大学倶楽部・阪南大

簡宿の街に世界から年間30万人超−−大阪・西成を松村嘉久教授と歩く

壁一面にメッセージが書かれた部屋で宿泊客に話を聞く阪南大の松村嘉久教授(中央) 拡大
壁一面にメッセージが書かれた部屋で宿泊客に話を聞く阪南大の松村嘉久教授(中央)

 急増するインバウンド(訪日外国人)は各地の経済に大きな影響を及ぼし、一部で街の姿まで変えつつある。日雇い労働者が集まる大阪市西成区の「あいりん地区」近くのホテル街。外国人客の受け入れに取り組んできた阪南大教授の松村嘉久さん(50)と、変わりゆく西成の街を見つめた。

 西成にはかつて200軒超の簡易宿泊所(簡宿)があったが、労働者の高齢化や景気低迷で減少。街が活気を失わないよう、松村さんと簡宿経営者が注目したのが格安ホテルを探す外国人の個人旅行客だ。2006年に世界中のバックパッカーに人気の宿泊情報サイトに西成の簡宿十数軒を大阪の業者として初めて登録。「大阪の安い宿」を多言語で紹介する地図も作製して配布し、09年には阪南大のゼミ生が運営する観光案内所も開設した。

 「労働者だけを考えた街づくりでは限界がある。この地域は目の前にJRと南海の新今宮駅があり、あべのハルカスや通天閣にも近い。今では外国人観光客の宿泊拠点になり、西成全体の外国人宿泊者数は年間延べ30万人を超えるはず」

 この日訪ねた簡宿の玄関には英語で「バックパッカーズホテル」と書かれていた。カウンターには大阪近辺の観光施設を紹介する外国語マップがずらり。フリースペースでは、フランス人の宿泊客らが食パンとジャムで朝食を取っていた。

 「ターゲットを労働者から外国人観光客に転換しても、従来のハードをうまく生かしている。管理人のスペースだった部屋を宿泊客が自由に使えるように開放し、廊下や壁に客がメッセージやデザイン画を描けるなど、斬新な工夫をして外国人から好評を得ている」

 このホテルは1部屋3畳ほどで1泊1700〜2100円(シングル)。長期滞在する欧米の若者が多い。周辺の他の簡宿も外国人であふれている。

 「稼働率が9割を超える簡宿もあり、新しい受け皿が必要。政府の20年の訪日外国人数目標は4000万人。さらに増える外国人客をどう受け入れるかは、日本にとっても今後の鍵になる」

 午後8時過ぎ、松村さんとJR新今宮駅そばのパブ「KAMA PUB」を訪れた。外国人観光客が楽しめる飲み屋として昨年末にオープン。英語を話せるスタッフをそろえ、時間帯によって外国人観光客ばかりとなる。

 店の前のテラスでは世界各国の若者がバーベキューを楽しんでいた。スイス人の夫婦は「四国でお遍路をしてきた」。イタリア人男性(34)は「長期休暇で旅行しているんだ」と話し、勢いよくビールを飲み干した。パブでは毎週金曜にお好み焼きや手巻きずしパーティーを開き、街歩きやジャズライブも企画する。松村さんは、こうした取り組みの重要性を指摘する。

 「大阪は外国人旅行客の玄関になり得る。ただ、いかに飽きられないかが大事。ベタな観光地だけやなくて、日常のコアな大阪を知ってもらう手もある。外国人が飲める空間があって、疲れを癒やし、また来ようと思ってくれるかどうか。大阪の『深化』を考えないとあかんのです」【小坂剛志】


 ■人物略歴

まつむら・よしひさ

 阪南大国際観光学部教授。学生時代にバックパッカーとしてアジア諸国を放浪した経験を生かし、国際観光の研究者に。大阪府簡易宿所生活衛生同業組合の大阪国際ゲストハウス地域創出委員会との協働で、地域や簡易宿泊所の魅力を国内外に発信。外国人観光客誘致に取り組む。

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