「ではこれより、『ユニを分からせちゃおう作戦』について話し合いを行いたいと思います」
ある朝、コマンドセンターでカウンターズと朝食を摂っている最中、突然ネオンが眼鏡を光らせながら肘を机について手を組んで変なことを話し始めた。そして全員が一瞬だけ固まった後、また何事もなかったかの様に各々が好きな様に行動する。
「指揮官、コーヒーのおかわりはいりますか?」
「ありがとう。もう一杯頼む」
「あ、指揮官様ーそこのスプーン取ってくれる?」
私はコーヒーカップをラピに預けて朝食を口に運んだ。
にしても最近、ラピはコーヒーを淹れるのが上手くなっている気がする。出会った当初はコーヒーメーカー頼りだったにも関わらず、最近はわざわざ色々な物を買ってこだわっているようで私も……
「ちゃんと話を聞いてください!」
「んー? あーはいはい。いいと思いまーす。あ、ありがと指揮官様」
「指揮官、コーヒーです」
「ありがとう。……ん~いいな」
私もようやく香りも堪能出来る程には成長したのだろう。湯気と共にコーヒーの上品な香りが鼻腔に充満し、心を和らげる。そういえばアークの市街地に点在するカフェのコーヒーは香りが良く、NIKKEとデートする時によく飲むが、やはりラピのコーヒーの方が私は……
「もう! 全員真面目に聞いてください! 特に師匠!」
まるで私の話を遮るかの様に、ネオンは机を叩いて立ち上がった。
「はぁ、また始まったよ……それで? 『ネオンを黙らせちゃおう作戦』だっけ?」
「違います。『ユニを分からせちゃおう作戦』です」
「ユニが何かしたのか?」
「してるじゃないですか! 鞭で叩いてきたりしてるじゃないですか!」
「あぁ、成程」
確かにユニは加虐的な性格をしていて私含め、多くのNIKKEが彼女の鞭を喰らっている。とはいえ、私の中では最早それがユニだと定着しているので、嫌な感情は特には無い。それにもう何百発も喰らった身からすればユニの鞭が当たるということは端末を耳に軽く押し当てることと同じような物だ。
「まぁ、指揮官様についてはともかくユニにとっては会話する手段に過ぎないのかもしれないけど、私達からすれば迷惑というか……普通に話せばいいと思うけど」
「そうですよ! 大体、叩いて会話するって意味が分かりません!」
皆、ユニについては未だに手を焼いているらしい。やはり意識してはいないが多くはユニに対してはあまり良い感情を持ち合わせてはいないようだ。
「指揮官、確かに最近はユニの被害を受けたNIKKEが増えて、前哨基地でもよく苦言されています。彼女の素性については理解しているつもりですが、何か対策が必要だとは思います」
「そうだな……よし、ラプンツェルを調教してミハラの様に出来ないだろうか。そしたらユニと会話出来る人数も増えるだろう」
「止めておいた方が良いと思う……」
「……すまん」
早計だった。ああいう性格はミハラだけでいい。流石に2人となると何故だか面倒くさい気がしてならない。
♢ ♢ ♢
「はぁ/// はぁ/// はぁ///」
月に1回、パイオニア所属のNIKKE達が集まる中、ラプンツェルは胸に手を当てて荒い息をしていた。
「ラプンツェル? どうしたんだい、故障かね?」
「い、いえ/// ただ、ブラザーが私の事を/// その……あぁ♡」
「……後でメンテナンスをしてやる。主に頭を」
「それがいいだろう……はぁ、ぼっちゃんに会いたい」
♢ ♢ ♢
「とにかく、皆もう叩かれるのは嫌なんです。だから、ここでユニには痛い目を見てもらって反省して貰いましょう!」
「それがーえっと……ユニ……」
「『ユニを分からせちゃおう作戦』です!」
「……まぁ、おおよそネオンの言いたいことは分かったが、それでどうするんだ? あまり過度なことは出来ないぞ?」
「安心してください! 師匠はいつも通り過ごしているだけでいいので」
「?」
朝食を終えてからというものの、ラピとアニスはネオンに連れられて何処かへ行ってしまった。
仕方なく、そのまま追及することも出来なかったのでいつもの様に私は部屋に戻り仕事を始めることにした。そのネオンの作戦が既に始まっていることに気付かず。