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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

宗教戦争(3)

2009-05-13 | Weblog
この日曜日に、カラモコは息子の洗礼の式を予定している。ところが、アントワネットは同じ日に、町の広場で断食祭と祈祷会を企画する、と決めたようだ。これは明らかに、カラモコへの嫌がらせである。カラモコは、もうずっと前から、同じ広場で息子の洗礼のお披露目をすることにしていたのだから。

カラモコはイスラム教徒なのだから、金曜日に洗礼式をすればいい、それを日曜日にやろうというのが、そもそもキリスト教徒への挑発なのだ、とアントワネットは言う。カラモコの異議申し立てで、調停のための町内委員会が開かれることになった。

「だいたい、町内会じゅうの人を寝不足にしておいて、まだ足りないのか。何ゆえに広場で、日曜日の祈祷会なんだ。」
と、シルエが机を叩く。町内会長のウライは答える。
「町内の悪霊を叩き出すためなのだ。」
町内会長は、町内委員会でただ一人、アントワネットの宗派に取り込まれている。
「皆の不眠の原因をつくる奴こそが悪霊だ。ともかくも、カラモコがずっと前から、町の広場を使うことを申し出て、了承も取り付けていたのだ。」
しかし、アントワネットは、祈祷会開催に合意しなければ宗派から破門する、と町内会長を脅したので、町内会長は妥協案を決めた。広場の反対側でなら、祈祷会を開催していい、ということになった。

いよいよ日曜日の朝、カラモコは広場にテントを張った。お披露目会のためである。アントワネットたちは、広場の反対側に陣取った。正午になって教祖と信者たちがやってきた。強力なスピーカーから、悪霊よ出て行け、イエスの名において、とがなり立てはじめた。カラモコは、アリスティドやベルナールたちと一緒に、車列を作ってやってきて、それから出て行った。アントワネットたちは、カラモコたちが洗礼式を終えて帰ってくるのを待ちながら、スピーカーで叫び続けていた。でも、カラモコたちはなかなか帰ってこない。

夜7時になって、ようやくカラモコたちが帰ってきた。広場の反対側は叫ぶ。「主に栄光あれ。」カラモコたちは、食べ残しの羊の丸焼きを携えていた。カラモコは、アリスティドの助言に従い、孫子の兵法を実践した。「敵が疲れるのを待て。強者の力が消耗すれば、弱者が勝つ。」

アントワネットたちは、カラモコのお披露目会を邪魔するためだけに、一日中祈祷会を開いていたのだが、結局カラモコたちは別の場所でお披露目会を済ませてきたということを、夜になってから知ったのである。カラモコが建てたテントは、目晦ましであった。一日中叫び続けたのは、無駄であった。

怒りにまかせて、教祖とアントワネットたちは、大声で祈祷を続ける。警察署長のタペが、ついに堪忍袋の緒を切らす。
「君達いい加減にしろ、もう夜も8時半だぞ。子供たちは、明日の学校に備えて、勉強しなければならないんだ。」
そして、ついに祈祷を止めさせた。それから3日間は、アントワネットの家から祈祷は聞こえなくなった。そのうち、アモンの家で祈祷が再開されたが、夜11時には終わった。みんな警察署長のタペが怖いのである。

(続く)

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