紛争の間分断されていたコートジボワールの北部で、職業訓練学校が荒廃している。日本に、その復興を手伝ってほしい。そう聞いたときに、私が思い浮かべたのは、荒れ果てた学校、生徒も教師も散り散りになっていなくなり、後には雑草の生い茂り、壁の崩れた校舎だけがのこる敷地を、呆然と眺める自分の姿であった。学校の校舎を修復・新築し、生徒と教師を改めて募って、職業訓練学校の活動を一から再開していく。そういう協力案件だと考えていた。
ところが、来てみたら全然違う。フェルケセドゥグの職業訓練学校に到着すると、生徒たちが沿道に一列に並んで、拍手で私たちを歓迎してくれる。皆お揃いの、ブルーの綺麗な作業服を着ている。生徒たちは70人いるという。もちろん先生たちもちゃんといる。校舎も、もちろん贅沢で近代的なものではないけれど、簡素な平屋建ての教室が並んでいる。黒板を見ると、パスカルの原理のような図と、計算式が書き連ねてある。授業が毎日ちゃんと行われているのだ。
では、何が問題なのだろう。説明を聞くと、もちろん運営上の問題はある。紛争前は、教師の派遣や給料は、国つまりアビジャンの中央省庁から来ていた。それが途絶えている。教師の給料や授業の経費は、自助努力でなんとか賄っている、というような、大変な苦労の中でやっている。しかし、一番何とかしなければならないのは、実習機材や設備である。この学校での実習は、金属加工、自動車整備、木工の3科目に分かれている。ところが、それぞれの科目で、生徒たちが実際に作業をしようにも、工作機械が皆壊れていて、実技訓練ができないのだ、という。
校庭の向こう側には、鉄工所のような建物が3棟建っていて、科目ごとに棟が割り当てられている。私たち一行が建物に入っていくと、建物内部の広い空間に、たくさんの実習用の工作機械が並んでいる。これが、ほとんど壊れて動かないままになっている。私たちが来るので、工作機械や実習機材の説明と稼動状態が、紙に書いて貼り付けてある。
「フライス盤、2003年より故障。」
「曲げ加工機、2003年より故障。」
「分解実習用トラクター、2001年より不稼動。」
殆どが故障中で、油も切れて埃をかぶった状態である。なるほど、2000年以来のコートジボワールの混乱で、こうした職業訓練学校の維持管理は、全く顧みられることがなかったのだ、と一人で納得する。
「旋盤、1998年より故障。」
「ボール盤、1997年より故障。」
あれれ、2000年以降どころか、もっと前から故障、という工作機械もたくさんある。よく近づいてみると、なにやら漢字が書いてある。おっと、台湾製の工作機械なのだ。指で埃をぬぐって製造年を調べると、なんと1977年と記してある。 どうやら、紛争の混乱だけが原因ではなさそうだ。
午後に、フェルケセドゥグから50キロ西のコロゴ(Korhogo)という町に移動。コロゴの職業訓練学校に行ってみたら、ここも全く同じ状態であった。1977年に導入された、台湾製の工作機械がたくさん並んでいて、皆そろって故障している。年代から言って、中国代表権問題をめぐって、中国と台湾が援助合戦でしのぎを削っていた頃に、コートジボワールが台湾から供与を受けたものなのだろう。しかし、30年も前の機械を、そのまま使おうといっても、さすがに寿命だ。
「30年前の工作機械となると、修理しようにももう部品が手に入らないのです。もちろん工作機械ですからね、部品を自分たちで加工して作って、なんとか騙し騙し修理してきました。しかし、それにも限界があって、このとおり皆動かなくなってしまいました。それに工作機械はどんどん進化しています。これを動かせるようにしたとしても、世の中の金属加工技術にはついていけない。」
学校の主任教師が説明する。つまり、紛争が原因というより、30年にわたって、工作機械や設備に、何らの更新や買い替えをしてきていない。職業訓練を担当していた、当時の政府機関の、不作為というか怠慢が原因なのだ。
コロゴの職業訓練学校でも、100人あまりの生徒たちがいて、きちんと制服を着て授業に通っている。教師たちも、ちゃんと人数がいる。学校の校舎もそろっていて、教室などを新たに建てるといった必要はない。要するに、単に工作機械がないのである。技術習得に一番大切な、実習のための機材がない、それらを新たに導入する必要がある、とこういう話である。これでは、絵の具も絵筆もないまま、絵を描く勉強をしているようなものだ。生徒たちは、この10年にわたって、そういう状態に置かれてきた。
私は思う。考えていたより簡単な話だった。学校を一から作り直す話ではない。工作機械を買って、職業訓練学校に供与すれば、それで授業は動き出すのだ。ここに並んでいる、故障して動かなくなった機械を、一番新しい製品に買い換えていくという計画にすればいいだけじゃないか。
そう言って、傍らの国連工業開発機関(UNIDO)の担当者を見ると、渋い顔をしている。
「それほど簡単じゃないだろうね。」
彼がそう考える理由を、説明してくれた。
(続く) 工作機械はみな故障(フェルケセドゥグ校)
研磨機:2003年から故障(フェルケセドゥグ校)
金属曲げ加工機:2003年から故障(フェルケセドゥグ校)
農業機械の実習(フェルケセドゥグ校)
分解修理実習用のトラクター:2001年から不稼働(フェルケセドゥグ校)
エンジンの分解実習(フェルケセドゥグ校)
旋盤:1998年から故障(フェルケセドゥグ校)
コロゴでもカバチャ登場
コロゴの民俗楽団
フライス盤が壊れている。(コロゴ校)
機械に漢字の表示がある。(コロゴ校)
修理のために自作した部品(コロゴ校)
とうとう動かなくなった。(コロゴ校)
電気技師養成用の実習パネルと実習生(コロゴ校)
今回の代表団来訪を記念して(コロゴ校)
最新の画像[もっと見る]
-
二つの報道 15年前
-
白黒はっきりしない理由 15年前
-
白黒はっきりしない理由 15年前
-
白黒はっきりしない理由 15年前
-
白黒はっきりしない理由 15年前
-
白黒はっきりしない理由 15年前
-
白黒はっきりしない理由 15年前
-
白黒はっきりしない理由 15年前
-
白黒はっきりしない理由 15年前
-
大使たちが動く(2) 15年前
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます