「日本一テレビに出るスーパー」のカラクリ

では「商品の特徴もないし、誇れるような実績もない。この先、新商品や新規事業の予定もない」という会社はどうしたらいいのでしょうか。こうなると、「速さ」と「付き合いやすさ」を武器にするしかありません。

東京都練馬区に本店がある「アキダイ」というスーパーマーケットをご存じでしょうか。間違いなく「日本で最もテレビに出ているスーパー」なので、名前くらいは聞いたことがあるのではないでしょうか。天候の影響による食品価格の高騰、物価高や為替変動、消費増税などのニュースがあるたびに、テレビ局から取材を受けています。2019年の新語・流行語大賞では「軽減税率」でアキダイの社長が受賞するほど、「テレビでおなじみの存在」となっています。

もしテレビの番組制作者が食品価格などの正確な情報を紹介したいのであれば、アキダイよりもずっと多くのデータを持っているイオンなど全国チェーンのスーパーマーケットに取材するべきです。なぜ中小企業のアキダイに、テレビ取材が集中するのでしょうか。その理由は、テレビにとってありがたい存在だからです。

なぜイオンより「アキダイ」が選ばれるのか

ニュース番組の制作は、とにかく時間との勝負です。夕方のニュース番組であれば、放送内容が確定するのは放送当日の正午頃です。その時間から「野菜高騰の現場」を取材しようとすると、すぐに連絡がついて、即決してくれるスーパーでなければ間に合いません。

テレビスタジオの男性カメラマン
写真=iStock.com/Sviatlana Lazarenka
※写真はイメージです

イオンのような大企業にアプローチする場合、まず広報部に取材依頼の電話をかけると、「取材依頼書」をメールで送るように要請されます。さらに広報部長の許可、取材対応を行う店の選定や店舗担当者への対応依頼といった、スーパー側での社内調整の時間が必要となって、とても間に合わないのです。

ところがアキダイは中小企業なので、大企業のような社内調整など必要ありません。社長が取材依頼の電話に出て、即決です。取材趣旨を説明して了承を得るまで、5分もかからないはずです。中小企業の強みであるスピードを最大限に活かせるのです。

もうひとつの理由は、番組制作者は「スーパーの取材で勝負しよう」とは思っていないことにあります。番組制作者にとって、勝負のポイントは「企画の切り口」や「映像構成・編集の巧みさ」です。はっきり言ってしまえば、スーパーはどこでもいいのです。だから、撮影交渉にできるだけ手間をかけたくないのです。よって、スーパーのテレビ取材は、手間のかからないアキダイに集中するというわけです。

「商品に特徴もなく、かと言って新商品や新規事業の予定もない中小企業」がアキダイから学ぶべきなのは、業界や地域で最もメディアが付き合いやすい会社になることです。取材依頼には即、しかも極力、要望に沿う形で対応するのです。