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Conversation

セックスワークをめぐる問題は、当事者とその他の対立という構造ではいつの時代もありません。当事者の意見は当然バラバラで、一枚岩ではありません。セックスワーク肯定派・否定派には双方に当事者が多く含まれており、肯定派は当然当事者の多様性を前提にして主張をしていますが、否定派はそうではありません。 否定派は、セックスワークを肯定的に語る当事者を恣意的に非/偽/の当事者とし、否定的に語る当事者だけを真の当事者とみなします。これに私のような肯定派の当事者は困っているわけです。 たとえば、今回やりとしした、現在40代前半で(私と同じ)、18歳の時にデリヘルで働いた経験がある(私と同じ)この方は、今は幸せに暮らしている、と彼女自身が私に紹介した別垢に記しています(ただし数年前)。今は風俗を辞め、幸せに暮らしているなら、私と同じ立場です。私たちは当事者のレベルとしては対等ではないかと思うのですが、そうはみてもらえないわけです。 既に何度も指摘されていることですが、「かわいそうな被害者」に当てはまらない当事者は不可視化されるということです。とても少数とは言えない声があるのですが。 過激なセックスワーク否定派、SNSで、日常的にセックスワーク肯定派に攻撃的なリプライをする人々には、元風俗嬢がかなり多くいます。私はこの人々には様々な感情を持っています。 とにかく攻撃的で言葉遣いが荒いので、基本的に第一印象は最悪ですし、びっくりするし、むっとします。でもすぐに、いやいや、でも一応「仲間」だしなあ、という気持ちにもなります。私は風俗界のシスターフッドにいつも救われてきました。しかしその一方で、鬼気迫るセックスワーカーへの攻撃ぶりに、憐れみを感じてしまうこともあります。はたまた、あまりにも姑息な言い分、セックスワーカーへの激しい誹謗中傷をみれば、強い憤りを感じることもあります。この時私は、彼女たちを「かわいそうな被害者」ではなく「悪質な加害者」だと認識するし、事実そうだと考えます。自らと同じような「被害者」を救いたいというのは建前で、実際には一切思ってもおらず、憎しみだけを振り絞る姿に戦慄することもあります。まだひとつには決められませんし、それでいいのかなと思っています。しかし、もう少し何を考えているのか知りたい、一体今現在何をどうしたいのか、少しでも考えていることがあればそこは知りたいと考えています。 当座の足場として私は、いくら過去につらい経験をしたからといって、今他人を貶めるような言動をしてはいけないし、やってしまったのであれば、その行為に対する批判は受けなければいけない、その責任は取らなければいけないと考えています。 あれだけの罵詈雑言を放ったら、そしてセックスワークという議論に自ら接近して飛び込んだら、当然自身の過去の「傷」に触れられることは覚悟するべきです。彼女らはただその「傷」だけを剣と盾にしているのですから。人目に触れさせずに終わることはできないのです。 このようなやり方はまったく不毛です。やめてほしいと思っています。しかし、彼女たちがそのような議論の舞台を自ら作り上げているのだから、こちらはどうしようもないのです。例えば、「風俗で働いてから言え!」という決まり文句を放たれたら、当然その後のやりとりは、経験をベースに展開していまいます。 なぜあのような言葉を放つのでしょう。この点は大変に疑問なのです。なぜなら、彼女たちが本当に、すべての女性にとってセックスワークが地獄だと信じているとは思えないからです。信じていたら、あそこまで、楽しそうな風俗嬢を憎めない気がします。そして、彼女たちが風俗嬢であったなら、現場で見て、知ったはずです。風俗嬢の多様性を。 加えて、最も悲しいのは、彼女が苦しみながら絞り出したはずの過去の経験が、まったく彼女自身の心からの言葉、真の経験に触れていると思えないことです。彼女の書いた言葉は、これまで否定派が書き散らして来た決まり文句や定型表現ととてもよく似ています。個人の唯一の体験が、このように同じ文言になるはずはないので、もともとあった独自性が、繰り返し類似の言説に触れ、語り直されることによってすっかり元の形を失ったのだと考えます。つまり彼女自身にすら実は自分の「傷」が見えなくなっているのではないかと思います。そうだとすれば、一体なんのやり取りをしていることになるのか。彼女のつらさは本物なのに、そうして生み出された言葉にはそれほどの意味がないということになります。 私は基本的にこれまで否定派をブロック・ミュートして処理してきましたが、買春処罰法が具体化してきた現在、もう少し積極的にこの問題にコミットしなければいけないと感じています。何ができるかまだまったくわかりませんが、そのためにも、彼女たちとのかかわり方をどうするのか、今回の件も踏まえて考えていこうと思います。 どんな感情に支配されているときも常に思っていることとしては、彼女たちにはまさに彼女たち自身のために、SNSから離れて、セックスワーク論から離れて、心穏やかに過ごしてほしいです。
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