めめんと・もーてぃす!


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作:ああ
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デデンと!もーてぃす!


消えたはずでは!?!?
 
 
 
 



 

『我、死を恐れる勿れ』

 

 パズルのピースがハマったように、意識せずとも言葉がするりと抜け出してくる。若葉環がMortisへと還り、私は自我を持った人形として歩き始める。

 

 シナリオに不満はある。

 たとえば、Oblivionisの不在。

 私が主であるかのような演出にも。

 

 けれどそれ以上に、ステージに立つ私は歓喜に満ちていた。

 私の15年は、この瞬間のためにあったのだと、そう確信を持って──

 

()。いくつか相談したいことが」

 

 ──たちまちに私は若葉環へと逆戻りする。

 

 

 

 

 

 

「祥子ちゃん、アルバムの売上見てる? めちゃくちゃ売れてるじゃん」

「ええ、だからこそ、改めてライブの詳細を詰め直そう、と言っているのですわ」

 

 事務所の小会議室。祥子ちゃんが直近の合わせ練習の映像を持ち出してそんなことを言い出した。

 

「ぶっちゃけ、私は驚いてるよ。匿名仮面バンドがこんなに評価を受けるなんて。ビジュアル面での売りも皆無に等しいのに、コンセプト・アルバム一つだけでここまでの話題性を確保できるとは思わなかった」

 

 事務所が弾き出した期待値以上にアルバムは売れ、サブスクリプションを含めた配信サービスの伸びも好調。話題が話題を呼ぶ、という表現の通りに倍々ゲームの如くAve Mujicaの名は広まっていった。

 

 よく考えなくとも、ぶっつけで大きなハコを確保してチケットをすべて売りきったかつてのAve Mujicaを思えば、祥子ちゃんにこれほどのプロデュース能力があることを推察できて然るべきだったのだ。

 

「……諸刃の剣でもありますわ。ライブで大きな失態を犯してしまえば、この評価は反転する」

 

 もちろん、嬉しい誤算だ。たった一枚のアルバムで、Ave Mujicaはこの事務所の新星として名を馳せた。祥子ちゃんが言うように躓く可能性はあれど、逆に言えば恐れるべきはそれくらいでしかないのだ。もし観客の期待に100%応えられなかったとして、等身大の人気に落ち着くだけなのだし。

 

「じゃあ逆に問うけど、今の方針の何が不満?」

「先走り過ぎているような気が。広報に偏重しすぎているような──」

「うーん……まあ、話題性っていうノルマを達成できた以上、足元を固めても良いとは思うけど……。うん、祥子ちゃんを信じることにする」

 

 祥子ちゃんという強烈なリーダーがいない以上、保険を掛けるに越したことはない。初音ちゃんはSumimiでライブ経験もある実力派だったけど、初華ちゃんは初めてのライブでいきなりメジャーデビューだし。

 にゃむちゃんと海鈴ちゃんのことはあまり心配していないけど、イレギュラーが起こったときに、頭が私であることが悪さをするかもしれない。

 

「ところで、祥子ちゃんの名義はOblivionisにしない?」

「しませんわ」

「ケチ」

「ケチではありません」

 

 心配ごとと言えば、私の演奏能力もそうだ。

 祥子ちゃんの補助もあって、鍵盤を正確に押さえる技能はかなり向上したように思う。それこそ、アドリブを含まない演奏で、かつオルガンサウンドを奏でるのなら、私は祥子ちゃんに全く遜色ない演奏ができる。

 

 問題は、まだアドリブが利かないこと。私のはあくまでコピーであり模倣であって、基礎力や知識、経験が大幅に不足している。

 

「どうして月の湖なんですの? それに、名前の割り振りにもこだわりがあるようでしたが……」

「私はモーティス! って感じしない?」

「環は環ですわ」

「そっか……」

 

 けれども、十分に走れると思っていた。

 祥子ちゃんが引いたレールは、それほどまでに強固だ。少なくとも私はそう感じている。

 

「じゃあもし、祥子ちゃんが名前を割り振るとしたら、私はどの名前にしてた?」

「環をOblivionisにしていたかもしれませんわね。睦ならMortisと付けていたかもしれませんが」

「ふぅん。テキトーだった訳じゃないんだ」

「なんの話ですの?」

 

 睦ちゃんのイメージが「死」だとでも言うのだろうか。このあたりは祥子ちゃんの感性でしかないからよく分からないけれど、祥子ちゃんの業を感じなくもない。

 

「まぁ──」

「あ、いたいた! タマ、私と動画撮るって約束!」

 

 ガチャ、と荒々しくドアノブが下がって、にゃむちゃんが入ってくる。……私と祥子ちゃんの名前で部屋を予約してあるのは外から分かるにしろ、他に誰かいたらどうするつもりだったんだろうか。こういうところ、ちょっと抜けてるよねとは思っていたり。

 

「ん、わかったって。……祥子ちゃん、スケジュール調整しよ。マネージャーさんと相談しといてくれる? 合わせ練習増やす方向で」

「えぇ」

 

 にゃむちゃんのトゲトゲしい視線を浴びながら、祥子ちゃんに手を振った。

 

 会議室を抜けて事務所の外へ出る。祥子ちゃんに負担かけ過ぎなんだけど……ううん、どうしよう。とりあえず、お給金が出たらバイトは辞めてもらって──事務所側にもう少し働いてもらおうかな。

 

「それでさ、『タマ』ってのやめない? 猫じゃないんだけど」

「かわいいじゃーん」

「モーティス方面で何か考えてよ。モー子とかでもいいから」

「悪くないけど、ナシ」

 

 にゃむちゃんの動画は大抵自室で撮影しているらしいので、私もお呼ばれすることになった。にゃむちゃんは私の家に来たがったけど……別の機会にみなみちゃんには繋いであげるから、我慢してもらおう。

 

「えー。てか、何を撮るの? 私メイクのコツとか知らないよ」

「ナチュラルメイクくらいしかしてないくせに、コツとかないでしょ。タマ、何ができるの」

「パントマイムとか?」

 

 睦ちゃんは全くメイクしないし、私もせいぜいナチュラルメイクというか、最低限マナーとして、以上のものではない。必要なときには衣装さんが上手くやってくれるから。

 

「そういうんじゃなくて〜」

「お話はできるけど? 何してほしいの」

 

 にゃむちゃんが私と動画を撮って何がしたいのかはよくわかんないけど、私の知名度を上手く使いたいことはわかる。……うーん、私が気にすることじゃないか。

 にゃむちゃんが飲まれても、バンドから離れる択は取らないだろうし。……取れないだろうし、か。

 

「にゃむちゃんが私にお化粧してくれればいいじゃん」

「美人にメイクしてもつまんなーい」

 

 にゃむちゃんについて彼女の部屋に行くと、にゃむちゃんの部屋は1部だけが綺麗にされていた。たぶん、ここが撮影スペースなんだろう。あとは引越しのダンボールが開封されないまま置かれていたり、クローゼットに入り切らない服が押し込まれていたり。

 

 結局、動画の内容は私のメイクになった。にゃむちゃんが私の顔をキャンバスにして、「〇〇風」メイクを作っていく。私は何度も顔を洗ってメイクを落とす羽目になった。肌荒れしたらヤダな。

 

「タマって、自分が好きで女優やってんの?」

「どうして? 望まないと女優なんてやらないでしょ」

「森みなみの娘なら、やりたくなくても子役やらされるかもじゃん?」

「まあ、私は望んでやってるよ。女優が好きかって言うと……どうだろね?」

 

 ところでおフェロ風って何? 

 

 にゃむちゃんからの評価が高そうだったのは地雷系メイクだった。私は睦ちゃんより目付きが悪いから、治安悪そうなメイクの方が似合うのかもしれない。いじめっ子の役が回ってきた時にもたしか、みなみちゃんとそんな話をした。

 

「じゃあ、踏み台って何のつもり?」

「にゃむちゃんがAve Mujicaでやろうとしてるのと同じ事だよ」

 

 気に食わない? と首を傾げると、にゃむちゃんは視線を逸らしてしまった。

 にゃむちゃんにとってのAve Mujicaが通過点に過ぎないように、私にとっての役者業も通過点にすぎなかった、というだけのことだ。それが真実、全く対照的でなかったとしても、私はそう言い張るつもりでいる。

 

「にゃむちゃんはさ、人気者になりたいの? それとも、女優になりたいの?」

「人気が欲しいだけなら動画配信だけで十分でしょ。私は──あー、今のナシ」

「ふーん。私は、にゃむちゃんとAve Mujicaやりたいな」

「別に、私じゃなくてもいいんでしょ。そこそこ知名度があるから使ってるだけでさぁ」

「……たぶん、にゃむちゃんが自分で思うよりもずっと、私はにゃむちゃんにこだわってるよ」

 

 にゃむちゃんはパソコンに向かって、録画データにメモを挟む作業に移ってしまった。

 

 知名度を得たいのではなく女優になりたいのだとしたら、にゃむちゃんはかなり遠回りをしているような気がする。上京して一人暮らししているくらいなんだから、金銭的にどこかのスクールに通うのが難しい、というのもちょっとわかるんだけれど。

 それとも女優一筋というわけではなく、芸能界で成り上がることが目標なんだろうか。

 

「私、女優業が好きじゃなさそうに見える?」

「好きだったら自分の立場を『踏み台』なんて言わないでしょ」

「それもそっか。……わかってると思うけどさ、その動画、公開するタイミングはよく考えた方がいいよ。にゃむちゃんのガッツ次第だけど」

「正体がバレるから匂わせはやめろ、って話じゃないよね」

「それは明言しなければどうだっていいよ。若葉環ってキャラクターの影響力を甘く見ない方が良いって話。踏み台から足を踏み外したって仕方がないでしょ」

 

 

 

 

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