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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

宗教戦争(1)

2009-05-11 | Weblog
以前にも紹介した、コートジボワール人作家のヴナンス・コナン、彼の小説をもう一つ。「宗教戦争」という題で、アビジャンの中産階級の住宅街が舞台である。人々の距離が近くて、一緒に固まって生活している、アビジャンの人々の市井の生活が描かれている。向う三軒両隣での、宗教を契機とした一悶着のお話である。

原作には、もう少し登場人物がいて、コートジボワールの宗教についての観察がちりばめられている。ここ十数年の国内対立には、北部のイスラム教徒と、南部のキリスト教徒の対立という側面があること。といっても、この国のイスラム教徒もキリスト教徒も、実は信仰は表面的で、心の底では自然信仰、呪術信仰であること。そして世の中が混乱して大変になったら、教育のある高級官僚でさえ、皆こぞって呪術師通いをはじめたこと。そのあたりは、長くなるので捨象して、大まかな筋書きだけ訳出してご紹介する。

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「宗教戦争」
ヴナンス・コナン作

アリスティドは朝4時に起こされた。隣のアントワネットの家で、人々が大声で叫んでいる。「悪魔よ出て行け。イエスの名前において。」もう1ヶ月もこの調子だ。毎晩、男女が隣家に集まり、夜10時ころからお祈りを始める。その声は段々高まっていって、町内の皆が寝静まった頃に、最も高潮する。

「奴らいったいいつ寝るんだ。」アリスティドは妻のアンジェルに聞く。
「仕事の無い連中だから、昼間に寝ていられるのよ。連中は、他の人々は働くために睡眠をとらなければならないなんてこと、分かっていない。」
一旦起こされて、もう寝付けなくなった。

翌日の夕方、いつものように町内の仲間たちが、飲み屋に集まって、管を巻いている。文学教授のシルエ、失業中のアモン、コンゴ人のヤオ、警察署長のタペ、歯医者のカラモコ、元大尉のベルナール、無名政党の総裁ウライ、党員は彼だけだが。

今夜の話題は、アントワネットのお祈りである。皆かんかんに怒っている。
「だいたい、アントワネットが夜一人で寂しいからいけないのだ。おい、カラモコ。お前の嬶ちゃんは赤ん坊を産んだばかりだから、お前が行って、アントワネットを慰めてやれ。」
と、ベルナールが言うと、カラモコは怒る。誰があんな不器量女の相手が出来るか。

実際、アントワネットはとても美人とはいえない。しかし、隣近所のことを実によく知っていた。誰が奥さんを叩いているか(これはシルエ)、誰が奥さんに叩かれているか(これはウライ)、誰の奥さんが浮気をしているか(これはヤオ)、誰が奥さんに隠れて浮気をしているか(これはほぼ全員)。

アントワネットは、各家庭の家政婦たちと仲が良くて、午後はいつも彼女らと茶飲み話をしている。そして、夕方になると唯一の友人であるアモン夫人のところに行って、噂話だ。アモン夫人は、それを聞いたら、その足でアンジェル(アリスティド夫人)のところに出かけて、台所で立ち話。アンジェルは、カラモコ夫人のところに出かける。この調子で、その日のうちに、ご近所の話は皆、正確に伝わる。

アントワネットと5年間同棲していた男は、ある日突然、一切の家財道具をトラックに積んで、家を出て行った。彼女は、彼と同棲を始めた頃に、看護婦の仕事を辞めた。彼女によると、仕事をすると魔女が彼女を殺す、という呪いがかかっているというのだ。彼女は、呪術師のところを訪ね歩いて、彼女を害そうとする魔女から自分を守ることに、躍起になっていた。

そのうち、アントワネットは、男に愛人が出来たの出来ないので、痴話喧嘩をするようになった。男はとうとう、家を出て行った。アントワネットは一人になった。後になって、男は女学生に子供を作っていたことが分かった。アントワネットが皆に語ったところによれば、その女学生が彼女に呪いを掛けていたのである。

その夜、アリスティド、アモン、ベルナール、カラモコの仲間は、アントワネットの夜のお祈りを止めさせるため、近所中に相談することにした。彼らはそういう相談をしたことを、それぞれの奥方に話した。それぞれの家の家政婦は、それを聞き耳を立てて知り、そうして相談はアントワネットの知るところとなった。

(続く)

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