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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

宗教戦争(2)

2009-05-12 | Weblog
アントワネットの取った反撃策は、孫子の兵法の一つ、「敵の団結を阻止し、これを分断せよ」であった。アモンが、夕方の飲み会に出ている間に、アモン夫人のところを訪ねて、こう話す。
「あの連中は、私たち皆を殺そうとしているのよ。」
え、誰のこと、とアモン夫人。アントワネットは答える。
「イスラム教徒たちよ。あちこちで、毎晩、秘密集会を開いて、私たちキリスト教徒をこの国から追い出す相談をしているのよ。」

アモン夫人は、何でも信じやすい性分であり、だからこそ、アントワネットとうまく行っていた。そしてアントワネットの言い分を、すぐに町内会じゅうに広めるのであった。つまり、町内で唯一のイスラム教徒であるカラモコは、毎晩怪しい人々と集まりをしていて、自分は壁越しに聞いたのだが、キリスト教徒殲滅の呪文を唱えていたのだ、という話である。

ある夜、アモンは家に帰って驚いた。自宅の客間に、十数人の見知らぬ男女が、白い服をきた教祖ととともに詰め掛け、アモン夫人と一緒に祈っている。アモンは、アリスティドのところに駆け込む。
「大変だ、うちのかみさんが、アントワネットに洗脳された。」
それはいけない、断固として戦わなければ。ベルナールとカラモコも呼んで、4人でアモンの家に戻った。ちょうど教祖が家を出て行くところで、白いメルセデスに乗り込んだ。

「あいつを知っているぞ。あれは何年か前に大変な香具師だった奴で、金と女にしか興味がない人間だ。よくも俺の家で、いまいましい、目に物を見せてやる。」
と、アモンは憤慨する。アントワネットは、4人を見て見ない振り。その夜は、アントワネット宅のお祈りは、いつもに増してけたたましく、勝利の雄叫びにも聞こえる。

翌日、アリスティドはアモンに会って、聞く。奥方をちゃんと懲らしめたかい。
「それが、事は考えていたより重大だった。」とアモン。
「イスラムの連中が、何を企んでいるか、知っているか。あいつら、国中のあちこちで、キリスト教を追いやろうとしている。シャリア法によるイスラム共和国を樹立しようというのだ。ナイジェリアで何が起こっているか、知っているか。浮気をした女を石打ちで殺し、ビールを飲むことを禁止したのだ。」

ちょっと待て、そんなこと誰が言ったのだ、とアリスティドは驚いて聞く。
「あの教祖が、うちのかみさんにした話だ。」
「昨日お前は、あの教祖は詐欺師だと言ったばかりじゃないか。」
「それが、彼はその後、イエスと出会って、変わったのだ。」
沈黙して、アモンを見つめる。アントワネットは、孫子の兵法を適用した。「敵については疑いはなし。されど味方については、疑いを生ずべし。」

「あの教祖は、お前までたぶらかしたのか。」
なんだって、とアモンは怒る。
「よく考えてみな。誰が町内の睡眠を妨げているのだ。」
「アントワネットさ。」
「ほらみろ、イスラム教徒と何の関係があるんだ。」
「でも、イスラム教徒は、悪魔の呪文を唱えているんだ。カラモコだって、連中と一緒なのだ。」
「カラモコが呪文を唱えているのを、お前見たのか。」
「俺のかみさんが、そうだと言っている。」
「じゃ、誰がお前のかみさんに、その話をしたんだ。」
「アントワネットさ。」
「まだ分からないのか。」
何を分かれというんだ、とアモンは口を尖らせる。

アリスティドは、午後にベルナールを訪ねて、アモンとの会話をそのまま伝えた。そのうちカラモコもやってきた。
「いったいぜんたい、僕の兄弟みたいに思ってきたアモンが、なんて馬鹿なことを言いだしているんだ。」
と、カラモコは驚く。アリスティドは言う。アモンのことも分かってやれよ、あいつはずっと失業中で、働いているかみさんに頭が上がらないんだから。

3人がアモンの家に行ってみると、アントワネットと、アモン夫婦と、ほかに十数人が表に出ていた。教祖を見送ったばかりのようである。
「君達は、僕がキリスト教徒を殺す算段をしていると、言いふらしているらしいな。」
と、カラモコは彼らに言う。アントワネットをはじめ、皆、聞かずに家に入ろうとする。カラモコは、アモンに向かって言う。
「君のことを、友達だと思っていたが。」
アモンは聞こえない振りをして、アモン夫人に言う、さあ家に戻ろう。

アリスティドが帰宅すると、アンジェルが言う。
「今日、アモン夫妻が、私にも祈りの会に参加しないかと、誘ってきたわよ。私は、どの神様を信じるかについて、教えてもらう必要はない、と言ったわ。無教養の詐欺師に指導を仰ぐほど、自分に知恵がないとは思わない、と。これで彼ら、私たちのことを敵に分類したと思うわ。」
よくやった。しかし、奴らがこんなに簡単に、人々の全ての分別を麻痺させてしまうなんて、信じられないことだ。

(続く)

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