「宇宙の謎」を気鋭の物理学者が解説する新刊、『95%の宇宙』発売!
いまだそのほとんどが解明されていない宇宙。私たちが思っているよりももっとたくさんの謎が存在していて、現時点でわかっていることは、たった5%だといいます。
「わかっていない95%」の宇宙とは、一体なんなのでしょう?
6月7日発売の新刊、『95%の宇宙 解明されていない“謎”を読み解く宇宙入門』より、「はじめに」全文を無料公開します。
はじめに
突然ですが、あなたはなぜ本書を手に取り、読んでくださっているのでしょうか。
きっと、宇宙自体に興味がある方、宇宙の謎を知っておきたいという方、もしくはその謎に挑みたい、現時点で宇宙の研究はどの程度進んでいるのか知りたい方など、さまざまでしょう。ほとんどの方は、 「宇宙に興味があるから」本書を手に取ったはずです。
では、 「宇宙に思いを馳せる」とよく言うように、なぜこれほどまでに私たちは宇宙に魅了され続けるのか──。
それは、いまだそのほとんどが解明されておらず、謎の多いテーマだからでしょう。解明されていないからこそ、私たちは長い間、宇宙の謎に魅了され続けているのです。
私たちの宇宙に関する理解は、ここ100年ほどで大きく進みました。にもかかわらず、宇宙はいまだ、現在の宇宙を構成するエネルギーの量で見たときに、その5%しか正体がわかっていません。残りの95%のエネルギーは、何からきているのかよくわかっていないのです。
私たちは、その「見えない・わからない部分」に、浪漫を感じているのかもしれません。すぐにそのすべてがわかってしまって謎の一つもない物事には、あまり興味をそそられることはありませんよね。
そしてそれは、宇宙の残り「95%」に、新たな発見やとてつもない可能性が満ち溢れているということを意味します。どうでしょう。ワクワクしませんか?
私をはじめとした世の宇宙物理学者たちは、そんな「見えない・わからない」宇宙と向き合って、まだ解き明かされていない謎を明らかにしようと、日々研究を重ねています。それらの研究の成果により、現在では、95%のうちの25%ほどはダークマターと呼ばれる未知の物質であり、残りの70%ほどはダークエネルギーと呼ばれる、物質ですらない「空間自体の持つ」エネルギーのようなものだということがわかってきています。しかし、これらの正確な正体は、いまだに謎のままです。
そこで本書では、宇宙に関わるこれら未解決の謎や不思議について紹介します。そのうえで、 「素粒子」 「量子力学」 「時間」 「量子重力」など、宇宙を語るに欠かせない物理学の謎についても見ていきます。これらの謎が解けた日には、宇宙の迷宮入りしていた謎さえ、解けるようになっていると期待されるからです。
そのうえで本書では、なぜ多くの謎がいまだ解明されていないのか、どのような仮説が出ているのか、現時点ではその中のどれが有力なのか、仮説の反証には何が挙げられているのか、それぞれの謎のポイントはどこかなどを解説していきます。
宇宙の謎を解明するべく日々研究をしている科学者の足跡をたどりながら、一緒に謎を解く鍵を探しに行きましょう。
ただし、ここでの解説はあくまでニュートラルな立ち位置を保つように心がけています。宇宙の謎の数々に、 「難しい」ではなくしっかりと浪漫を感じてほしいからです。 つまり、本書の主体は読者であるあなた。あなたが宇宙の謎にどう向き合ってくれるのか、私自身も楽しみです。
とはいえ本書は、勉強のための参考書でも、研究のための専門書でもありません。そのため、本書によって宇宙の謎が解けるとか、解明の糸口が必ず見えてくるとか、そうした内容ではないということは、ここで改めてお伝えしておきます。 もしかすると、本書を読み終わったら、 「なぜ宇宙はこんなにもわからないことだらけなのか」ということくらいは、わかるかもしれません。
ただひたすらに、宇宙の底深い謎に向き合って楽しんで、ワクワクしてほしいのです。宇宙の深淵を覗いているとき、深淵もまたあなたを覗いています。ですから、どうせなら覗かれている間は、 「宇宙のわからなさ」を思い切り楽しんでいただけたらと思うのです。
物理学は自由であり、楽しいものであるということが、本書から皆さんに伝わることを願っています。そして、その「未解決の謎」を解決したとき、私たちにどんなことをもたらしてくれるのか──。そうした未来へのワクワクに、思いを馳せて読み進めていただければ幸いです。
それでは、宇宙の迷宮に一緒に潜っていきましょう。
目次
序章 なぜ宇宙には謎が多いのか?
「迷宮」のような宇宙 ~謎の分類~
謎を解き明かす「科学」とは何か
調べれば調べるほど、新たな謎が生まれる宇宙
変化してきた宇宙観
宇宙の謎を解くための武器
第1章 宇宙の「始まりと終焉」の謎
相対性理論から導かれる「宇宙の始 まり」の謎
宇宙マイクロ波背景放射に隠されていた情報
宇宙の始 まりは本当にビッグバンか?
宇宙に物質が存在する謎
宇宙には星や銀河だけしかないのか?「ダークマター」の謎
宇宙の将来はどうなる?「宇宙終焉」の謎
第2章 素粒子の「数」と宇宙の謎
物質を細かく分割した「素粒子」の存在
宇宙にはなぜ粒子ばかりあって反粒子はほとんどないのか?
「ニュートリノ」に残る謎
標準模型の「構造」の謎
第3章 量子力学の「観測」と宇宙の謎
量子力学とは何か?
二重スリット実験の不思議
量子力学における観測の謎
量子もつれの謎
量子力学は世界全体の理論なのか?
第4章 時間の「存在」と宇宙の謎
時間と空間から時空へ
「時間の矢」という謎
なぜ時間は1次元なのか?
時間は存在するのか?
第5章 量子重力における「マルチバース」と宇宙の謎
相対性理論と量子力学の謎
量子重力理論の候補「超弦理論」の謎
宇宙は数えきれないほどたくさん存在している!「マルチバース」の謎
「ブラックホールの量子力学」の謎
ブラックホールとエントロピーの謎
著者プロフィール
■野村泰紀
カリフォルニア大学バークレー校教授。バークレー理論物理学センター長。米国ローレンス・バークレー国立研究所上席研究員、理化学研究所客員研究員、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構連携研究員を併任。1974年神奈川県生まれ。1996年東京大学理学部物理学科卒業。2000年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。米国フェルミ国立加速器研究所研究員、カリフォルニア大学バークレー校助教授、同准教授などを経て現職。著書に『マルチバース宇宙論入門』(星海社)、『なぜ宇宙は存在するのか』(講談社)、『多元宇宙論集中講義』(扶桑社)、『なぜ重力は存在するのか』(マガジンハウス)がある。
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