「変わってるね」って言われるのが苦手だった
以前は苦手な言葉があった。
「変わってるね」という言葉だ。
この言葉について違和感を覚え始めたのは中学生くらいの頃だった。俺の発達速度は人より ややのんびりで、13、4歳になってようやく物心と言われるようなものや、自身を俯瞰する目線というものを持ち始めたように思う。いわゆる「自覚」だ。自分が他者からどう見られているかという、自覚。
それまではいつも無自覚にボーっと生きていた。腹が減った、遊びたい、本の続きが読みたい、母ちゃんに怒られたくない、母ちゃんの機嫌を損いたくない、くらいのことだけで頭がいっぱいだった。本能で動く小動物のようなものだった。具体的に言うと、その年の西暦も答えられないほどアホで、無為に日々を過ごしていた。
俺がアホだからという以外にも、当時は父ちゃんが自殺したばかりだったので、生活保護が受けられていたことがある。雨風凌げる団地の家と、姉ちゃんが作る食事があった。だからなんだかんだ明日になれば、また同じような毎日が来るのだと信じられる程度には恵まれた環境があったから、俺もふつうの子どもと同じように日々をいたずらに生きられたのだろう。
なので思春期になってようやく、俺に対して「変わってるね」と伝えてくる人間の表情を見ると、それがただの所感だったり、あるいは褒め言葉であったりするのではなく、なんとなく別のものだと察し始めたのだった。つまり言葉に込められた、他者の意図を自覚し始めたのだった。
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