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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

断腸の思い(1)

2009-05-18 | Weblog
大使としておそらく最も栄誉ある仕事は、首脳外交を実現することであろう。日本と任国との橋渡し役として、任国の最高首脳を日本にお連れすることにまさる仕事はない。そうした晴舞台で、その国と日本の間のいろいろな懸案を解決し、将来への計画に合意し、人々の交流を深め、そして報道などを通してその国のことを日本の人々に知ってもらう。さまざまな演出を考えるのである。

そのかわり、その準備は大変だ。総理大臣をはじめ、日本側の多忙な人々に、きちんと説明をして理解を得て、首脳会談をはじめとする行事の日程を決めていかなければならない。首脳の間で話をするとなると、もちろん挨拶や意見交換だけではない。いろいろなことを合意したり、決定したりする。そこには大きな責任が伴う。裏付ける予算があるのかなど、合意することに実現の見通しがないといけない。二国間で協力して動かす案件を、適確に持ち出して、その場できちんと方向性が決まるように、事前に準備する。つまり、お膳立てがしっかりしていなければならない。

昨年の10月、トーゴのニヤシンベ大統領に対して信任状捧呈を行ったとき、大統領が私に訪日希望を伝えてきた。大統領訪日の段取りが計画されたのは、それからである。トーゴは東京に大使館を持たず、また日本の大使である私はロメに常駐しているわけではないので、意思疎通を確実にするには、まず何より私が何度もロメに足を運ぶ必要があった。1月には、矢野哲朗参議院議員にロメを訪問してもらった。ガーナの大統領就任式では、小泉純一郎元総理(日本政府代表)にニヤシンベ大統領と会談していただいた。そういう機会を重ねて、トーゴ側が、日本との関係をどう進めていく考えなのかを、じっくり聞いた。

トーゴ側でも、事前準備が進んだ。大統領の露払い役として、エサウ外相が2月に日本を訪れた。中曽根外務大臣との間で、史上初の日・トーゴ外相会談を行うことができた。そこで、ニヤシンベ大統領訪日が、正式に決まった。エサウ外相はまた、トーゴ側の経済協力分野などでの要望や、大統領がどういう人々と会いたいのかを、日本側に伝えた。東京では、本省の担当部局が、出された課題に、どのように答えていけるかを、一つ一つの案件ごとに詰めていった。

内容の準備とともに、訪日受け入れ態勢の準備が進んだ。ニヤシンベ大統領は、政府専用機で到着する。羽田空港での離着陸や駐機の用意をしなければならない。空港からホテルまでの車列と、その警護の打ち合わせがある。一行名簿は40人近くを数え、ホテルでの部屋の確保と整備に、遺漏が無いように気を使う。たとえばホテルには、大統領の部屋の隣に、秘書官室、警護官室を用意して、専用電話回線を引かなければならない。そうしたきめ細かい準備を着実に進める。そして、晩餐会やレセプションなど、社交行事を計画して、場所を確保し、招待客に案内を出したりしなければならない。

さて、訪日日程まであと2週間。東京からは、準備が万端整ったという連絡である。私は、張り切っていた。最終的な日程表を携え、ニヤシンベ大統領への挨拶と事前説明のために、ロメに飛んだ。ロメに到着して最初の日に、エサウ外相に会って、私から日程の説明をし、注意点などを詳しく伝えた。エサウ外相は、日・トーゴ首脳会談をはじめ必要な行事予定が適切に組まれて、とても充実した日程になった、大統領に自信をもって報告できる、といって喜んでくれた。

「晩餐会では、スピーチが求められるのだろうか。そうだとすれば、何分間でどういう内容にすべきだろうか。」
エサウ外相は私に聞く。そうだ、よくぞ指摘してくれた。そういう段取りを詰めることこそ大事である。スピーチを交換するというなら、お互いに原稿を用意する必要がある。早速、東京側に聞いて連絡すると答える。さらに、会談の使用言語や通訳をどうするか、報道関係への発表や取材をどうするか、などの打ち合わせがある。あと2週間先の訪日であるから、細かい点が議論される。

そう、エサウ外相だって準備に一生懸命で、そんなことになるような雰囲気は、前日まで全く無かったのである。ニヤシンベ大統領と会う当日に、私はきちんとダークスーツを着て、大統領儀典室から差し向けられた車に乗りこんだ。私は、心の中で、大統領に会ったらまず何と言うか、用意している台詞を反芻した。
「大統領閣下、閣下を日本にお招きすることができ、大使としてこれに優る光栄はございません。」
そして、大統領府の門をくぐった。

(続く)

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1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (しょうこ)
2009-05-18 23:10:06
何か「おち」がありそうですね。大統領の弟さんの事件でしょうか。。

今トーゴの首相をしているGilbert HoungboはもともとUNDPで、私も1年半ほど一緒のオフィスで仕事をしました。この間までたまにメール交換をしていたのに、まさか、急に首相になるとは、びっくりでした。お会いになりますか?
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