あ私、アイズ・ヴァレンシュタインは今、じゃがまるくんの新作を買いに来ていた。本来なら昨日食べるはずだったけど、予定外の事態が発生したため、食べ損ねてしまった。
(なんか、ちょっと変わったな。私。)
あ少し前まではじゃがまるくんと
(リヴェリアもいい変化だって言ってくれたし、成長してるってことなのかな)
なんて、ぼーっと考えながら歩いていると、ようやくお店についた。早速店長らしき人物に声をかける。
「あの、じゃがまるくん○○味、一つください。」
「はいよ、ちょっとお待ち。」
あしばらくすると、さっきの人がじゃがまるくんを作り終え、差し出してくる。
「ほい、30ヴァリスね。」
「ありがとうございます」
あ目的を達成した私は、このまま帰るか、それとも少しダンジョンに潜ってこようか考えながら食べ歩いていると、ふと、目が合った。薄鈍色の髪と瞳をした、一目見ただけで可愛らしいという感想が出てくる少女。シルさん?
「こんにちは、【剣姫】様。またじゃがまるくんを食べ歩いてるんですか?」
「うん、おいしいから。」
「美味しいですよね」
「うん」
「…」
「…」
あ…会話が続かない。なんでだろう。いつもはもう少し話せるのに…。あ、いつもはもう少しシルさんが話題を振ってくれるからかな。どうしたんだろう、なんだか元気がないような気がする。
「あの、【剣姫】様。」
「?なに?」
「昨日、ベルさんと何かありましたか?」
「え」
あどうして知ってるんだろう。昨日の今日で、フィンやリヴェリア以外には話してないはずなのに。ベルが言ったのかな…。
「やっぱり、あったんですね。」
「どうして、そう思うん、ですか」
あ心の中でダラダラと冷や汗を流しつつ、(傍から見ればいつも通り無表情)バレないよう何とか取り繕って聞いてみる。
「今朝、ベルさんがすっごくご機嫌にダンジョンに行かれましたので。何かいい事あったんだろうなぁって。」
「…」
あやばい、バレてる。どうしようもないほどバレてる。ほぼ確信を持って問われている。というかベル、どういうこと。なんで昨日の今日でダンジョンに行くの
「心当たり、ありますよね?」
「い、いや…」
「【剣姫】様?」
「だ、だから…」
「ありますよね?」
あどうしよう、すごく怖い。いつもあんなに可愛く笑顔を振りまいているシルさんが嘘みたい。第一級冒険者を震わせる、とても恐ろしい圧を感じる。
(これはもう、白状するしかない…。)
私は諦めて、昨日の出来事をシルさんに話した。
「じ、実は…──」
「んもう!やっぱりそういう事だったんですね!もうちょっとホームに入り浸る時間増やした方がいいかな…?」
あ何やら1人でブツブツ呟いてる…。というか、聞き逃せない事が一瞬耳を通った。入り浸る?どこに?…もしかして、【竈火の館】に?
「どう思います?【剣姫】様。」
あ(そんなの、羨ましい。私も行きたい。いや、そうじゃなくて…そんなこと、ベル一言も…。まさか、昨日の好きって、そういう意味じゃない?私の勘違い?いやでもさすがに…)
あ心の中に動揺の波紋が広がっていく。
「大丈夫ですかー?聞こえてますかー?」
(でもベル、不良みたいだし…色んな人、連れ込んでるの?)
あピコーン、と天明が降り注ぎ答え(?)にたどり着いた私は、直接本人に尋ねてみることにした。
「あの!」
「わぁっ!急にやめてくださいびっくりしました!」
「あ、ごめんなさい…」
あいけないいけない。つい感情が高まってしまった。もうすこし落ち着かないと。ふー、ふー、と大きく深呼吸して落ち着いた私は、改めて尋ねる。
「あの、入り浸る…って、どういう、ことですか。ベルのホームに良く行くんですか?」
するとシルさんは、ああ、言葉を漏らすと、訳を語り始めてくれた。
「本来、【剣姫】様は部外者ですけど…まぁ、いっか。私、とある事情があって、少し前に所属していた【ファミリア】が無くなってしまって…。ヘスティア様に拾って貰ったんです。普段は酒場で寝泊まりしているんですけど、最近人員が増えたので寝床が減ってしまっていて。それで、たまに寝泊まりさせてもらってる、という訳です。まあ、半居候みたいな感じですね。」
「そう、だったんですか…。」
あよかった。とりあえず色んなを連れ込んでいる説は否定された。ただ油断はできない。この人女神祭の時ベルとデートしてたし、多分というか確実にベルに好意を向けている。要注意人物だ。
「どうしてそんなことを気にされるんですか?もしかして…」
「ベルさんのこと、好きになっちゃったんですか?」
「っ…」
あ見抜かれてしまった。さすがに踏み入り過ぎてしまったかもしれない。いや、私は嘘が下手だからどっちみちバレてたかも…でもとりあえず、誤魔化さないと
「いや、別にそういう訳じゃ…」
「それじゃ、私が貰いますね?」
「それは…!」
「ダメですか?なんで?あなたには、特に関係ないでしょう?」
あこの人、やっぱり侮れない。1番嫌なところを的確に突いてくる。しばらく沈黙が続いていると、シルさんが天を仰ぐように見た後に、はぁ、とため息をついて話し始める。
「…別に、誰かに言う気はありませんよ。」
「でも…」
「というか、そんな返事をしてる時点で、隠せてもいないですよ?」
「うっ…」
「…。」
あなたはついにこの人まで…
あ小声でそういったシルさんは一瞬だけ、悲しそうな表情を見せた。が、すぐに仕舞われ、明るく笑顔で振る舞う。
「と、いうことで、年頃の少女らしいことをしませんか?同じ人を好きになった者同士で。」
「わ、わかり、ました。」
いきなりな提案に困惑しつつも、了承の返事をする。
「でも、一体何を…」
「簡単ですよ。しましょ?コイバナ!」
あ私はシル。ただの街娘。つい先程まで私は、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインと恋バナをして盛り上がろうとしていた。彼女が彼をどう思っているのか聞きたかった。知りたかった。だけど私は今、後悔の念に駆られている。それは何故かと言うと…
「それで、ベルがね…」
「そうなんですね〜」
(この人、重いっ!!!!)
あいや、誤魔化すような言い方はやめよう。より正確に言うと、私と
あ最初はモジモジしていたのに、1度話させてみると、出てくるわ出てくるわ。ベルさんとの訓練、食べ歩き、同衾…などのイチャイチャの数々。最初の方は私も楽しみながら聞いていたが、だんだん萎えてきた。なぜ私は振られた相手とその想い人がイチャイチャしている状況を聞かなければいけないのか、これからは気分屋を是正しようか、と本気で検討した。
あこうして1人で考えている間にも、普段の無口が嘘かのようにペラペラペラペラ話し続けている。喉渇かないのかな、と思ったが、さすが第1級冒険者。休憩を入れずに、ひたすら話し続けている。
(私、いつまで耐えられるかなぁ…)
と、そんなことを考えていたその時、
「あ、アイズさ〜ん!やっと見つけましたよ〜!」
声の方向に顔を向けると、真っ赤に染まった顔を窓に押し付けるベルさんの姿があった。
「えっ?べ、ベル?だ、大丈夫?顔、真っ赤だよ?」
「らいじょうぶにきまっれるじゃらいれすか〜。あれ〜?アイズさんがいっぱいれす〜」
「だ、大丈夫じゃないよ、それ…」
あどうしたんだろう、ベルはあんまりお酒飲みたくないみたいなこと言ってたような気がするんだけど…。なんで今こんなに酔ってるんだろう。
「ソーマ様が〜美味しい飲み物あげる〜って、小瓶をくれたんれす〜。そしたら〜なんらかポカポカしてきて〜、それで〜…なんの話しれしたっけ?」
あ不味い重症だ、とアイズは思った。とにかく、何とかホームに連れて帰らないと。
「す、すみませんシルさん、私、ちょっとベルを届けてきます!また、話しましょう!」
シルさんにとりあえず別れの挨拶をして、道中ベルを宥めながら、急いでホームへと向かった。
「べべべべベルくんっ??!!大丈夫かい!?」
届けて早々、ヘスティア様は悲鳴を上げていた。眷属のこんな姿はあまりみられないと思われるので、仕方ないだろう。ましてや相手はベルだし。
「とと、とりあえず早く上がるんだ!えーっと…とりあえずみんなに面倒見させて〜、ソーマに事情聴取に行って〜、あとは〜──」
大慌てでやるべき事を定め、実行に移していくヘスティア様は、本当に保護者のようだった。
「あ、アイズくん!ここまで運んでくれてありがとうね!このお礼はいつかさせてもらうよ!」
「い、いえ…別にだ、大丈夫です…」
「そうかい?なんでもいいんだよ?できることなら何でもするさ!」
「じゃ、じゃあ…」
「ベルをください」
「帰れっ!!!」