―あなたが欲しい―
「あら、ミーシャちゃん。いらっしゃい」
「おはようございます」
「ごめんねアノスちゃんまだ眠ってるみたいなの。今日も起こしてきてもらえるかしら?」
「ん」
そんな事を思い始めたのは何時からだろう。
毎朝この家に来て、この階段を上ってあなたを起こす。
あなたにわたしが影響を与える。その事実が堪らなく心地いい。
「ミーシャおはよう」
「おはよう、アルカナ」
今階段を降りて、母親の元に行ったあの子も、あなたの為に生きている。
そう、あなたは皆の魔王様。
――でも、この瞬間だけは違う。
あなたが眠る部屋に、わたしだけが居る。
あなたの寝息も、あなたの静寂も、あなたの安らぎも――――わたしだけのもの。
わたしだけのあなたを感じて、あなただけのわたしを感じる。
この感情は…たぶん恋。
月の下で語り明かしたあの日、誰も気が付かない、わたしの涙に。あなただけが気が付いてくれた。
暗い絶望の中で、あなただけが光り輝いてくれた。
2000年前のわたしにあなたが愛を教えてくれた。
あなたが欲しいと思ったのは、きっとその時。
神であるわたしは、この感情を知らなかった。知るはずもなかった。あなたに出会うまでは――。
サーシャと楽しそうに話しているのを見て、生まれて初めて嫉妬した。あなたが傷つくところを見て、初めて悲しみじゃなく、怒りを覚えた。
あなたの為なら、あなたを傷つける世界を、
わたしのすべてはアノスのもの。
だから、わたしが近づいても、あなたは目を覚まさない。触れたとしても、あなたは目を覚まさない。
わたしに信頼を置き、数多の可能性を思考するあなたでも、わたしが寝ているあなたに近づくのを許してしまう。その瞬間はわたしだけのもの。
あなたをわたしのものに出来たなら、この瞬間が永遠に続くのだろうか。
そっとあなたの胸に手を当てても、あなたは起きない。
あなたは創造魔法では、わたしに勝てなかった。きっとこのまま、あなたの心を作り替えてしまえば、ひと時、わたしが見つめ続け、あなたが滅びを纏わない限り、あなたはわたしだけのものになる。
この手に、この
わたしの全てはあなたのもの。あなたのものであるわたしは、あなたが欲しい。あなたの愛が、あなたの心が―――欲しい―――。
想いが溢れないように、感情を作りながら、あなたに触れる。
いつの日か、抑えられなくなるその日まで。
だからわたしは―――今日もあなたを静かに、優しく、揺さぶり起こす。
「アノス、朝ごはん」