80年前、日本の軍部は本土決戦を唱えて準備に奔走していました。装備も燃料も不十分な状態のなか、ペリリュー島や硫黄島、沖縄で米軍に大きな犠牲を強いた「後退配備・沿岸撃滅方式」を変更し、「陸軍総力を挙げた連続攻勢を、敵上陸の初動に対して敢行する」としました。防衛省防衛研究所戦史研究センターの齋藤達志2等陸佐は「制海空権をもつ上陸軍に連続攻撃を敢行するのは、軍事的合理性を度外視した作戦だった」と語ります。
――なぜ、軍部は本土決戦を唱えたのですか。
1944年7月、サイパン島が陥落して「絶対国防圏」が崩壊しました。当時、日本本土の防空体制は整備されていたものの、本土上陸への備えは、ほとんどありませんでした。大本営は7月20日、「本土沿岸築城実施要綱」を定め、本土防衛のための骨幹的な陣地の準備を始めました。
さらに、フィリピンでの作戦が失敗し、日本は南方地域から完全に分断されたため、45年1月に「帝国陸海軍作戦計画大綱」を策定し、本土を中心とする防衛態勢を急速に確立していきました。
部隊の大動員の命令も出ました。一般師団40個、独立混成旅団22個のほか、砲兵や兵站(へいたん)などの部隊を含めて約150万人に及びました。第1次兵備から第3次兵備まで45年2月、4月、5月の3回に分けて動員が行われました。
【連載】読み解く 世界の安保危機
ウクライナにとどまらず、パレスチナ情勢や台湾、北朝鮮、サイバー空間、地球規模の気候変動と世界各地で安全保障が揺れています。現場で何が起き、私たちの生活にどう影響するのか。のべ380人以上の国内外の識者へのインタビューを連載でお届けします。
足りない工具、米軍が投下した焼夷弾を拾ってスコップに
――兵器や資材が不足していたと聞きます。
第1次兵備では、火砲、重火器の一部を欠き、馬や自動車が足りなかったようです。第2次、第3次兵備と進むにつれ、小火器、速射砲、迫撃砲なども充足率が50%内外にとどまりました。
この数値も、(米軍上陸の予想地域で)重視されていた九州、関東での話で、それ以外はわずかな装備しか準備できなかったようです。千葉県の九十九里浜で軍属だった方に直接聞いた話ですが、陣地構築のためのスコップなど工具が足りないため、B29爆撃機が投下した焼夷(しょうい)弾を拾って使ったそうです。
――本土決戦では、どのような戦術を取るつもりだったのですか。
硫黄島や沖縄では、上陸した米軍と日本軍の歩兵同士の血みどろの戦いが繰り広げられましたが、結局陥落しました。大本営は、「米軍を一度、上陸させてしまったらだめだ」と考えるようになります。
また、「米上陸軍に一撃を与えて講和に持ち込む」「国民を作戦に巻き込まない」などの理由もあり、45年6月20日、陸軍参謀次長の名前で全陸軍に対して「本土決戦根本義の徹底に関する件」が発せられました。「水際における敵の必然的弱点をあくまで追求するを作戦指導の主眼とし」と、強い指導が行われました。水際におけるただ1回の最後の決戦、航空部隊、海上部隊、地上部隊の総特攻を行うことを示しました。
「1億総特攻」、具体化しなかった民間人の避難・保護計画
――サイパンで玉砕した「水際撃滅」の戦術に逆戻りしたのですか。
そうです。例えば九十九里浜に配備された近衛第3師団などは、海岸線から内陸約10キロの下総台地に陣地を構築していました。この指令で、何も援護物がない海岸付近まで陣地を前進させるよう命じられました。
各部隊長などの間では、「砂浜にどうやって陣地をつくればいいのか」といった戸惑いや反発の声が上がったそうです。大本営陸軍部作戦部長だった宮崎周一中将は戦後に発表した回想録で、「頼むは『石に立つ矢』の念力のみ」などと当時の心境を述べています。このような混乱のなか、終戦を迎えました。
――民間人の保護計画はありましたか。
住民の避難・保護計画は、実施が不可能に近い状態でした。九州では、米軍上陸予想地点の後方内陸に住民を避難させる計画でしたが、具体的に準備するまでには至りませんでした。
また、関東には当時、約1200万人の住民がいました。避難のための住民の移動、食料の携帯、移住先の住宅の提供などを考えると、(政府の想定する住民の避難・保護計画は)机上の空論でした。政府は45年4月12日、「敵の上陸を予想する沿岸地域における住民の処理に関する件」を定めるなどしましたが、具体的な措置には至りませんでした。
一方、当時の統帥部は、1億の国民が軍に協力し、軍とともに戦う「1億総特攻」という考えを持っていました。健全な青年男性はみな、義勇兵として軍と一緒に戦う国民抗戦組織も検討されていました。もし、本土決戦になれば、沖縄戦よりも多くの犠牲者が生まれた可能性も十分あったと思います。
「デジタル版を試してみたい!」
というお客様にまずは1カ月間無料体験
連載読み解く 世界の安保危機
関連ニュース
注目ニュースが1分でわかる
ニュースの要点へトップニュース
トップページへ戻る注目の連載記事
ピックアップ
青森ねぶた祭が大変化 武士の「合戦」ゼロ、目立つ青森開港400年
自宅を「かき氷屋さん」に! ふわふわ食感
&w「迷惑」とは何か…傷みや叫び?ままならなさ? 永井玲衣×奥田知志 対話の場にも現れる言葉に潜むのは?
Re:Ronハローキティも登場!「ピッティ・ウオモ」レポート
&M久保純子×俵万智対談 AI短歌と人間の短歌の違い
&w盛夏 感謝の訪問 京都の花街で「八朔」 芸妓・舞妓があいさつ回り
思わず笑った一枚 永瀬正敏が撮ったマレーシア
&TRAVEL鉱石専門店でレモンゼリー?知る人ぞ知る名建築喫茶
&TRAVELビール好きの間で密かに話題のビアレストランとは?
アエラスタイルマガジン「海とつながる」ラグジュアリー船でスペインの旅
&TRAVEL