コートジボワールには、バンコの森のように、国立公園や保全林として指定された地域が、全国に13ヶ所ある。もともと、国全体が天然の原生林ばかりの土地で、独立以来そうした原生林を潰して、農業開発を進めていくことで国を造ってきた。しかし、原生林が貴重になり、象をはじめとして多くの動物がいなくなってから、この国でも森林を保全しなければ、という機運になった。
1995年に、はじめて本格的な全国調査が行われた。その結果、各地に国立公園や保全林として残っている原生林も、相当の速さで切り倒されつつあることが分かった。そして、動物の種類が過去に比べて激減しており、また固有種の動植物の多くが絶滅の危機にある、という結果が出た。政府は翌1996年に、保存地域管理計画を策定、そうした地域の保全のために、保存地域の管理官を増やし、周辺住民の啓蒙活動を行うなどの措置を進めた。
さらに森林保全を確保するためには、本格的な体制を組んでいく必要があるということになった。2002年2月には、特別法を制定、国立公園局が設立され、その運営のための特別予算が成立した。国立公園局は、8つの国立公園と5つの保全林を対象に、全国3つの地域局の統括による運営体制を組み、公園警察を新設して、不法伐採や密猟の取締りを行う国家機関となった。一方で、国立公園や保存林の周辺の村落の住民も参加し、また観光開発も進める、永続性のある資源管理・活用計画を実施していく予定であった。
ところが、同じ2002年の9月に、コートジボワールを南北に分断する紛争が勃発する。そのために、せっかく設立された国立公園局なのであるが、予算が執行されることなく資金が来ず、機能が果たせないままになってしまった。それどころか、用意された地域局の事務所が破壊され、設備が持ち逃げされた。北部のコモエ国立公園や、ニンバ山保全林などでは、兵士をはじめ人々が入り込んで乱伐を行い、荒れ放題になってしまった。国立公園を訪れる、世界からの観光客も、ゼロになった。永続性のある資金循環が、全く出来ない状態になった。
紛争が解決の道筋をたどり始め、政治が安定しても、人々の目はまだ、国立公園の保全まではなかなか及ばない。国家予算は未だ限られている。もし予算が流れ始めても、優先順位が高いのは、国民の生活回復であり、貧困克服であり、また産業基盤の復旧である。環境保全は、優先分野ではない。だから、国立公園局は、引き続き動くための手段も資金もないままになっている。貴重な原生林は、その間にもどんどん失われていっている。
ヨーロッパ諸国のいくつかは、環境問題にも関心が高い。ドイツとスイスは、国立公園局の惨状をみて、タイ国立公園の保全計画に、経済協力の資金を投入することを決定した。タイ国立公園は、西部のリベリア国境に近いところにあり、道具を使うチンパンジーが群れをなして生息していることで有名な原生林である。
「タイ国立公園は、ドイツとスイスのおかげで何とか維持できる目処が立ち、すでにドイツ技術協力公社(GTZ)が活動を開始しています。しかし、それ以外の国立公園は、何も出来ないままになっています。」
と、カヒバ国立公園局長。
「コートジボワールの原生林を保全することは、コートジボワールの問題だけではない。原生林は、生物の多様性や、環境維持の観点から、人類全体の財産です。しかし、国際社会には、原生林をはじめ貴重な自然資源を、国際協力によって保全するための枠組みはないのです。」
国連教育科学文化機関(ユネスコ)は、タイ国立公園、コモエ国立公園、ニンバ山保全林の3ヶ所を、以前から世界遺産に指定している。でも、世界遺産というのは、それを保有する国家に保全の義務を課するだけであって、世界遺産の保全や保護について、ユネスコや国際社会が協力して取り組むという枠組みではない。その国家が機能を麻痺してしまったら、さすがの世界遺産といえども、荒廃にまかせるままになる。国連環境計画(UNEP)が、環境問題についての国際協力をめざして活動しているといっても、それは地球温暖化などの地球規模問題を取り上げて、国家の活動を規制するという国際協力である。個々の原生林に着目して、環境の破壊を防止する具体的な活動を行う体制にはない。
バンコの森を歩きながら、カヒバ局長は私に言う。
「このアビジャンの目と鼻の先にあるバンコの森の国立公園でさえ、周辺住民による侵蝕防止や、水資源の保全を進めていく目処がたっていません。今すぐに何かしなければ、取り返しがつかなくなることは明らかなのです。協力してくれる国があれば、アビジャン市民をはじめコートジボワール全体の貴重な財産を救うことになります。」
日本への熱い目は分かる。紛争前なら、日本の経済協力を組んで、バンコの森の保全計画の支援に乗り出すことができたであろう。しかし、コートジボワールの国が紛争になり、日本は経済協力全部を停止した。紛争ゆえに協力を必要とするようになった原生林に、紛争ゆえに協力が出来なくなっている。日本の協力も、貧困問題などの人々の生活条件に関連する分野なら関心が及ぶが、環境問題に対する経済協力となると、理解を得るのがなかなか難しいかもしれない。
コートジボワールの国立公園と保全林
(1)コモエ国立公園(11500平方キロ)
(2)マラウエ国立公園(1100平方キロ)
(3)タイ国立公園(4540平方キロ)
(4)ペコ山国立公園(340平方キロ)
(5)サンベ山国立公園(950平方キロ)
(6)アザニー山国立公園(190平方キロ)
(7)エオティレ諸島国立公園(6平方キロ)
(8)バンコの森国立公園(35平方キロ)
(9)バンダマ川上流保全林(1230平方キロ)
(10)ラムト保全林(25平方キロ)
(11)アボクアメクロ保全林(204平方キロ)
(12)ニンバ山保全林(50平方キロ)
(13)ンゾ保全林(960平方キロ)
当時はその国立公園局の前身が機能しており、海外からの観光客を迎えるための正規ガイドの養成や、公園警察がパトロールを行っていました。それでも人数が全然足りなくて密猟や伐採はまだまだ防ぐ事のできない状態だと。特にコモエは隣国からの密猟者も多く、密猟者を見つけてしまった場合にはこちらの命が危ない場合もあるということでライフルを持った公園警察護衛の下、1泊2日で森へと入りました。当時でさえそのような状態なのですからそれが機能してない今、状況は・・・・。
また、地方出張に行く度に道路で直径2mぐらい、長さにして50はあろうかという伐採したての大木を1本積んだアビジャンの方へ向かうトラック(絶対積載量オーバーで、大木をくくりつけている鎖が切れたらすれ違う対向車はぺしゃんこになりそうな)に何度すれ違ったことか。いったいこの木はどこで伐採してきたんだろう?樹齢何十歳の木なんだろうと思わずにはいられませんでした。
おっしゃる通り「貧困問題などの人々の生活条件に関連する分野なら関心が及ぶが、環境問題に対する経済協力となると、理解を得るのがなかなか難しいかもしれない。」だと思います。ですが手遅れになる前に、ドイツ、スイスに続き日本も手を挙げられればと願っています。
ちなみに私が一番コートジらしいと思ったのはタイです。コモエは北部なので熱帯雨林の森というよりサバンナ系(ケニアなんかとはちょっと違いますが)で、ニンバは山ですし、タイが一番熱帯雨林の密林という感じで、日光も届かないシダ類の生い茂る中、虫嫌いな私にとっては卒倒しそうなぐらい珍虫もいっぱい生息していました。重い撮影機材を担いでよくそんな中を入って行ったもんだと思います。
「魚の平均体重がこの30年で半減している。」
「野生の脊椎動物の個体数は1970年に比べて2000年には60%までにも減少している。」
現状がここまで酷いとは驚いた。排気ガスを垂れ流す、石油文明がここまで酷いとは。
乱開発、乱伐採によりすでに世界の原生林の76%が失われました。