めめんと・もーてぃす!


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作:ああ
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あらうど・もーてぃす


三角初華すぎる短歌を見つけてのたうち回ったので共有……
『奪われてゆくことだけを知る夜に星のまたたき遠いところで』
しかし詠み手の名前をメモるのを忘れてしまい……痛恨のミス


 

 人形劇の芝居は私自身へのアイロニーと侮蔑だ。祥子ちゃんが描くストーリーに私が幾つか注文を付けて組み上がった脚本は、本物になれない私を嘲笑う。

 

 私は、何のために生きて、何を求めて呼吸をしているのだろう。

 繰り手を失った人形は、ふらふらとさまようことしかできない。

 

 その場しのぎで組み上げたAve Mujicaを続けていくにはどうすれば良いか、そればかりを考えている。

 

「初華ちゃん、緊張中?」

「うん、ちょっと」

「大丈夫だよ。どんなバンドだって多かれ少なかれ失敗してるものだから」

「それは失敗してもいい理由にはならないんじゃ……」

「そう?」

 

 右手を握ったり閉じたりしていた初華ちゃんに声を掛ける。

 私の所感の範囲では、初華ちゃんも「ウイカちゃん」と遜色なく歌もギターも上手だったけれど、本番への強さという面ではどうだろう。……二人を比較するのは良くないとわかっていても、私はどうしても()()()()()で初華ちゃんを見てしまう。

 

「……でも、きっと大丈夫。祥ちゃんが書いてくれた曲は、ほかの誰よりも私が上手く歌える気がする」

「ん。……初華ちゃんの曲なんだから、気兼ねしないで歌ってね」

 

 祥子ちゃんの提案もあって、戯曲の主題は『本物』を求める私たちの足掻き、ということになった。

 どこにも居場所がなくて、自分の操り手を探すばかりの人形が私。

 顔と名前と夢を奪われ、それらを取り戻すために舞台に上がったのが初華ちゃん。

 空虚な衝動のままに己の立つべき舞台を探して彷徨う海鈴ちゃん。

 栄光の舞台を求めて成り上がる方法を探しているのがにゃむちゃん。

 私が何を言うでもなく描かれたのがこれだから、祥子ちゃんから見た私たちは概ねこの通りなんだろう。

 

 当て書きじみた脚本に当初難色を示したのはにゃむちゃんで、海鈴ちゃんは意外そうな顔をしたくらいだった。

 

「そういうタマは大丈夫なの〜? 私より初心者でしょ、キーボード」

「ミスはしないよ。それとも、そんなに浮ついて見える?」

「んー、別に?」

「一番心配なのは祐天寺さんですね」

「わかる〜。海鈴ちゃんはなんだかんだ場馴れしてるし、一番浮ついてるのはにゃむちゃんっぽい」

「はァ? こっちだって本気でエンタメやってんの。しょぼい失敗なんかしないっての」

 

 海鈴ちゃんは武道館ライブのサポート経験もあって、あまり心配していない。経験があるから失敗しない、というわけではないけれど、0と1じゃ大きく違うし、予期せぬ大きなトラブルが起こるのは大抵一回目だ。

 初華ちゃん以外の失敗をフォローするほどの余裕があるかは怪しいところだから、にゃむちゃんと海鈴ちゃんは以前のAve Mujicaの通りに何とかやり遂げて欲しい。……仮面をはがせ、という意味ではなく。

 

「戯曲でトラブルがあれば環が軌道修正しますし、演奏に関しても機材トラブル以外はそのまま走れば何とかなりますわ。それとも、歌詞が飛んでもいいようにモニターが見えるようにしておきましょうか」

「ううん、大丈夫。間違えることはあっても、飛ぶことはないと思うから」

 

 祥子ちゃんが話を締めくくって、初華ちゃんが深く息を吸った。

 1thライブ直前の楽屋は、少し殺伐としている。

 

 衣装に着替えたタイミングで仮面を付ける。と言っても私のものは口元まで覆う仮面だから、マスクされて少しだけ息苦しい。みんなはまだ仮面をつけずにいた。

 

「文句ではないんだけどさ、別に仮面の意匠もある程度統一してよかったんじゃない? モーティスとティモリスだけ話しにくいじゃん」

「……提言しておきますわ。あと二回の公演のために仮面を変えるかはわかりませんが。ティモリスも同様の意見をお持ちですか?」

「言われてみれば、という程度ですが。声が篭もるのは好ましくありませんね」

「フィッティングか、せめてリハーサルで言ってくだされば改善の余地もありましたのに」

「ごめんね、なんか、『こういうものだ』って思い込んでたから」

 

 台本をぼんやり眺めているにゃむちゃんと初華ちゃん。リラックスした様子の海鈴ちゃんと、時折インカムで指示を出している祥子ちゃん。時間を見るに、今頃観客が入っている頃だろう。

 

「……そろそろですわね。四人とも、入りの時間ですわ」

「はぁい」

 

 祥子ちゃんの先導で、舞台に立つ準備をする。衣装チェックを通って、仮面をつけた自分の姿を鏡越しに眺める。以前は睦ちゃんが映っていたそこに跳ね返ってくるのは、若葉環の全身だ。と言っても、表情や服装の違い以外で私たちは自己の区別も付いていないのだけど。

 つまり、完全無欠のモーティスがそこには映っていた。

 

「祥子ちゃんの受け売りだけど……『Ignis aurum probat』だっけ。本物が常に偽物を凌駕する、とまでは言わないけど、贋作は決して真作を無視できないんだよ。だから、楽しんでいこうね」

 

 初華ちゃん──ドロリスに声を掛けて、暗転した舞台に立つ。幕が上がれば、私たちの仮面舞踏会が始まる。

 各々が配置につく間、初華ちゃんと何度か目が合った。不安や緊張を紛らわせようとしているのかと思いきや、随分と落ち着いて見える。むしろ、私の方がふわふわしているかもしれない。

 

 私は、モーティスに戻っていた。

 幕が上がる。数千人の観客たちの一人一人と目が合う。

 指先から足の爪先、ともすれば髪の毛の先まで神経が通っているかのごとく、私の身体は完全にコントロールされる。マリオネットを操るように、私の意識は私の少し上空へ。まるで幽体離脱でもしたように自分の身体を俯瞰し、どの糸を繰ればどう動くのかを理解せられる。

 

『今宵、皆様が──』

 

 祥子ちゃんのナレーションが始まる。

 渋っていたのに自分でナレーションまで手を出し始める辺り、祥子ちゃんも大概凝り性というか、自分が手を出さないと我慢がならないタチだなぁと思う。

 

「神様、どこへ行っちゃったの?」

 

 私は舞台を彷徨い歩く。灰と瓦礫の街。炎が燻り、硫黄の臭いが漂う都の残骸を、裸足のまま踏みしめる。

 これは、モーティスの役だろうか。芝居を続ける私のカラダとは裏腹に、思考は巡る。

 睦ちゃんのモーティスではなく、環のモーティスだ。祥子ちゃんが、私を書いたモーティス。

 

 彷徨ううち、親を探す人形は、顔のない少女に出会う。少女は砕けた塩の塊を抱いて歩いていた。

 

「あなた、お名前は?」

「……わからない」

「じゃあ、そのお顔はどうしたの?」

「覚えていないんだ、ぼくは……ぼくは、大切なものを、奪われてしまったような気がする」

「それなら、わたしと一緒に行こうよ!」

「きみは?」

「わたしはモーティス! 神様を探しているの。……名前が無いのなら、私が付けてあげる。あなたのこと、ドロリスって呼ぶね?」

 

 ドロリスの手を引いて、燃え残った街を抜け出す。

 白い霧が棚引いて、ティモリスとアモーリスが現れた。二人とも剣を佩いていて、威圧感がある。

 

「……生き残りですか」

「かっわいそ〜。地獄にも行けなかったんだ」

「あなた達は?」

「街の様子を見に来た騎士です。ティモリス、とでも」

「私はアモーリス。助けてあげよっかぁ?」

「あなた達も神様を探しに来たの?」

「……そう見えますか?」

「うん。この街に来る人はみんな、神様を探しに来るんだよ。わたしも神様を探しているの。一緒に来る?」

「そう言うってことはぁ、アテがあるわけ?」

 

 芝居が進んでいく。

 道連れを増やして、己の望みを明らかにして、そしてわたしたちは、試練を課されることになる。神の御許へ至るには、人形であってはならない。本物でなければ。

 我らはリリスの娘に非ず、とティモリスが叫んだ。

 

 やがて戯曲が場転に入って、わたしたちは楽器を手に取る。マイクスタンドの前で、仮面をつけた初華ちゃんがギターを撫でた。

 

【Re;Place】。以前祥子ちゃんが書き上げたELEMENTSの曲とは全く違う、新しいAve Mujicaの曲。

 無機質な鍵盤を撫でる。もう一度ステージライトが点けば、今度こそ私の知らない新しいAve Mujicaが始まる。

 

 嬉しいのか、気に食わないのか、自分でも最早分からなかった。

 私が残滓をかき集めて作ったAve Mujicaは、結局以前とは別物だ。私にはこれしか残されていないけれど、私が求めていたものとはどこか違っている。

 

 結局、以前と同じAve Mujicaなんて作れやしないのだ。私が欲をかいて余計なことをしたからかもしれないし、そもそも私が若葉睦ではなく環であるからなのかもしれない。

 

 リプレイス。もう一度あの場所へ。或いは、ニセモノに置き換えられた私たちの歌。

 

 鍵盤に触れる。冷たい感触が返ってくる。

 ドロリスが緩やかに両手を掲げ──クラップ。直後、私が鍵盤を押し込む。

 思考とは裏腹に、機械のように私の指先がオートマチックに踊る。白鍵を渡り歩き、黒鍵を跳び回る指先に付き従って、電子オルガンが伸びやかに歌う。

 

 ドラムとベースの低音が、私の足元を不確かにする。アモーリスは……ほんの少しだけ、走っている? 仮面越しに目が合った。アモーリスが驚いたような表情をして、テンポが戻る。ティモリスのベースがブレないから、軌道修正は容易だった。

 

 ドロリスのギターボーカルは、私の想像以上だった。

 フルニトラゼパムに沈む夜を歌う。母親を失った悲しみを歌う。夢から覚めた夢を歌う。天使の人形を嗤う。腐った花束を嗤う。間に合わせの幸福を嗤う。

 初音ちゃんよりも、ともすれば上手いかもしれない。こればかりは贔屓目と言われても仕方がないけれど。

 

 演奏には余裕があった。反復練習による刷り込みのおかげで、こうして思考を巡らせ、舞台全体に目を配る余裕さえある。

 

 同時に、この胸を埋める空っぽにも気がついてしまうのだけれど。

 

 

 この舞台は私にとっての麻酔に過ぎない。

 

 盛り上がる観客への高揚も、音楽で通じ合う感動も、私には一欠片だって存在しない。

 

 舞踏会。私の心は、いつも通りに凪いでいる。

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