駅から徒歩5分、JR吉祥寺駅からはバスで20分ほどかかる住宅街のど真ん中、周囲に商店が少ない場所に、自転車や歩きやバスで、お客さんがつぎつぎやってくる。その数は、1日1500~2千人にのぼるという。 「野菜はとくに新鮮。他ではあまり見かけない旬の野菜が置いてあったり、秋葉さんが情報をおしえてくれるのもいいですよね。そして何より値段も安いので助かります」
そう話すのは、近くの上石神井駅前で「旬創酒場 べっぴん」を経営する常連の榎本大介とかすみの夫婦だ。以前、大介が居酒屋に勤めていた17~18年前から、アキダイのお得意様。秋葉とも顔見知りで、独立して店を出したときには、出店の相談に乗ってもらったこともあるという。 ■年間300本以上コメント デビューは1999年 お客さんとやりとりしながら、呼び込みを続ける秋葉の声がときどき聞こえなくなるのは、だいたい昼過ぎからだろうか。フジテレビ、テレビ朝日、読売テレビなど午後の番組の撮影クルーが、秋葉へのインタビューを始めるからだ。 「この猛暑が野菜へ与える影響は?」 「逆に猛暑でおいしくなった野菜は?」 など、ぶっつけ本番で投げかけられる質問に、秋葉が店内の商品を見せながら答えていく。ちなみに6月の猛暑は、安かったブロッコリーの値段をつり上げ、旬のサクランボもかつてないほど高額に。一方、葉物野菜はこの先の猛暑を予測して、大量に出回り、一時の高値がウソのように値段も下落。ナスも猛暑でかえっておいしくなっていた。 「野菜は一番安いときが一番おいしい。今のうちに、たくさん食べておいてくださいね」 そうして店にいながらにして、年間300本以上の情報番組に出演する青果界きっての売れっ子コメンテーターだ。 「困っている人の力になって、喜んでもらうことがうれしいんですよ。お客さんに喜んでもらうのもそうだし、取材のみなさんにも、来てよかったと思ってもらいたいじゃない」 そんなサービス精神に支えられた秋葉のコメンテーターのデビューは、本人の記憶によると1999年にさかのぼる。所沢のホウレンソウからダイオキシンが検出されたという誤った情報がテレビから広まり、風評被害から所沢産のホウレンソウが1束10円まで下落してしまったときのことだ。 「まだアキダイなんて誰も知らない時代だったけど、所沢の市場でコメントを求められて答えた記憶がある。何て言ったかなあ。生産者を守って、みたいなことだったんじゃないかな」