なんか一人だけ世界観が違う   作:志生野柱

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 明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 鳴潮ver2.0すごいぞ楽しいぞ! やろう!


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 街に入って少しすると、昼間に起きている吸血鬼の姿がまばらに見え始めた。

 服装は殆どが王都外の町人のそれで、たまに富裕層っぽい着飾った者もいる。しかし貴族や、ミナのように高いヒールにドレス姿といった華美な恰好は見当たらない。

 

 ここに居るのが全て吸血鬼だと、前情報なしでは分からないだろう。外見的には完全に、ただの街だ。

 石造りの町並みに破壊痕などは見当たらず、血溜まりが出来ていたり、路上で人の血を啜っている者が居たりもしない。

 

 違和感といえば、昼間にしては、街の規模に対して大通りに人が少ないことくらいだ。

 

 「さて──何から始めますか、フィリップ様? 取り敢えず“大元”の吸血鬼でも殺しますか? 絶対あそこ、お城に居ますよ」

 「それで町中の吸血鬼が連鎖消滅でもするなら一案だね。でもそうじゃない以上、派手な動きは避けるべきってのが殿下の意見だ」

 

 潜入偵察のノウハウなどまるでないフィリップだが、一応、ステラも含め作戦立案者たちに行動の指針は貰っている。

 

 吸血鬼が飛行という高速移動能力を有する以上、派手に動けば聖痕者投入前に逃げられる可能性が高くなってしまう。

 故にフィリップたちは極力目立つことなく、密かに、街の何処かにいる人間たちを救い出さなくてはならない。

 

 大っぴらに動くとしたら、囚われた人たちを限界まで救出し、脱出する時くらいだ。

 彼らを近隣集落まで逃がしてしまえば、待機している衛士団とヘレナが出撃し、状況を終息させる。

 

 と言っても、今日来て今日やるわけではない。

 後詰めの準備が整うのは二日後だ。それまでは町の情報を集め、救出作戦を練る準備時間となっている。

 

 「貴方様。差し当たっては“ペット可”の宿か、持ち主が殺されて空き家になった民家などの、活動拠点を探すべきかと。或いは、手頃な吸血鬼を殺して奪うという選択肢もありますが」

 

 聞き心地の良い声で、アンテノーラが提言する。

 さらりと「殺して奪う」を選択肢に入れる辺りが少し怖いが、フィリップにも否やはない。

 

 普通の町で人間相手なら論外だが、どうせ、数日後には神罰術式で薙ぎ払われるのだ。少し早めに切り殺されたところで、何も変わらないだろう。

 

 しかしそうなると、フィリップたちは数日程度、この町で自活しなくてはならない。

 

 「個人宅でペットを飼ってる人……ヒト? まあ、うん、いいや。とにかくそういう奴って、食事とかトイレとかどうしてるんだろう。衛兵は便所汲みも限定的になってるって言ってたけど……お?」

 

 なだらかにカーブした道を進むと、大きな噴水が見えた。

 水は絶え間なく流れ出ており、きらきらと輝いている。

 

 おそらく、あれがこの町の井戸代わりだ。一つではなく、あちこちに似たようなものがあると思っていいだろう。

 

 「上水道は通ってるのか、この町」

 

 と言っても、王都のように各家庭に管を引き、蛇口を捻れば綺麗な水が出るレベルの設備はない。ミナの城などには水を貯めておくタンクが最上部付近にあり、水道管と蛇口が敷設されていたが、この町にはそれもないだろう。

 

 住民は噴水から湧き出る水を瓶などに汲み、それぞれの家に持ち帰って使う形だ。

 

 「水源は近くの山の湧き水か、川の水をサイフォンで汲み上げているか、ですね。地下水道に毒とか撒きます? 一網打尽に……あ、いや、なんでもないです」

 

 物騒なことを言いかけたカノンだったが、そんなことをしても意味が無いと自分で気付いた。

 

 吸血鬼は水を飲まなくていい。水無しで生きられないのは人間の方だ。

 

 「……まあ、ここは大人しく宿を探そう。もしくは道行くペット連れの吸血鬼を……あ、え? なにあれ?」

 

 人影から人影へ、なんとなく視線を流すと、店の看板を眺めている二人が目に付いた。

 片方は平服、というには少しだけ華美な余所行きの格好だ。後ろ姿からすると、お金持ちのマダムといった風情。

 

 そしてもう一人は──全裸の少女だった。

 初冬の寒さに震えながらも、その顔に羞恥の色は無い。絶望と恐怖、諦観によって羞恥心が押し潰されているようで、身体を隠すこともなくただ俯いている。

 

 年はフィリップと同じか、少し下くらいだろうか。

 若くしてとんでもない性癖に目覚めたという風情ではないし、よく見れば、ゴテゴテした装飾首輪から伸びるリードはマダムの手に握られている。

 

 マダムの方は暖かそうな手袋までしているが、少女は靴さえ履いていない有様だ。

 

 ペットの人間と吸血鬼なのだろう……とは思うが、フィリップ同様、ミナまでもが「うわぁ」とでも言いたげな目をしている辺り、吸血鬼のスタンダード・スタイルではないらしい。

 実際、フィリップも「ペットは裸で過ごせ」とは言われなかったし、むしろ身綺麗にして清潔な服を着させてもらったくらいだ。

 

 「……貴方様、あまりご覧になられては御目を汚してしまいます」

 「フィリップ様、ジャケットでも貸してあげたらどうですか? それか靴下とか」

 

 アンテノーラとカノンが口々にベクトルの違うことを言う。

 

 まあ靴下はともかく──確かに足を冷やすと全身が冷えるとは言うけれど、それは「厚着をしても足元が薄くては意味がない」という意味であって、全裸でも靴下さえ履けばいいというわけではない──紳士の何たるかを聞き齧り程度とはいえ知っているフィリップとしては、ジャケットを貸したい気持ちはある。

 

 しかし、上着を脱ぐと、そのすぐ下にあるショルダーホルスター、そしてペッパーボックス・ピストルが露になる。

 外見から機能を推察し機構を再現できるとは思わないが、衆目に晒すことには抵抗がある。

 

 それに、だ。

 

 「まあ吝かではないけど、よく考えてよ。「お宅のペットちゃん寒そうですね、この服あげますね」って、唐突に見ず知らずの相手に言われる飼い主側の気持ちを。滅茶苦茶気持ち悪いよ?」 「……確かに」

 

 少なくともフィリップがシルヴァを連れている時に言われたら、開口一番は「ありがとうございます」ではなく「は?」とかだろう。

 

 化け物の価値観に対して一定の尊重があるフィリップとしては、「この野郎、人間に対してよくもこんな仕打ちを!」と激昂することはない。

 しかし人間のか弱さを知る身としては、風邪まっしぐらな恰好をさせている飼い主に一言、モノ申したい気持ちもある。

 

 「でもなんで裸なんだ? 南部とはいえ結構肌寒いのに……。すみませーん! ちょっといいですかー?」

 

フィリップは無警戒に、剣に手を添えることもないどころか、ジャケットの前すら開けずにトコトコと近寄っていく。その無防備さと、後ろからカノンが付いてきていることとは全く関係が無かった。

 

 あまりに自然だったからか、マダムは「はい?」と愛想笑いで振り返る。

 フィリップのことを、自分と同じ吸血鬼だと勘違いしているようだ。

 

 ペットの少女の方はというと、フィリップが近づいても全く反応しない。視線を向けることさえない、完全な無反応だ。

 

 「お姉さんのペット、なんで何も着てないんですか?」

 「え? いや、この町じゃこれが普通……って、あぁ、君、外から連れて来られたペットなのね」

 

 少し話して、マダムは漸くフィリップが付けている首輪に目を留め、同族ではないことに気付いた。

 愛想笑いは嘲笑に変わり、目の奥に軽蔑の色が宿る。

 

 しかしそれはフィリップも同じで、「この町では普通」と聞こえた時点から、「じゃあこの町の吸血鬼は全員馬鹿だな」という内心が表情に浮かんでいた。

 

 「私からすると、君が服を着ていることの方が不自然だわ。人間如きが、私たち吸血鬼と同じ格好をするなんて」

 「……へぇ」

 

 マダムは勝ち誇ったように、或いは言い聞かせるように言う。

 一方でフィリップは、声をかける相手を間違えたと後悔に満ちた顔で後退った。

 

 その動きを畏怖か怯懦と見て、マダムは一歩踏み出す。リードが引かれると、少女は極めて従順に同じだけ歩く。 

 

 「餌でしかない君たちが、捕食者である私たちと同じ格好なのは可笑しいと思わない?」

 「そ、そうですね、ははは……」

 

 フィリップの乾いた笑い声に、背後から別種の笑い声が混ざる。

 どうやら純度100パーセントの愛想笑いが、ミナとアンテノーラのお気に召したらしい。くすくすと笑いながら何か囁き合っている。

 

 「やばい変な人に声かけちゃった──って顔してますよフィリップ様。ぷすす」

 「ちょっと、まるで私がおかしいみたいじゃない! 何か文句があるなら言ってみなさいよ!」

 

 カノンの一人笑いが聞こえたらしく、眉尻を吊り上げたマダムがフィリップに掴みかかる。

 動きそのものは素早いが、挙動が見え見えで避けるのは難しくない。

 

 しかし、フィリップは結局、人外の握力で腕を掴まれたことで逃げられなくなる。

 フィリップの場合、避けようと思うこと自体の難易度が高かった。

 

 「えぇ……じゃあ聞きますけど、肉食のオオカミとかクマは毛皮を持ってて、被捕食者のウサギとかシカも同じく毛皮を持ってるわけじゃないですか。じゃあ「餌だから服を着るのは変」って発想の方が変じゃないですか?」

 

 淡々とした言葉に、マダムはむっと眉根を寄せる。

 ほぼ反射的なものだろう「生意気ね!」という声には、カノンとアンテノーラから更なる失笑と嘲笑を買うだけの価値はあった。

 

 フィリップの疑問を押さえつけるには、残念ながら全く足りないのだが。

 

 「というか、人間は寒いと風邪を引き、風邪から重篤な病気に進行することもあるような脆弱な生き物ですよ? 尖った石を踏んだり、ちょっとした枝に擦れただけで怪我をする。怪我が原因で感染症になって死ぬこともある。弱い、弱い生き物だ」

 

 ミナ、アンテノーラ、カノン、シルヴァ──邪神を省いても身近な人外の全てが、人間ほどの脆弱性を持たない。

 逆に言えば、身近な存在の中で、人間が最も脆弱だ。

 

 滑って転んで頭を打って死ぬ、なんてこともあるほどに。

 

 「対して吸血鬼は頑強で、アンデッドだから病気になんかならない。熱や冷気にも耐性があるし、何なら一回や二回死ぬくらいどうってことない。どちらかといえば、服が要らないのは貴方たちでは?」

 

 まあドレス姿のミナを見るに、吸血鬼にとっての衣服は防具ではなく装身具としての側面が強いようだが、余分であることに変わりはない。

 というかミナなんか、服の裾を血で汚さないために8センチはあるハイヒールを履いている。剣術主体の戦闘スタイルなのに、だ。

 

 必要論で語るなら、確かに、人間は着飾る必要はない。

 しかし、服を着る必要性があるのは人間の方であり、吸血鬼にこそ、着衣の必要性は無いと言える。

 

 「そもそも、物凄く特殊な例を除いて、貴女も含めすべての吸血鬼は元は人間だ。吸血鬼になった貴方がいま服を着ているのだって、大昔の人が衣服を発明して、人間が“服を着る”という文化を持っていたから……生前に服を着ていたからでしょう? つまり人間が服を着ることには、一片の異常性も無い」

 

 言い切ってから、フィリップは薄く笑った。

 

 マダムの主張が可笑しかったわけではない。

 何かが異常だと、または異常ではないと断言できるほど、果たして自分が正常なのかと思っただけだ。

 

 勿論、そんな内心は眼前の女性には分からないのだが。

 

 「っ! この……!」

 

 腕を掴んだ手に力が込められ、フィリップは痛みで顔を顰めた。

 

 「こらこら、駄目ですよフィリップ様。こういうときは相手の考えを読まないと。とんでもない馬鹿以外、行動には理由があると思って考えるべきです」

 「…………」

 

 へらへらと嗤いながら近寄ってくるカノンに、フィリップは胡乱な目を向けた。

 

 内容自体は正しいと思うが、カノンに言われると「うるせえよ」と反発したくなるのは何故なのか。ナイ神父のような言い回しであることは、きっと無関係ではないだろう。

 

 「つまり彼らは自分が人間以上のモノであると、人間を下げることでしか感じられない──悲しい生き物なんですよ」

 「なるほど。滅茶苦茶低劣だね。……まあ生きてはいないけど」

 

 フィリップとカノンは、実験動物か観察槽の虫でも見るような目で話している。

 だが実のところ、「人間のくせに、生意気な口を……!」なんて激昂した様子のマダムには、あまり興味がない。

 

 二人は個体を見ていない。二人にとって眼前の一個体は、ランナゲートの吸血鬼という総体を調べる上で抽出した、一個のサンプル程度の扱いだった。

 

 「ちなみに、服飾文化は人類以前の支配種、古のものや蛇人間の文明にも存在しましたよ。アクセサリーがメインで、衣服には傾倒しなかったようですが」

 「へぇ、それは豆知識……」

 

 ぼっ、と空気が爆ぜる。

 フィリップとカノンの会話を遮ったその音は、人外の膂力で繰り出された拳打のもの。寸前で回避したフィリップの髪を千切り飛ばしながら掠めていった、攻撃の余波だ。

 

 「──え?」

 

 困惑の声は三つ、全く同時に重なっていた。

 

 一つは眼前の、富裕層らしきマダムのもの。

 掴んだ相手を殴り損なったこと、必殺の距離で人外の力を叩き込み、劣等存在であるはずの人間に躱されたことへの驚きと困惑。

 

 二つはフィリップとカノンのもの。

 宛先こそ逆だが、内容はマダムと同じ。掴んだ相手を殴り損ね、必殺の距離でありながら獲り損ねたことに対してだ。

 

 鈍臭い。あまりにも。

 

 パンチの勢いに体幹が負け、腕に身体を引っ張られて姿勢が崩れる。

 フィリップにタックルするかのように流れた身体は、激突寸前で止まった。

 

 マダム自身が足を動かして踏み止まったわけではなく、カノンが彼女の腕を掴んだからだ。

 

 「うわおっそ……出力も大概低いですけど、フォームが全然なってないですね。パンチってのは、こうやって打つんですよッ!」

 

 ぼっ、と再び空気が爆ぜる。

 方向的に自分に向かってくるパンチより、遠ざかっていくカノンのパンチの方が何倍も速く見えた。というか、カノンのパンチに関しては見えなかった。

 

 水風船を落としたような音を立て、マダムの頭部が爆散する。

 背後の地面に赤い飛沫が散り、路面を盛大に汚しながらも、フィリップには返り血の一滴さえ飛んで来ない威力だ。

 

 人間なら、というか大抵の生物なら即死の一撃。

 原住生物殲滅兵器の面目躍如といったところだが、しかし──マダムの身体は倒れることなく、荒い破壊面を覗かせる首元は、じわじわと再生を始めていた。

 

 首筋、顎、頬と、失われた肉が戻っていく。

 もうあと一分もすれば、頭頂部まで完全に再生するだろう。

 

 即時再生と言っていい修復力を持つミナと比べると、ものすごく遅い。だが脳幹どころか頭部を丸ごと吹き飛ばされても再生するのは、やはり化け物というべき性能だ。

 

 「えぇ……。そうなると作業なんですよねぇ……。あ、フィリップ様、心臓に刺胞装甲の腐敗毒を打ち込んだらどうなるのか試しませんか? 人間ならショック死ですけど、吸血鬼なら経過を見られると思うんですよ」

 

 カノンはガスマスクの下でぎちぎちと牙を咬み鳴らして笑う。

 赤い双眸に宿る光は、凄惨な加虐心を滲ませていた。

 

 頭を潰された状態で戦い続けられるスペックはないようで、首から上のないマダムの身体は呆然としたように立ち尽くしている。

 今なら何でも──服を剥いてペットに着せてあげることだって出来そうだが、残念ながら、そんな時間は無かった。

 

 「いや、死にたくないなら頭を下げるべきだよカノン」

 「え? ──ッ!」

 

 背後から近づいてくる硬い靴音を聞いていたフィリップは、自分もしゃがみながら警告する。

 

 直後、煌めく何かが頭上を通った。

 そのくらいしかフィリップには分からなかったが、それが具体的に何なのか、推測は出来る。

 

 先のパンチは当たらなかったとはいえ、ペットに攻撃されてなお傍観しているほど、ミナは同族に優しくない。

 

 「ひょえぇぇぇっ!? あっぶな!」

 

 頭部を失くした吸血鬼は上半身と下半身を分断され、灰になって消えていく。

 

 頭を抱えるように蹲ったカノンの悲鳴は、断頭剣を振り抜き吸血鬼の命のストックを無視して消滅させたミナの関心を買うには至らなかった。

 

 ミナは完全消滅した同族に何の興味も示さず、魔剣を消してフィリップに手を差し出した。

 

 「大丈夫、フィル? まず宿を探して、食糧庫があるなら、その場所も探しておきましょうか」

 「あ、うん……。いや待って? この子どうするの?」

 

 誰も気に留めていないペットの少女を意識させるように、フィリップはぴっと指を差した。

 飼い主が目の前で殺されてなお、少女は全くの無反応だ。驚きも喜びも、より強大な化け物への恐怖もない。

 

 ほぼ廃人と言ってもいいが、それが精神的なものなのか、或いは低体温などの身体的要因によるものなのかが分からない。

 ケアすら出来ないレベルだとしたら、ここで殺してあげるべきだが──。

 

 そんなことを考えていたフィリップは、耳に刺さるような鋭く甲高い音に思考を妨げられた。

 音のした方を見ると、ついさっき見た鎧姿の人影が複数、こちらに向けて全力疾走してくる。全身鎧を着ているにしてはかなりの速度だが、その程度だ。

 

 警告のため笛を吹いているのはともかく、飛行もしていなければ、霧化もしていない。

 鎧に関しては所属を示す役割が大きいだろうから目を瞑るとしても、吸血鬼がドタドタ走っていると、ミナの城で遊んでくれたメイド吸血鬼を思い出して笑ってしまう。

 

 「──待てお前ら! そこを動くな!」

 「吸血鬼同士の殺し合いは禁止、でしたか。……早速、目立ってしまいましたわね」

 

 愉快そうに微笑みながら、アンテノーラはフィリップの隣に並んだ。

 カノンは両拳を打ち鳴らして嗤い、ミナは兵士たちを鬱陶しそうに一瞥する。

 

 「……従うのと全員殺すの、どちらが目立たないと思われますか? 逃げる、という選択肢もあるにはありますが」

 「……一旦従っておこう」

 

 面倒臭いし()()殺してしまおう──そんな内心の囁きを、フィリップは努めて無視した。

 

 

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