なんか一人だけ世界観が違う   作:志生野柱

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 幸いにして、と言うべきか、フィリップたちは拘束や追放といった処分を受けなかった。

 それはフィリップが低劣と笑ったこの町の吸血鬼たちが、意外にも化け物として確立していたからでもあった。まあ、単にミナを恐れたというのが一番大きな理由ではあるが。

 

 彼らは同族を、或いは同じ町の住人を殺されたことに、殆ど頓着しなかった。

 フィリップたちが言われたことは、「暴れたいなら余所でやってくれ」という小言と、「所有者不在のペットは管理所に送る」という事後処理のことくらい。

 

 本当なら摘まみ出したいところだとしても、ミナ相手には不可能だ。

 彼らは恐らく、悪い意味での稀少種である第四世代以降の吸血鬼。本来は種族として持っているはずの鋭敏な感覚が殆ど無く、ミナが自分たちと隔絶した上位種であることに気が付かない。さっき出会った“収穫班”や、もう灰になったマダムがそうだったように。

 

 しかし、彼らは腐っても兵士──戦闘を生業としていた者たちだ。

 ミナが隔絶した化け物であることは分からなくても、卓越した剣士であることは、生前に身に付けた技量や観察眼で推察できたのだろう。

 

 反逆は死を意味する、と。

 

 それからは何事も無く──一部始終を見ていた住民からは遠巻きにされながら宿探しを再開した。

 

 ランナゲートは観光客が特別多い街ではなく、吸血鬼の出現によって多くの店が店主死亡などで潰れ、宿を見かけても閉まっているものが多い。たまに営業中の宿があっても、ペット可の標識が無かった。

 

 「次に宿を見つけたら、店主をボコボコにしてペット可にさせましょうよ」

 「えぇ……?」

 

 まだ三軒くらいしか見ていないというのに、既に諦めムードのカノンが物騒な提案をする。

 宿屋の息子としては非常に気が引けるが、弱者が強者に踏み躙られるのが世の常であり正常なことと考えるのなら、納得できなくもない。

 

 ただ。

 

 「目立っちゃ駄目って言ったの覚えてる? やるなら店主は秘密裏に殺すぐらいじゃないと」

 「そうでした! じゃあそれで!」

 

 甲殻に覆われた指をぱちりと弾き、ぴっとフィリップに向けるカノン。

 人に指を差すなと突っ込む前にアンテノーラが指を掴み、そのまま手首を返す。ぺきょ、と小さな音がした。

 

 「従者を名乗るなら、最低限の礼節くらい弁えたらいかが?」

 「ぶッ──!」

 「うわ、なんか出た……」

 

 ばっちい、とフィリップは身を引いて離れる。

 本当に何か出たかどうかは分からないが、ガスマスクの下で湿った音がしたのは確かだ。顔に密着し高い気密性を持つだけに、漏れ出たりはしていないが。

 

 「おぉぉぉ……!? い、いちゃい……! 古龍ベースの骨格が……!?」

 「あぁ、どうりで折れなかったわけですわね。関節はそれほど頑健ではなかったようですけれど」

 

 ゴムのような反発力で元の形に戻った指を押さえ、カノンは涙目で蹲った。

 見下ろすアンテノーラの顔は感心を映しているが、指一本脱臼させられては「だから何」という話。

 

 「かっちーん! 上等じゃないですか、兵器と楽器の違いってやつを教え込んでやりますよ!」

 

 ずる、とカノンの目が開く。

 瞼が、ではなく、人間と同じ外観の双眸、その表面が瞬膜のように。その下にある無数の眼球が露になり、不揃いの動きで蠢いた。

 

 “兵器”と“楽器”。

 

 普通に考えるなら、戦闘用の“兵器”の方が強いに決まっている。

 しかし、この場に“普通”なものなど居ない。

 

 片やミ=ゴによって生み出され、今やナイアーラトテップの手により改造を施された、環境整備用原住生物殲滅兵器。

 片や群れ単位では旧支配者を狩り殺す上位種族にして、今やトルネンブラに見初められた、魔王の寵児のための“生きた楽器”。

 

 両者の戦闘の趨勢を、戦闘技術の巧拙や基礎能力の高低のみで測ることはできない。

 

 そして──。

 

 「……あ、あそこ、宿屋だね。ペット可の看板も立ってる」

 「そうね。いらっしゃい、フィル」

 「うん。二人とも、行くよ!」

 

 二人の所有者は、所有物同士の喧嘩よりも、任務と飼い主の言葉に重きを置いていた。

 一応振り返って呼びかけはするものの、さっさと踵を返して先に行ってしまう。

 

 アンテノーラは「はい、貴方様」と素直に従い、カノンはその背中に「ちっ! フィリップ様に感謝して生きてくださいね!」と吐き捨てて続いた。

 

 

 

 宿に荷物を置いて、改めて町へ出る。

 土地柄か王国貨だけでなく帝国貨での支払いも出来ると言われたことより、むしろ普通に貨幣経済が維持されていることの方が、フィリップの興味を惹いた。

 

 これまで領内で完璧な経済サイクルが成立していたとしても、今や人口バランスは激変している。

 

 最も大きく変わったのは食料面だろう。

 吸血鬼は人間同様の食事を摂れないわけではないが、吸血衝動に由来する空腹感が紛れることはないし、アルコールによる酩酊感も少し意識すれば瞬時に回復する。

 

 彼らの食事である人間は、言うまでも無く食事が必要だ。

 それも質と量が適切であればあるほど、血の質が良くなる。ミナでさえ「肉だけでなく野菜も食べなさい」なんて言うほどに。

 

 だから食料品の需要がゼロになるわけではないが、それでも、吸血鬼化した人間分の需要は丸ごと消える。人間社会における最大の市場が、ほぼ消滅する。

 

 貨幣の循環が停滞し、経済が停滞し、社会は変容する。

 そのはずだが、今のところ、そして少なくとも宿屋の一泊と一食の値段に於いては、暴落も暴騰もしていなかった。

 

 その上、多少とはいえ社会規範(ルール)があり、懲罰執行者であり治安維持組織でもある衛兵が存在する。

 そうなると、ここは正しく“町”だ。社会が維持され、生活が営まれている構造体、共同体として成立している。

 

 恐るべきは、それを為した者の手腕。

 衛兵がものすごく優秀とかではない。彼らは吸血鬼としては低劣もいいところで、より上位の吸血鬼を押さえつけられないことを知っていた。

 

 “大元”か、その直接の眷属か。

 街を支配するに足る強さだけでなく、秩序を維持する能力までも持ち合わせた何者かが存在する。

 

 ランナゲート侯爵は王都の別荘におり、嫡子は元近衛で、再編に伴う調査で不正が発覚して拘留中だという。領地には夫人と代官が居ると聞いているが、彼らの手腕なら賞賛に値する。

 ……まあ、吸血鬼化している時点で浄化対象、フィリップが殺さなくてもヘレナか衛士が殺すことになるけれど。

 

 感動すら覚えながら想像以上に正常に見える街を歩いていると、ふとアンテノーラが声を上げた。

 

 「あら。貴方様、あちらをご覧ください。人間の露店ですわ」

 

 遠い道の先を示されて、フィリップは手で傘を作り、細めた目を凝らす。

 なんとなく行列があるのは見えるが、何を売っているかまでは流石に分からない。

 

 視力は悪くないフィリップが認識に苦労するほど遠くを、アンテノーラは容易に把握していた。

 

 「へぇ、露店は無くなったって……いや「人間の」って、そういう意味か」

 

 近づくにつれ、アンテノーラが示したものが明瞭になる。

 客が並んで作った行列だと思ったものは、陳列された売り物だった。

 

 肉付きを見せるためか、袖も裾も短い貫頭衣だけを着せられた人間の列。総数は二十ほどだ。

 男女は概ね同数で、老人や子供はいない。どれも二十から三十代に見える。

 

 裸足でかなりの薄着だが、唇が蒼褪めていたり、身体が震えたりはしていない。どうやら魔術で保護されているようだ。

 

 魔術による防寒はそこそこ難易度が高く、連続行使には大量の魔力を要する。ルキアやステラでさえ、「常時展開できなくはないけど、普通に厚着すればいい」と言うくらい。

 まあ動かない“商品”を守るだけなら、設置型魔術を使えば魔力消費や要求される演算能力はある程度無視できるとはいえ──かなりの腕利きが居るようだ。

 

 彼らの首にはプレートが掛けられており、年齢と、血質と肉質をそれぞれA~Eの五段階で表した評価、そして値段が書かれている。

 そのゼロの数に、フィリップは思わず驚愕の声を上げた。

 

 「うわ、高ぁ……!?」

 

 明らかに屋台メシの値段ではない。

 お高いリストランテのコース料理に良いワインを付けて、一か月分くらい。フィリップの手持ちでは買えないというか、そもそもそんな金額を持ち歩かないレベルの価格設定だ。

 

 「……興味がおありですかい?」

 「え?」

 

 媚びるような、なのに蛇のように絡みつくような粘度のある声。

 目を向けると、主人らしき整った身なりの男が、露店から出て近づいてきていた。

 

 いつの間にか──フィリップが気付かないうちに。

 ぴり、と、僅かながら首筋が焦れるような感覚を覚えた。

 

 ミナたち人外組が全く無反応な辺り、彼女たちにはその動きが分かっており、何ら脅威には映らないのだろう。フィリップも主観的には同じだ。

 だが人体に刻まれた本能は、清潔感を失わない程度に着飾った男が、危険な捕食者であると恐れている。逃げろと、警告している。

 

 その上で、フィリップは平然と笑った。

 吸血鬼に相対した人間ではなく、押し売りを躱す観光客の愛想笑いだ。

 

 「……興味はあるけど、買わないよ? ちなみにこれって何食分の計算?」

 「およそ一から二か月分を想定しておりますが、きちんと世話をすれば十年以上持つでしょう。勿論、世話代は別途かかりますが」

 

 世話に必要な各種用品も取り揃えておりますよ、と男は言った。

 

 だが人間の世話──人間に必要なもの、必要なことは、この町に限らず吸血鬼は当然ながら知っている。なんせ、元は人間なのだから。

 そんなセールストークに惹かれるのは、忘れてしまうほど長く生きた吸血鬼か、或いは、()()()()()()()()()()か。

 

 その商人は、きちんと相手を見据えた弁舌を揮っていた。

 

 「……なりたての、しかも度を越して下等な吸血鬼に、食料を大切に育てるような繊細さがあるとは思えないわね。実例としては何日持つのかしら」

 

 ミナは冷たい目で男を一瞥した。まるで詐欺師でも見るかのように。

 実際、周辺集落の様子からして、彼らはそういう繊細さとは無縁だ。血の吸い方さえ知らず徒に食い尽くし、食料供給が追い付かなくなった結果、周囲に被害を広げている。

 

 男は遜るような愛想笑いを浮かべ、しかし嫌みさのない秀麗な所作で腰を折った。

 

 「へへッ……流石は女帝陛下、ご賢察恐れ入ります。大抵はその日のうちに吸い尽くすか、ちまちま味を見ているうちにウッカリと。まあ持って三日といったところです」

 

 ぴくりとアンテノーラが反応する。

 女帝──ミナをそう呼ぶ吸血鬼は、これまで一匹も居なかった。彼我の戦力差を凡そ理解していた兵士たちでさえ、ミナがどういう存在であるかを感覚のみで理解することは出来なかった。

 

 つまり。

 

 「……会ったことはないはずね?」

 「勿論です。ですが陛下の御遣いには何度かお世話になりまして。加えて私奴(わたくしめ)の“親”、デアブリード様より聞き及んでおりますれば、どうして陛下を見間違うことが出来ましょうか。……申し遅れたことをお詫びいたします、陛下。私奴はボルドマート、デアブリード様の眷属にございます」

 

 お目にかかれたこと、幸甚に存じます。とボルドマートと名乗った吸血鬼は、深々と、また流麗な所作で頭を下げた。

 

 下級吸血鬼──ミナの言うところの第三世代。

 恐らく、彼がそうだ。それを理解したフィリップは、思わず笑ってしまった。

 

 これが通常の吸血鬼の下限だとしたら、やはり、この町に蔓延る吸血鬼は特別に低劣なのだと。

 

 「デアブリード、“牧場主”ね。奴は元気?」

 「はい。平素より格別のご高配を賜り、私奴も主人も最大の感謝と敬意を捧げております」

 

 吸血鬼の固有名や事情は殆ど知らないフィリップだが、二つ名から大まかな素性は察せられる。

 

 大量の人間を飼育し、繁殖や、交配による血質改良実験などを行う“牧場”。その総支配人たる吸血鬼──恐らくは始祖が作り出した眷属。

 強さはともかく、存在歴ではミナを上回るだろう存在だ。

 

 「それで? 貴様はここで何をしているの?」

 「商いでございます、陛下。尤も、陛下の御眼鏡に適うランクのものは、改めて取り寄せるという形になるやもしれませんが」

 

 ボルドマートは自らの商品を示して言う。

 所作には一点の揺らぎも無く、声には僅かな震えも無い。

 

 しかしアンテノーラとカノンには、彼が抱いている甚大な恐怖が──今すぐにでもこの場から逃げ出したいという心の悲鳴が聞こえるようだった。

 それは小さな呼吸の乱れであったり、視線の彷徨、瞬きの回数などに表れており、観察力と知識があれば見て取れる。

 

 フィリップとミナには、そもそも観察する意思が無かったが。

 

 「ここがどういう場所かを知った上で?」

 

 ミナは淡々と、殆ど興味すらないような声で尋ねた。

 だが興味のないことを、彼女は態々尋ねたりしない。

 

 その冷淡さは、答え次第で死ぬことになるボルドマートの命、そして彼を殺すという行為に対する価値認識の低さが所以だ。

 

 イエスと答えたら死ぬのか、ノーと答えたら死ぬのか、或いはどちらであれ機嫌を損ねたら死ぬのか。最後だろうと感じながらも、彼には選択肢が一つしかない。

 吸血鬼にとっての神の一瞥を前に、虚言を弄するという選択肢は無い。

 

 「っ……! はい、陛下。最も利益の出る場で、最も利益の出る商売をせよ──それが、私奴がデアブリード様より与えられた使命でございますれば」

 

 一瞬の沈黙があった。

 ミナが断頭の魔剣を抜き、眼前の存在を一撃の下に葬り去るには十分な時間が。

 

 彼の答えは、ミナの予想の範疇であり、剣を抜くには至らないものだった。吸血鬼としては、至極自然なものであるがゆえに。

 

 「そう。……この町の主は誰?」

 「存じ上げておりません、陛下。商いを始める前に、私奴は勿論、挨拶に出向きました。あの城に。ですが、お目通りは叶いませんで。お役に立てず、不徳を恥じ入るばかりです」

 「……道端の露店が、最大効率の商売なの?」

 

 横から口を挟んだフィリップに、ミナは「仕方ないわね」とでも言うような呆れと慈愛の入り混じった一瞥を呉れる。

 それが許し、或いは命令となり、ボルドマートはフィリップに視線を向けた。

 

 「いえ、()()()を城に卸したり、宿屋や飯屋に定期納入したり、富裕層向けの競売なんかも……まあ、手広くやらせて頂いております。なんせ、この規模の市場が完全手付かず、しかも客はドの付く素人ばかりですから。商人としちゃ私奴より上手のも居りますが、吸血鬼としちゃ赤子みたいなもので」

 

 へぇ、とフィリップも興味薄な相槌を打つ。

 しかし、それは深く考え込んでいたからで、むしろ興味は大いにあった。

 

 恐らく、この町が吸血鬼のコミュニティとして秩序を維持できている要因の一つは、彼らのような外部から来た()()()()吸血鬼の存在なのだろうと。

 

 「……フィリップ様、その“正規品”とやらに紛れ込めば、お城に潜入できそうじゃないですか?」

 

 身体を寄せて、カノンがひそひそと囁く。

 応じるようにフィリップも身を傾け、少しの黙考の後に頭を振った。「いや」と、はっきりと否定した。

 

 「出来ない」という意味ではない。

 

 「可能性は感じるけど、必要性が無い。僕らの主目的は人間の解放、吸血鬼を殺すだけなら、ミナが正面から乗り込むだけで片が付くよ」

 

 吸血鬼は大元を殺せば子も全滅するような、便利な生態をしていない。

 全滅させたければチマチマ丁寧に一匹ずつ殺すか、神罰術式で薙ぎ払うかだ。そして、その用意は今も着々と進んでいる。

 

 フィリップたちの役目は、もっと地味なもの。町中に散らばった人間を出来る限り、街の外へ逃がすことだ。

 

 「……」

 

 顔を寄せながらのひそひそ話は、しかし、吸血鬼の五感の前では意味を成さない。

 

 ボルドマートは胡乱な目でフィリップたちを見つめており、フィリップも遅ればせながら視線の意味するところに気付いた。

 だが、焦りはない。 

 

 「おっと。……口止めには幾ら必要?」

 

 活動資金は王国から豊富に与えられているし、この手の交渉に使うことも想定されている。

 だが、フィリップはアンテノーラに預けている金貨の入った袋を要求しなかった。

 

 余裕の笑みを浮かべたまま、彼が値段を決めるのを待っている。

 そして──吸血鬼の男は、諂うように頭を下げ、困ったような笑顔をかなり無理をして作った。

 

 「へへッ……試すのは止してくださいよ、坊ちゃん。私奴の命は、銅貨一枚より安いでしょう?」

 「……」

 

 フィリップは何も言わず、にっこりと笑った。

 アンテノーラもカノンも、そしてミナもまた、くすくすと笑った。

 

 ──賢いじゃないか、とでも言うように。

 

 ボルドマートは内心、恐怖と疑問で溺れそうなほどだった。

 

 ミナは、ヤバい。

 同じ吸血鬼なのに明らかに異質だ。

 

 彼にとっての神である“親”、戦おうという気も起きないほど強大な吸血鬼であるデアブリード卿は「見ればその御方と分かる。言うまでも無くお前の全細胞がそうするだろうが、あの御方には恭順のみを示せ。死ねと言われたら躊躇いを見せず死ね」とまで言うほど。

 

 実際にその通りだし、逆らおうとか、ほんの軽口を叩こうという気も起きない。

 吸血鬼にとっての神。まさにその通りだと思う。

 

 そして逆らった瞬間、自分がこの世から跡形もなく消え去ることを理解出来る。

 

 だが──眼前の四人の中で次にヤバいと思うのは、どういうわけか、彼女のペットらしきヒトなのだった。

 ちょっといい匂いがする、ただの人間。まだ子供だし、肉体的にものすごく強いということは無いだろう。魔術的には下の中くらい、努力した痕跡はあるが才能が無い。水をやってはいるが種を植えていないプランターみたいなものだ。

 

 なのに──他の二人は、明らかに自然のモノではない異質な魔物モドキに、人間に擬態したマーメイド属の何者かなのに──ただの人間の子供が、彼には異常に恐ろしく思えた。

 

 「まあ、そういうわけだから、これ以上の搬入は止めて貰うよ。それから、人間の保管場所も教えて貰う。あとは……」

 「競売とやらが気になりますわね」

 

 フィリップはボルドマートが当然従うものとして話すのに対して、アンテノーラは微笑の仮面を被りつつも殺気を飛ばして威圧する。

 アンテノーラがあくまで「従わせる」意思を見せるのに対して、強要や支配といった高圧的な色を滲ませない自然な笑顔のフィリップが、ボルドマートには不気味だった。

 

 「銀の血と金の血……特別に上等な血を持つ人間や、この町の馬鹿共……もとい、()()()()のお客様にも分かりやすく、外見や社会的地位に優れた個体を売る場です」 

 「ふむ……」

 

 質か、量か。

 貴族や豪商、役人といった少数だが王国に貢献し得る人材を助けるべきか。或いは単純に、なるべく多くの一般市民を助けるか。

 

 一応、その問いに対する答えは、既にステラに与えられている。

 「なるべく多くを救え」と。もし一人の貴種か二人の平民で悩む状況になったら、その時は二人を救えと、既に教わっている。

 

 だから別に、競売は無視してもいいのだが──如何せん、今は情報が何もない。

 

 「取り敢えず行ってみようか。普通に買って普通に街を出られたら、滅茶苦茶簡単だしね」

 

 

 

 

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